妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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伍/見えない道先の概算

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 結局、俺は彼女に見たものの本質を聞くことは出来なかった。言葉に吐いて聞いてしまえば失望してしまいそうだったから。そのせいで疑いを装って彼女の振る舞いを見ることばかりしている。

 どこか俺を遠ざけようとしていないか、忌避の視線で捉えられてないか、何かそれを悟らせるような行動をとるだろうか、そんなことを考えながら彼女に視線を当て続ける。だが、その甲斐が生まれることなく、彼女はいつも通りを演出していた。

 ――そもそも、俺は彼女のいつも通りを知らない。

 中学生の時であれば相応の振る舞いをしていると思う。だが、高校生になってからの彼女を、俺は知らない。

 だから、彼女を見つめたところで生まれるものは何もなく、何かしらあったとしても俺に気づけるものではない。そんなことに気づいてから、俺は静かにため息を吐くだけだった。

 どうでもいい思索にふけっていると、皐は毎日の繰り返しのように夜ご飯を作る。そういえばコンビニで俺は何も買っていなかったから、今更になって空腹であることに気がついた。

「わたしも手伝うよ」

 愛莉はそう言って、皐のいる台所に向かう。皐は一度それを断ったけれど「いいから!」と人の意を介さないような愛莉の言葉に「それじゃお願い」と受け入れた。





「決め事がいろいろあるね」

 夕食とは言えない夜食を食べ終わると、皐はそう言葉を吐いた。俺はなんのことか分からないまま、とりあえず適当に頷く。愛莉も同調するようにコクコクと首を頷かせた。

「……それで決めることって?」

「いや、ほら、あいちゃんが寝る場所とか」

「……ああ」

 皐は言葉を続ける。

「あいちゃん、いつまでこっちにいるか分からないし、早めにというか、きちんと決めるべきなのです」

「別にそれだったら――」と俺は言葉を返そうとして、止まってしまった。

 それだったら、俺は皐の布団で眠ればいい。そう言葉を吐こうとしたけれど、それは肯定されるべきものだろうか。不自然ではないだろうか。そう思えて仕方がない。

 止めた言葉の後に「俺は畳で寝るよ」と返す。言葉の中に挟まった一瞬の間は不自然だったかもしれないが、愛莉は特に疑うことなかった。

「いや、それは流石に悪いよ。翔也、仕事してるんでしょ? 睡眠は身体の資本だよ、悪影響があったら嫌だよ」

 ……正直、この状況こそが眠れない原因になりそうだよ、とは言えない。俺は「大丈夫だよ」とだけ返す。その言葉に皐の「大丈夫」が重なる。

「私たち、一緒に寝るよ。私は別に嫌じゃないし」

 え、と俺の戸惑う声。愛莉は、なるほど? と返した。

「さっちゃんがいいなら、それでお願いしていい? ……それか私と一緒に寝るでもいいけど」

 揶揄うように愛莉はニヤニヤとした表情でこちらを見る。俺はそれから視線を逸らすべきなのかわからない。

 ……ここは何か言葉を吐くべきなのだろうか。兄妹で寝るなんてあってはならないとか、言うべきなのだろうか。いや、それだと愛莉の言葉を受けいれなければいけなくなる。

「……いいや、それなら俺はに皐と寝ることにするよ。皐がいいなら、な」

「なーんだ残念」

 愛莉は露骨に口を尖らせる。俺はそれに苦笑した。





 それからは適当とも言える決め事をした。あまり俺が関係ないことを彼女たちは話し合っていた。お風呂に関連する決め事、着替えに関連する決め事、パソコンの決め事。主に愛莉の貞操というか、彼女のプライベートに侵食しない決め事。

「私は別にいいんだけどね?」

「……良くないに決まってるだろ、自分を大事にしろ」

「ほら泊めてもらう料金代わり、というか? 生JKのお着替えとか高くつくよ?」

「それなら毎日皐のものを見ているから大丈夫だ」

「なるほど? 翔也はさっちゃんに欲情してるんだー」

 ――一瞬、心臓が戸惑う。

「――そんなわけないだろ、なんだから」

 なんとか冗談めかしながら言葉を返す。

 俺がそう言うと、彼女はにへらと笑って、そらそうだー、と間延びした声で返す。

 やはり俺は苦笑するしか出来なかった。





 愛莉に関連する決め事が終わったあと、彼女は風呂、というかシャワーに入った。着替えに関しては皐のものを借りるようだった。

「覗かないでね?」

「はいはい」

 彼女の調子にも慣れ(たように振舞っているだけ)、俺は適当な言葉を吐くことが出来た。

 そうして、俺と皐の二人きり。

「……どうするんだ?」

 俺は言葉を吐いた。

「どうするって?」

「……そりゃ、いろいろ」

 もう愛莉がしばらく泊まることは確定してしまっている。だから、俺の言葉には意味が、中身がない。でも、それでも皐に言葉をなにか伝えたかった。

「大丈夫だよ」

 皐は呆れたように笑う。

「――だって、なんでしょう?」

 皐のその言葉が、俺には重くて仕方がなかった。
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