10 / 89
第1部 婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて今はとっても幸せです
五家の誓い(2)(三人称)
しおりを挟む
――メゾシニシスタ王国、王宮、大庭園を見降ろすバルコニー。
「はっはぁ、集ってるなぁ、トンマーゾ!」
「はい、どのご令嬢も花のように美しゅうございますなぁ。
きっとこの中に殿下の運命の女性がいらっしゃることでしょう」
「う~ん、ユニコーン邸の黒バラというのは、どの令嬢のことだ?」
「プレモロジータ家からは辞退の申し出を受けております」
「なんだ、随分評判がいいから期待していたのに」
「伯爵家の養女とはいえ、もとは孤児でございますから。
身の程をわきまえたのでございましょう」
「じゃあ、コルテジア家自慢の娘とやらは?」
「あの茶色い髪に赤いドレスの美貌のお方です」
「ほう、なかなか!」
「お隣は、サジェッツア家の才女ジュスティーナ嬢ですね」
「おお、十三歳で学問のすすめを読破したという! 思ったより愛らしい顔をしているな」
「どちらも社交界では大変評判のよいご令嬢です。
幼いころはなにかとトラブルが多いふたりでしたが、プレモロジータ家のご令嬢と知り合ってから、関係は良好だそうです」
「ふぅ~ん、我が国に生まれた五つの美徳か……。よし、決めたぞ、トンマーゾ! まずはあのふたりに会う!」
「はっ、承知いたしました」
濃茶の縮毛を後ろになでつけ、精悍な面差しにはくっきりとした意志の強い黒い瞳。
青年らしくも張りのある体躯をドレスコートで包み、立派なあごに、口元には軽快な笑み。
次期王位継承者であるヴァレンティーノ皇子が足取りも軽く大庭園へと向かった。
***
――日が傾き、盛況のうちに幕を閉じた茶会。
上着を預けて、ヴァレンティーノは自室のソファに腰を掛ける。
「うーん」
「殿下、どのご令嬢とも大変お話がはずんていらっしゃいましたが、いかがでございましたか?」
「コルテジア家の娘とサジェッツア家の娘、どちらかがいいと思う」
「左様にお気に召されましたか!」
「だが……」
「はい?」
「アルベルティーナもジュスティーナも揃ってプレモロジータ家の令嬢のことを口にしていた。一番の親友だとな」
「はい、確かに」
「……こういうのはどうだろう?」
トンマーゾがぎくり、と初老の白い髭を震わせた。
皇子が斜め上にこの従者を見上げるとき、それは大抵波乱を巻き起こす前触れだった。
「アルベルティーナとジュスティーナ、どちらも妃にふさわしい家格と素質を備えている。
アルベルティーナは類まれな美貌と完璧な身の振るまい。他を圧倒する魅力がある。
ジュスティーナは貴族界でも名の知れた才女。それに女性としてもなかなか魅力的。
正直、どちらにしようか迷っている。――そこでだ!
ふたりの親友だというプレモロジータ家の令嬢に、こっそりと本性を聞いてみようと思う!」
「でっ、殿下……! そ、それはあまりに……」
「隠れて本性を探るなどとは品がないといいたいのか」
「殿下……!」
「念入りに準備された茶会の態度を見ただけでは、相手の底はわからんだろう。
俺はこういう性格だ。向こうだって、俺のことを将来が約束された皇子というぐらいにしかわかってないだろう。
準備をしろ、トンマーゾ! 明日、ユニコーン邸の黒バラに会いに行く!」
「はっはぁ、集ってるなぁ、トンマーゾ!」
「はい、どのご令嬢も花のように美しゅうございますなぁ。
きっとこの中に殿下の運命の女性がいらっしゃることでしょう」
「う~ん、ユニコーン邸の黒バラというのは、どの令嬢のことだ?」
「プレモロジータ家からは辞退の申し出を受けております」
「なんだ、随分評判がいいから期待していたのに」
「伯爵家の養女とはいえ、もとは孤児でございますから。
身の程をわきまえたのでございましょう」
「じゃあ、コルテジア家自慢の娘とやらは?」
「あの茶色い髪に赤いドレスの美貌のお方です」
「ほう、なかなか!」
「お隣は、サジェッツア家の才女ジュスティーナ嬢ですね」
「おお、十三歳で学問のすすめを読破したという! 思ったより愛らしい顔をしているな」
「どちらも社交界では大変評判のよいご令嬢です。
幼いころはなにかとトラブルが多いふたりでしたが、プレモロジータ家のご令嬢と知り合ってから、関係は良好だそうです」
「ふぅ~ん、我が国に生まれた五つの美徳か……。よし、決めたぞ、トンマーゾ! まずはあのふたりに会う!」
「はっ、承知いたしました」
濃茶の縮毛を後ろになでつけ、精悍な面差しにはくっきりとした意志の強い黒い瞳。
青年らしくも張りのある体躯をドレスコートで包み、立派なあごに、口元には軽快な笑み。
次期王位継承者であるヴァレンティーノ皇子が足取りも軽く大庭園へと向かった。
***
――日が傾き、盛況のうちに幕を閉じた茶会。
上着を預けて、ヴァレンティーノは自室のソファに腰を掛ける。
「うーん」
「殿下、どのご令嬢とも大変お話がはずんていらっしゃいましたが、いかがでございましたか?」
「コルテジア家の娘とサジェッツア家の娘、どちらかがいいと思う」
「左様にお気に召されましたか!」
「だが……」
「はい?」
「アルベルティーナもジュスティーナも揃ってプレモロジータ家の令嬢のことを口にしていた。一番の親友だとな」
「はい、確かに」
「……こういうのはどうだろう?」
トンマーゾがぎくり、と初老の白い髭を震わせた。
皇子が斜め上にこの従者を見上げるとき、それは大抵波乱を巻き起こす前触れだった。
「アルベルティーナとジュスティーナ、どちらも妃にふさわしい家格と素質を備えている。
アルベルティーナは類まれな美貌と完璧な身の振るまい。他を圧倒する魅力がある。
ジュスティーナは貴族界でも名の知れた才女。それに女性としてもなかなか魅力的。
正直、どちらにしようか迷っている。――そこでだ!
ふたりの親友だというプレモロジータ家の令嬢に、こっそりと本性を聞いてみようと思う!」
「でっ、殿下……! そ、それはあまりに……」
「隠れて本性を探るなどとは品がないといいたいのか」
「殿下……!」
「念入りに準備された茶会の態度を見ただけでは、相手の底はわからんだろう。
俺はこういう性格だ。向こうだって、俺のことを将来が約束された皇子というぐらいにしかわかってないだろう。
準備をしろ、トンマーゾ! 明日、ユニコーン邸の黒バラに会いに行く!」
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

【短編】お姉さまは愚弟を赦さない
宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。
そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。
すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。
そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか?
短編にしては長めになってしまいました。
西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる