【完】我が町、ゴダン 〜黒猫ほのぼの短編集〜

丹斗大巴

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【公園の日課】

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 ゴダンは、いつものように町を歩いていた。春の陽射しが心地よい午後。
 公園には、若い母親とスモッグを着た男の子がいた。母親は疲れた表情で、男の子は無邪気に砂場で遊んでいた。

 ゴダンは母親の足元にそっと近づいた。母親は一瞬ハッとして驚いた。だが、すぐに微笑んでゴダンの頭をなでた。

「まま、まま! ねーね、ねーね!」

 男の子が嬉しそうに駆け寄ってきた。
 撫で方が少し乱暴だったけれど、ゴダンは嫌がらずに男の子に体をなでさせた。

「人懐っこいのね……」

 母親は大人しくしているゴダンと、猫を可愛がる我が子を見て、ふっと息を吐いた。

(最近、仕事と家事で疲れていたけれど……。なんだか、ちょっと癒されたわ)

 ゴダンは寄り添うように母親の脚にすり寄り、柔らかい体を寄せた。母親はその温かさを味わうように、そっとゴダンの体をなでた。

「まま、まま、ねーねとあそびたい」
「うん、でも優しくね」
「うん」

 ゴダンは男の子の方を見ると、誘うように駆けだした。ゴダンの後を追って一緒にかけっこが始まる。ゴダンは軽やかに走り回り、男の子は笑い声を上げた。まるで、母親に代わってゴダンが男の子の相手をしてあげているかのよう。その光景を見て、母親の目には自然と涙が浮かんでいた。

「……」

 いろいろな思いが言葉にならずに、涙として流れて落ちていった。……今朝出社する夫に不機嫌に接してしまった。どんなに頑張っても作っても、子どもはちゃんとご飯を食べてくれない。二回目の洗濯物はまだ籠に山積みだし、昨日は燃えるゴミを出しそびれてしまった。ネット販売しているアクセサリー作りは予約分すら進まない……。

 誰のせいでもないと分かっている。だから、母親はただただ静かに涙を拭く。
 そばのベンチに座って、ゴダンと男の子がたわむれる様子をひたすら黙って眺めた。
 やがて、遊び疲れた男の子がベンチにやって来て座り込んだ。ゴダンがそのそばに寄り添うようにして座る。母親が見ると、男の子はうとうとと眠り始めていた。母親は小さく微笑み、ベンチに座ったまま息子を優しく撫でた。

(成長してるんだ……。わたしが上手くできなくても心配ない。地球は、ちゃんと回ってるんだ……)

 目の前のことに追われていた母親は、思い出す。時と共に我が子は大きくなるし、春が来ればそのあと夏が来るようになっている。

 ゴダンは二人のそばで、まるで守護者のように寄り添っていた。

 しばらくして男の子の目が覚めると、母親と男の子はゴダンにお別れを言って家路に着いた。母親は心の中は、来たときよりも少しだけ軽くなっていた。

「ねーね、かあいかったねぇ」
「そうだねぇ」
「あしたも、くる?」
「どうかなぁ……。いるといいねぇ」

 ゴダンはその後も公園に残り、次に誰かがくると、またほんのひととき、人々に癒しを分けて与えるのだった。
 これがゴダンの日課だということは、ゴダンの他には誰も知ってはいない。


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