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第2部 成り代わりなんてありえなくない!? 泣く泣く送り出した親友じゃなくて真正のご令嬢は、私のほうでした
別の機会
しおりを挟む「エミルへ
元気にしているかい?
たった今、君の村や隣村で流感が流行っていると聞いたよ。
とっても心配だよ。君も、孤児院のみんなも、院長様も大丈夫だろうか?
結婚式の日にはみんなと無事に会えるといいんだけど。
慌ててペンを取った ジョンより」
ああ、ジョン……!
急いで手紙を送ってくれたのね。
うれしいけれど、今はそれどころではないわ……!
夜になってようやく手が空いた。
ああ、一日中働き通しでへとへとよ……!
でもきっと心配してるんだから、すぐにお返事してあげなくちゃ。
「わたしの友達がいのある友達 ジョンへ
心ぱいしてくれてありがとう。それが今、ほんとうに大へんなの。
子どもたちばかりか、大人たちまでまいってしまっているわ。
とにかく村のお医者様ひとりでは手が足りなくて、わたしも院長様も朝から晩まで手伝いにおわれているわ。
おくすりも全ぜん足りてないの。
元気な子どもたちと手分けして森をさがしているんだけど、目当てのやく草は、芽が出てまだ間もないの。
これをつんでしまうと夏にしゅうかくできなくなってしまうから、それもしんぱいよ。
となり村もじょうきょうは同じで、みんな困りはてているわ。
お医者様がこういう年はかくごしておいたほうがいいとおっしゃっていたわ。
楽しい春のはずが、これから先くるしい未来をかくごしなきゃならないなんて、とてもふさいだ気持ちになるの。
ざんねんだけど、結婚式にはきっと行けないわ。
ジューンおじょう様に行けなくてごめんなさいっていうお手紙を書かなきゃいけないなんて、ほんとうにつらい。
あなたに会えるのも楽しみにしていたのに、ほんとうにがっかりよ。
でも、今は目の前のことにぜんりょくでとりくむわ。
エミルより」
仕方ないことだわ、ジューンお嬢様の結婚式にはとうてい行けそうにない……。
お手紙を送ったあと、わたしも、子どもたちも、院長様もあきらめかけていた、そのとき。
なんということかしら……!
伯爵様がお医者様と差し向けてくださった!
たくさんのお薬、それも、隣村のひとっこひとり残らず配っても、まだ余るくらいお薬を一緒に運んだ下さったわ!
お医者様とお薬のおかげで、孤児院の子どもたちも村の人たちもみんな回復した。
ああ、本当になんて感謝したらいいのかしら。
院長様が言う事には、伯爵様からのお手紙には、今後もお薬が必要なときにはすぐに連絡してくるといいって書かれていたというの。
伯爵様って、救いの天使みたいな人ね!
いいえ、神様の目をお持ちなのかしら。
まるで、わたしたちの孤児院の状況をなんでもかんでも側で見て知っているみたいよ。
結婚式の日にまたひとつお礼を言うことが増えたわ。
ああ、結婚式まであとわずか……!
胸がウキウキしちゃう!
それから間もなくして、再びジョンが手紙を送ってきてくれた。
書き出しを読んで驚いたわ!
驚いて笑っちゃった!
ジョンったら、もう、大げさなんだから……!
「みんなの救いの天使 エミルへ
伯爵様が送った医者と薬は役に立ったそうだね。
その知らせを聞いて、僕も一安心したよ。
君の手紙を読んで、孤児院のみんなや、村人たちのために君がどれだけ頑張っているのか、まるで目に浮かぶようだったよ。
結婚式までに流感が治まりそうでよかった。
お屋敷の料理長も、たっぷり用意したローストビーフやクリームサンドケーキが無駄にはならなくて済みそうだと、ほっとしていた。
僕も君に会えるのを心待ちにしているよ。
来週が待ち遠しい ジョンより」
***
「親愛なる ジョンへ
ついに今しゅうが結婚式ね。この日をどれだけ、まちわびていたことかしら。
結婚式の日は、生きてきた中で一番のじょうとうな服をきて、ジューンおじょう様を結婚をお祝いして、伯しゃく様にたびかさなるお礼を言って、それから一生で一度のごちそうを食べて、わたしの人生でさいこうの一日になるよていだったの。
けれど、ざんねんだわ。わたしは行かないことにしたの。
昨日、孤児院にあたらしいなかまがふえたのよ。
エリーとマイク。おんなじまき毛をしているからきっとふたごよ。名まえは院長様がおつけになったわ。
ふたりはひどく体がよわっていて、街までつれて行くことはできないし、乳のみ子だからだれかがそばについて、村人にお乳をわけてもらいに行かなきゃならないの。
あなたに会えなくなってしまったことも、ほんとうにざんねん。
ジョンがたくさんお手紙を書いてくれたから、今ではわたし、あなたのことしんゆうみたいに思っているのよ。
ちょくせつ会って、もっといろんなことをおしゃべりしたかったわ。
ほんとうにざんねんよ。
だけど、エリーとマイクがいのちのともしびを失う前に、ここへ来られてほんとうによかったと思うわ。
だから結婚式の当日は、この子たちのめんどうをみながら目をとじて、ジューンおじょう様の晴れすがたをそうぞうするわ。
あなたはお手紙になにからなにまですっかりすべて書いて送ってね。
楽しみにまっているわ!
あなたのお手紙をまっている エミルより」
街へ野菜を売りに行くおじさんに、お手紙を託したわ……。
ああ、本当に残念ね……。
この機会を逃したら、きっと貴族のお屋敷で行われる結婚式に出るなんて幸運、二度と訪れるわけないわね。
でも……。
おお、よしよし。
エリー、だんだんほっぺが血色よくなってきたわね。
マイク、だめよ、わたしの髪の毛は食べちゃだめ。
今はなによりこの子たちを助けることがわたしの役目よ。
ジューンお嬢様には、行けないことの謝罪と、目いっぱいの祝福のお手紙を送ったわ。
わたしの知っている喜びとお祝いの言葉を全部連ねたけど、まだ書き足りなかった。
ああ、この気持ちを全部そのままに書き表せられるくらいになりたいわ。
ジョンとのお手紙のやり取りで、読む方はだいぶ慣れてきたけれど。
ジョンに会ったらお礼を言おうと思っていたんだけど。
それはまた別の機会になりそうね……。
「さあ、みんな、お湯を沸かして全員湯あみをしなければ。エミル、手伝ってちょうだい」
「はい、院長様!」
「うへぇ~っ、俺は汚くないぞ!」
「ぼ、僕も大丈夫」
「何いってるの、伯爵様からもらった上等な服を着て行くんでしょ? 頭のてっぺんから足の指の爪の先っぽまできれいにしなきゃ失礼よ!」
「そぉよ! 男の子ったらだらしないんだから」
「エミル、あたしの髪乾かすとき、櫛でとかしてくれる?」
「あたしも~!」
「もちろんよ。みんな薪を運ぶのを手伝って!」
「あ~いっ!」
「おーっ!」
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