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非業の死、のち第二の生(3)
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すっかり荷造りを調えて迎えの馬車を待つそのとき。
少しだけ考えた。
あれから、なにがあったんだろう……。
亡命ということは、お父様たちも命を危険を感じたということ。
私が処刑された後も、アドルフ様は己を振り返ることなく、勝手気ままに振舞ったんだろうか。
ラルフ様がそれをお止めすることも、無理だったということなのだろう……。
セントライトの王家は絶対王。
初代王は、戦を平定したのち、当時の仲間だった五人から永久の忠誠の『誓い』を戴き、満場一致で王に選ばれたという。
その五人はのちに五大伯爵家と呼ばれ、他の貴族よりも数段上の格式と圧倒的な権威を持つことになった。
サーフォネス家は、思いやりの心。
ジャスティス家は、正義の心。
コートシー家は、礼節。
ウィズダム家は、智慧。
親友リサのシンセリティ家は、誠実な心。
それぞれに五つの美徳を持った伯爵家に認められた国王、それが絶対王。
けれど、突然倒れられたルーイ国王陛下に代わってアドルフ様が執権を握った。
結して破られない『誓い』が破られた。
この『誓い』がただの書面や言葉の羅列ではないことは、王家と五大伯爵家だけが知っている……。
私も婚約するときにアドルフ様に向かって『誓い』を暗唱した。
昨晩、ひとりになって、私は『誓い』を暗唱してみようと思いたった……。
「我ミラ・サーフォネスは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。
我が真心は、人を愛し思いやる心。
この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。
絶対王は永久に人を愛し思いやる心を失わず、この国の王としてあり続けるだろう」
当たり前にすっかり覚えていた。
暗唱し終わったときには胸がぽかぽかと温かくなり、ほのかな光が私を包んだ。
この光こそが、絶対王に捧げる真心そのもの。
『誓い』の儀式をすると、この光が絶対王の元に渡される。
なのに、光がまだ私のところにあるということは……。
やっぱり私が未熟だったんだ……。
心を込めてアドルフ様にお仕えしてきたつもりだったけれど、真心が届いていなかったんだ。
だからきっとあんなことに……。
アイリーン・ロー男爵令嬢は見目麗しい方だったけれど、とても狡猾な知略家だった。
ロー男爵は手段を択ばず貴族界でのし上がろうとしているから、気を付けなさいとお父様にもいわれていた。
いつかはきっとわかりあえると信じて、何度も何度も語り掛けて来たのに……。
それが結局、お父様、お母様、お兄様まで巻き込んでしまったのだわ……。
代々伯爵家の名誉と誇りを守ってきたご先祖様や、領地の民を捨てて他国へ逃げ延びなければいけなかったなんて……。
ああ……! 謝ってもとても謝り切れない……。
その夜はひたすら泣いた。
お父様とお母様とお兄様のことを思うと、胸が張り裂けそうで……。
この二十一年を、どんな思いで過ごしてきたか、どれだけたくさんのものを失ってしまったのか……。
処刑された日の悲痛な表情が頭によみがえる。
なんという親不孝者かしら。
愛する人たちをどれほど傷つけて、悲ませてしまったのだろう。
謝りたい……。
会って、私のせいでごめんなさいと心から謝りたい。
けれど、今生ではそれは叶わぬ願い。
今の私は数多いる孤児のひとり。
ミラの時は金色の巻き毛に目は青緑。
今は黒い直毛に黒い目。
全然似ても似つかない。
前世の記憶があるなんていったら、頭がおかしいと言われて、追い返されるに決まっている。
……だから、本当のことは話してはならない。
使用人としてお父様とお母様とお兄様に誠心誠意お仕えしよう。
思いの分だけ心を込めて……!
すっかり荷造りを調えて迎えの馬車を待つそのとき。
少しだけ考えた。
あれから、なにがあったんだろう……。
亡命ということは、お父様たちも命を危険を感じたということ。
私が処刑された後も、アドルフ様は己を振り返ることなく、勝手気ままに振舞ったんだろうか。
ラルフ様がそれをお止めすることも、無理だったということなのだろう……。
セントライトの王家は絶対王。
初代王は、戦を平定したのち、当時の仲間だった五人から永久の忠誠の『誓い』を戴き、満場一致で王に選ばれたという。
その五人はのちに五大伯爵家と呼ばれ、他の貴族よりも数段上の格式と圧倒的な権威を持つことになった。
サーフォネス家は、思いやりの心。
ジャスティス家は、正義の心。
コートシー家は、礼節。
ウィズダム家は、智慧。
親友リサのシンセリティ家は、誠実な心。
それぞれに五つの美徳を持った伯爵家に認められた国王、それが絶対王。
けれど、突然倒れられたルーイ国王陛下に代わってアドルフ様が執権を握った。
結して破られない『誓い』が破られた。
この『誓い』がただの書面や言葉の羅列ではないことは、王家と五大伯爵家だけが知っている……。
私も婚約するときにアドルフ様に向かって『誓い』を暗唱した。
昨晩、ひとりになって、私は『誓い』を暗唱してみようと思いたった……。
「我ミラ・サーフォネスは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。
我が真心は、人を愛し思いやる心。
この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。
絶対王は永久に人を愛し思いやる心を失わず、この国の王としてあり続けるだろう」
当たり前にすっかり覚えていた。
暗唱し終わったときには胸がぽかぽかと温かくなり、ほのかな光が私を包んだ。
この光こそが、絶対王に捧げる真心そのもの。
『誓い』の儀式をすると、この光が絶対王の元に渡される。
なのに、光がまだ私のところにあるということは……。
やっぱり私が未熟だったんだ……。
心を込めてアドルフ様にお仕えしてきたつもりだったけれど、真心が届いていなかったんだ。
だからきっとあんなことに……。
アイリーン・ロー男爵令嬢は見目麗しい方だったけれど、とても狡猾な知略家だった。
ロー男爵は手段を択ばず貴族界でのし上がろうとしているから、気を付けなさいとお父様にもいわれていた。
いつかはきっとわかりあえると信じて、何度も何度も語り掛けて来たのに……。
それが結局、お父様、お母様、お兄様まで巻き込んでしまったのだわ……。
代々伯爵家の名誉と誇りを守ってきたご先祖様や、領地の民を捨てて他国へ逃げ延びなければいけなかったなんて……。
ああ……! 謝ってもとても謝り切れない……。
その夜はひたすら泣いた。
お父様とお母様とお兄様のことを思うと、胸が張り裂けそうで……。
この二十一年を、どんな思いで過ごしてきたか、どれだけたくさんのものを失ってしまったのか……。
処刑された日の悲痛な表情が頭によみがえる。
なんという親不孝者かしら。
愛する人たちをどれほど傷つけて、悲ませてしまったのだろう。
謝りたい……。
会って、私のせいでごめんなさいと心から謝りたい。
けれど、今生ではそれは叶わぬ願い。
今の私は数多いる孤児のひとり。
ミラの時は金色の巻き毛に目は青緑。
今は黒い直毛に黒い目。
全然似ても似つかない。
前世の記憶があるなんていったら、頭がおかしいと言われて、追い返されるに決まっている。
……だから、本当のことは話してはならない。
使用人としてお父様とお母様とお兄様に誠心誠意お仕えしよう。
思いの分だけ心を込めて……!
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