25 / 89
第2部 成り代わりなんてありえなくない!? 泣く泣く送り出した親友じゃなくて真正のご令嬢は、私のほうでした
その日は突然訪れた
しおりを挟むその日は突然訪れたの!
「私はウィズダム伯爵の使いで参った者。昔この孤児院に託された女児を探している。
彼女はリーズン家の令嬢で、十三年前の国家騒乱の折、身の危険を感じた乳母がここへ預けていくしかなかったのだ。
院長には話を聞いている。君がエミル、そして、君がジューンだね。
そなたらのどちらかがリーズン家の令嬢に間違いあるまい。さて、一体どちらがそうであるか……」
これを待ってたわ! それはわたし! 絶対、わたし!
いつか誰かがわたしを迎えに来る、そう信じてたの!
ついにその時が来たのだわ!
くすっ! 見て、みんなの顔!
「ほらね、ジューン! 言ったでしょう? いつか本当の家族が迎えに来るって。
それが今現実になったのよ!」
「す、すごいわ、エミル……。あなたの言ってたこと、本当だったのね……」
「うそだろ、やったな! でも、マジかよ、信じらんねぇよ!」
「エミルおねぇちゃ、おひめしゃまなの?」
「お姫様じゃなくて、お嬢様なんだって!」
「今まで嘘つき呼ばわりしてごめんな……」
「おとぎ話みたいよ、エミルが本物の貴族様だなんて!」
「あいたっ! ほっぺたつねったら痛い!」
「僕もだ! ゆ、夢じゃないよぉ~!?」
「みんなが驚くのも無理ないわ。だって普通だったらまずありえないことだもの。
だけどわたしは信じてた! この孤児院だけで終える人生じゃないってわかっていたの!」
使者のおじ様と院長様が顔を合わせてなにか話しているわ……。
きっと出発の日を相談しているのね。
「エミル、ジューン、あなたたちはしばらく子どもたちを見ていてちょうだい。私はもう少しこちらの方とお話しますから」
「わかりました、院長様! さ、行くわよ、みんな!」
「はい、院長様」
うふふっ、みんなのわたしを見る目が変わったわ。
今まではどんなにわたしが、いつかわたしを高貴な身分の人か、裕福な商人かが探しに来るといっても、みんなちっとも真剣に聞いていなかった。
でも、これで正真正銘わたしの言っていたことが本当だったということが明らかになったわ。
うふふふっ、ああ、なんていい気分かしら!
***
「さて、それで院長殿、孤児が預けられた記録にはどのように記されておりますかな?」
「ええ、記録はここに。でも、エミルもジューンも、寒い冬の夜、生まれたばかりの赤子の姿でここに託されました。
二人とも髪の色も目の色も同じですし、判別がつきませんわ。
違うといえば、性格は大きく違いますけれど……」
「確かに、二人の印象は全くの真逆のようでしたな。エミルは快活で明るく、ジューンは大人しい」
「ええ。エミルは子どもたちの世話をよくしてくれてとても慕われていますわ。
ジューンは物静かな子ですけれど、聖典をひとりで通読できるほど聡明な子なんですの」
「ほう……。するとエミルの識読や作法のほうはどうです?」
「お世辞にも得意とは言えませんわ。そういうことはジューンのほうが理解が早いですわ」
「なるほど……。実を言うと、ウィズダム伯爵はリーズン家のご令嬢を妻に迎えるおつもりです」
「……えっ、なんですって?」
「騒乱の間、国外へ亡命していたウィズダム家ですが、先の大粛清の後、新しい国王陛下にその影響力を求められ、再びセントライト王国に復籍することになりました。
復籍するにあたり、ウィズダム家は亡命先とセントライト国とで本家と分家に別れたのですが、亡命先では長男のイーロン様が、セントライト王国では次男のアーロン様がそれぞれに爵位を継ぐことになりました。
国が荒れに荒れたその間に、多くの貴族たちが力を失い、リーズン家もまた散り散りになりました。ウィズダム伯爵のご母堂様はリーズン家の出であり、その生家が絶えてしまったことを大変お嘆きでいらっしゃるのです」
「……ということは、エミルかジューンのどちらかが、アーロン・ウィズダム伯爵の伯爵夫人に……」
「人づてにリーズン家の行方を探しつづけていたご母堂様たっての願いなのです」
「ことは重大ですわね……」
「しかし、性格意外に違いのない二人の少女のどちらが令嬢であるか……。それを確かめるすべがない。
それに、実を言うと私は、孤児院で育った娘が伯爵家でやっていけるのかと杞憂もしています」
「ご心配は驚くに値しませんわ……。
どちらかといえば、ジューンのほうが賢く性格も物静かですから、高貴な人々の暮らす環境にも順応できるかもしれません。
エミルは……」
「そういえば、彼女はいつか迎えが来ると妙な自信があったようですが」
「ええ、あの子は物心ついたときからあのようなことを口にする子でした。
貧しい孤児院暮らしの憂さを晴らすために言っているのだと思っていました」
「彼女が夢を抱くに至る記憶や持ち物でも?」
「聞いておりませんわ。あの子がここへやって来たのは赤子の時ですし、その赤子を受け入れた当時の院長はもう他界しましたから」
「でしたら、これはどうにもはっきりはいたしませんな」
しばらくの沈黙の後、使者は言った。
「それでは、ジューンを引き取ろう」
「それがよさそうですわ」
* お知らせ * こちらも公開中! ぜひお楽しみください!
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

【短編】お姉さまは愚弟を赦さない
宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。
そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。
すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。
そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか?
短編にしては長めになってしまいました。
西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる