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第27話 事件整理②

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|No.|被害者|発見日時      |屍鬼化|発見場所           |
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
| 1 |女性 |2月中旬      | × |I県、三県の県境の林の中   |
| 2 |女性 |2月下旬      | ○ |C県             |
| 3 |男性 |3月中旬      | × |S県             |
| 4 |女性 |4月中旬      | ○ |C県             |
| 5 |野々宮|5月9日       | × |時峰川I県側河川敷      |
|   |   |(殺害:4月29日?)|   |(殺害現場は野々宮法律事務所)|
| 6 |優奈 |5月8日       | ‐ |S県(自宅マンション近く)  |
| 7 |男性 |6月22日      | × |I県             |
| 8 |女性 |7月7日       | ○ |時峰川C県側河川敷      |
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 手書きにしては綺麗でシュッとした表が書き上がる。
 完成したそれを覗き込んでいた優奈は、思わず口を開いた。

「……こうして見ると、屍鬼になってるのは女性ばかりなんですね。吸血鬼化って男女で差があったりするんですか?」
「ない」

 振り返って見た新はキッパリと言い切った。

「女が多いのは真垣の趣味だろ。女を侍らせたい願望でもあるんじゃないのか? ……でもそうすると、被害者に男が交じってるのも違和感があるな」

 何か気付いたことがあるのか、口元に手を当てて新が考え込む。

「肝心の真垣だけど」

 帆理が言った。優奈は視線を戻す。

「五月八日――事件発覚の朝に事務所を訪れていたとして、一度署の方で取り調べをしている。ただ野々宮さんが殺害されたとされる、四月最後の土日のアリバイは半々だ。二十九日はアリバイなし。三十日は奥さんの綾子さんと一日中出かけている。これは映画の半券や、立ち寄った店の店員からの証言がある。美人な奥さんだからよく覚えている、と」

「……犯行も可能だけど、確証もないってことですね」

「そうだね。その後は屍鬼事件の重要参考人として尾行を付けているけど――これもアリバイがあったりなかったり。目立って怪しい行動は、今のところない……強いて言うなら、何度か捜査員が真垣を見失ってる点かな。ただこれに関しては、いずれも人通りの多いところでのことのため、真垣が尾行に気付いて捜査員を撒いているとは断定できないんだ」

「うーん……」
 完全にアリバイがないのも、あるいはその逆であるのも怪しい。中途半端なところが、妙にリアリティがあった。

 思考を巡らせてみるが、何か助言できそうなことが見つからない。優奈はただの一般人だし、こういった事件に遭遇するのも初めてだった。

「――というのが現状なんだけど、どうだろう。優奈ちゃんから見た真垣について、良ければ聞かせて欲しい。特に、真垣は優奈ちゃんにストーカー行為をしていたというし……優奈ちゃんは気付かなかったの?」
「え、えーと……」

 突然話の矛先を変えられ、優奈は慌てて記憶を掘り起こす。
 しかし――

「その、付きまとわれたり、郵便物を抜かれたりみたいなことは特になかったので、ストーカーと言われてもピンとは……その、正直、誰かに付けられているかな、みたいなのは、昔から何回かあったので、実被害がない限りあまり気にしても仕方ない精神だったので……」

「……お前、案外豪胆だよな」
「褒めてるんですか貶してるんですか」
「どっちも」

 嘆息交じりの新の一言に、優奈は思わず噛みついてしまう。
 機を取り直して、優奈は帆理に向き直った。

「多分、警察の方でも調べは付いてると思うんですけど……真垣さんは最初、うちに離婚の依頼をしに来たんです。奥さんが浮気をしたとかで。ただ調停離婚ではなく、協議離婚を望んでました。奥さんにも何度かお会いして、話をして。でも、その依頼もある時突然、『妻と和解したから取り下げたい』と言ってきたんです」

「時期は、依頼申し込みが一月の年明けすぐと、取り下げが二月上旬で間違いない?」

「合ってます」
「二月か……」

 それは、屍鬼事件が始まった月でもある。気になるのだろう。
 難しい顔をする帆理に、優奈はとりあえず話を続けた。

「以降はその縁で、真垣さんの会社の顧問弁護士をお願いされてたんですよね。なので、一ヶ月に一回、多い時は二回ぐらい挨拶に来ていました。なんでも、野々宮先生とお酒の話で意気投合したようで、よくワインを持ってきていました」

「真垣の様子は覚えてる? 最初に依頼に来た時とか、取り下げに来た時とか、その後でも構わない」
「うーん……」

 優奈は考え込む。

「落ち着いた人だな、とは思いました。離婚依頼は私も何度か携わったことあるんですけど、結構感情的になってる依頼者の方が多くて。真垣さんは最初から淡々とした感じでした。あ、でも取り下げに来た時は、妙にスッキリした感じでした」

「スッキリ?」
「はい。スッキリというか、晴れやかというか、なんか幸せそうな感じでした」

 何か気になったのだろうか。それきり帆理は黙り込んでしまった。
 質問は隣から飛んできた。

「お前、真垣に気に入られるようなこと、したのか?」
「してないですよ。普通にお茶出したり世間話したりぐらいの、一般的な接客対応しかしてません。……多分」
「多分って、お前なぁ……」

 盛大な嘆息が吐き出される。

「お前……どーせいつも通りニコニコニコニコ愛想笑い振りまいてたんだろ」

「愛想笑いって何ですか。お客さんに仏頂面で接するわけないじゃないですか」

「そーいう無駄な愛想が変態に勘違いさせる原因になるんだよ。どーせ、過去のことだって外面の良さのせいだろ。お前、見た目は小さくて可憐な女の子~見たいに見えるんだから。だから変なの引っかけるんだよ。二十六歳にもなって。もっと大人っぽくしろ、童顔」

「どっ……! 似合うならそういう格好してます!」

「まぁまぁ、どうどう」

 一触即発。剣呑な空気に、帆理が間に入り、場を収めようとする。

「あっ、ゆ、優奈ちゃん、お茶! お茶のお変わり貰っても良いかな? 一気に喋ったから喉渇いちゃって。ね?」

 頬に汗を垂らしながら、帆理が微笑む。その焦りつつもキラキラした笑みを傍らに、今にも噛みつきそうな様子で睨み合いを続けること――数秒。ふんっと優奈は鼻を鳴らし、新からそっぽを向いて立ち上がった。

 その背に、呑気に話しかける者が一人。

「ユウ、俺もコーヒーおかわりなー」

 絶対熱湯で淹れてやると、優奈は決意した。
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