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肆/戸惑う視線と歪な構成
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❅
その後にどんな会話をしたのかは覚えていない。住宅に囲まれているあの場所で、ナンパにかなうようなお茶ができる場所は近くにない。駄菓子屋に寄ることも考えたけれど、一秒でも彼と一緒にいたかった。だから、遠回りをするようにひと気のあるモールの、ファミリーレストランの方へと足を運んだ。
道中、会話のようなものが生まれることはなかった。私自身、どんな言葉を吐けばいいのか分からなかった。せめて、目的地にたどり着くまでに思考を落ち着かせて、まともに彼と関わることができるように意識をした。
擦れる靴音が耳に触れる。私の足音が彼と重なったり、リズムを刻んだり。待ち望んでいた時間を目の前にして、その足音を聞くことでさえも心地がいいと感じた。
どくどくと流れる心臓の鼓動を感じながら、目的地にたどり着く。
その間に私が整理した思考の欠片は、パズルのように組み合わさって、ひとつの大きな意思になる。
謝りたい。彼に謝って、もう一度関係を始めたい。
すべては自分のエゴだ。彼に謝りたいのも、彼と関わりたいのも。でも、関係性なんでそうしなきゃ生まれることなんかないだろう。
すべては自分の主観だからこそ、踏み出さなければ何も始まらない。人の領域たる部分に触れることがどれだけ咎められることであっても、私はそれでも人に踏み込むことを選び続ける。
それが私の生き方だ。彼に振られてしまったあの日から忘れていたけれど、そんなズルい生き方こそが私のありようだ。
なら、そのまま私は突き通すだけ。
私は、そう覚悟を決めた。
❅
ファミレスについてから、私は言葉を紡いだ。彼の妹であるさっちゃんが私の言葉を聞いていることに少しだけ恥ずかしさを感じたけれど、以前からさっちゃんは私の想いに気づいているはずだ。そんな振舞いを彼にしていたのだ。だから、聞かれて恥ずかしいと思うのは今更でしかない。
ごめんなさい、と呟いて、心にあるひとつの隙間が埋まる感覚を覚えた。彼は私の言葉の意味が分からないようだった。それもそうだと思う。どこまでも身勝手な思い、エゴからの謝罪だ。彼に伝わるかなんて関係ない。私がそうしたいからそうしているだけ。それ以上も以下もない言葉。きっと咎められるべき行為。
でも、私は言葉を紡ぐことをやめない、やめてはいけないと思ったから言葉を紡ぎ続ける。
彼の呆然とした表情は変わらない。戸惑いの言葉が帰ってきて、それでも言葉を続ける。彼は覚えていないと言った。それほどまでにどうでもいいものだと思われていたのかもしれないし、余裕がなかったのかもしれない。正直、どちらでもいい。こうして会話することが叶っているのだ、何かを望むことはない。
私の言葉に対して、翔也はごめん、と言葉を吐いた。彼が謝るべき理由なんてないのに、それでも言葉を紡いでくれた。
その後は当時のことについて話した。彼には余裕がなかったこと、私の無遠慮さについてを語った。
昔の雰囲気を思い出して、彼と会話をする楽しさを繰り返す。
終わってしまったのならば、もしくは始まってさえいなかったのなら、新しく始めればいいだけ。
私と彼の関係性を新しく始めればいい。踏み込めばいい。行動すればいい。
もう怖がらない、立ち止まらない。私はズルいんだ。そのズルさこそが私なのだから。
❅
彼と連絡先を交換したけれど、それで満足してはいけない。
ファミレスでの会話を頭の中で繰り返す。彼は隣町の定時制の高校に通っている、と話してくれていた。今はさっちゃんも両親から離れて、一緒に暮らしながら同じ高校に通っていることを話していることも教えてくれた。
今の彼は働いているそうだ。黒髪が少し茶色がかって見えたのは太陽にあてられたから、と話していた。中卒の身分で働ける場所はそこしかない、と彼は目を伏せながらそう言った。私は彼が今日という日まで頑張っていたことを知った。彼に対して関わりたいという気持ちもあったけれど、彼に対して何かをしてあげたいという気持ちもあった。
働く、ということがどういうものなのかはわからない。でも、相応に苦しさを伴うものだ。それも普通の高校生とは違う生活、彼と同じような境遇の人も少なくはないだろうけれど、そんな苦しみの中にいる彼を助けたいと思った。
きっと、さっちゃんも大変なんだ。
踏み込むことで、彼らの生活を助けてあげたい。不純な気持ちでしかないけれど、心の底からそう思っているのだ。
こんなことを提案すれば、彼はやんわりと断るのだろう。そんなのは目に見えている。大事なのは勢いと強引さ。有無を言わせぬ行動。それ以外にはない。
だから、私は行動することにした。
そうして、彼との、彼らとの新しい生活が始められるように。
その後にどんな会話をしたのかは覚えていない。住宅に囲まれているあの場所で、ナンパにかなうようなお茶ができる場所は近くにない。駄菓子屋に寄ることも考えたけれど、一秒でも彼と一緒にいたかった。だから、遠回りをするようにひと気のあるモールの、ファミリーレストランの方へと足を運んだ。
道中、会話のようなものが生まれることはなかった。私自身、どんな言葉を吐けばいいのか分からなかった。せめて、目的地にたどり着くまでに思考を落ち着かせて、まともに彼と関わることができるように意識をした。
擦れる靴音が耳に触れる。私の足音が彼と重なったり、リズムを刻んだり。待ち望んでいた時間を目の前にして、その足音を聞くことでさえも心地がいいと感じた。
どくどくと流れる心臓の鼓動を感じながら、目的地にたどり着く。
その間に私が整理した思考の欠片は、パズルのように組み合わさって、ひとつの大きな意思になる。
謝りたい。彼に謝って、もう一度関係を始めたい。
すべては自分のエゴだ。彼に謝りたいのも、彼と関わりたいのも。でも、関係性なんでそうしなきゃ生まれることなんかないだろう。
すべては自分の主観だからこそ、踏み出さなければ何も始まらない。人の領域たる部分に触れることがどれだけ咎められることであっても、私はそれでも人に踏み込むことを選び続ける。
それが私の生き方だ。彼に振られてしまったあの日から忘れていたけれど、そんなズルい生き方こそが私のありようだ。
なら、そのまま私は突き通すだけ。
私は、そう覚悟を決めた。
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ファミレスについてから、私は言葉を紡いだ。彼の妹であるさっちゃんが私の言葉を聞いていることに少しだけ恥ずかしさを感じたけれど、以前からさっちゃんは私の想いに気づいているはずだ。そんな振舞いを彼にしていたのだ。だから、聞かれて恥ずかしいと思うのは今更でしかない。
ごめんなさい、と呟いて、心にあるひとつの隙間が埋まる感覚を覚えた。彼は私の言葉の意味が分からないようだった。それもそうだと思う。どこまでも身勝手な思い、エゴからの謝罪だ。彼に伝わるかなんて関係ない。私がそうしたいからそうしているだけ。それ以上も以下もない言葉。きっと咎められるべき行為。
でも、私は言葉を紡ぐことをやめない、やめてはいけないと思ったから言葉を紡ぎ続ける。
彼の呆然とした表情は変わらない。戸惑いの言葉が帰ってきて、それでも言葉を続ける。彼は覚えていないと言った。それほどまでにどうでもいいものだと思われていたのかもしれないし、余裕がなかったのかもしれない。正直、どちらでもいい。こうして会話することが叶っているのだ、何かを望むことはない。
私の言葉に対して、翔也はごめん、と言葉を吐いた。彼が謝るべき理由なんてないのに、それでも言葉を紡いでくれた。
その後は当時のことについて話した。彼には余裕がなかったこと、私の無遠慮さについてを語った。
昔の雰囲気を思い出して、彼と会話をする楽しさを繰り返す。
終わってしまったのならば、もしくは始まってさえいなかったのなら、新しく始めればいいだけ。
私と彼の関係性を新しく始めればいい。踏み込めばいい。行動すればいい。
もう怖がらない、立ち止まらない。私はズルいんだ。そのズルさこそが私なのだから。
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彼と連絡先を交換したけれど、それで満足してはいけない。
ファミレスでの会話を頭の中で繰り返す。彼は隣町の定時制の高校に通っている、と話してくれていた。今はさっちゃんも両親から離れて、一緒に暮らしながら同じ高校に通っていることを話していることも教えてくれた。
今の彼は働いているそうだ。黒髪が少し茶色がかって見えたのは太陽にあてられたから、と話していた。中卒の身分で働ける場所はそこしかない、と彼は目を伏せながらそう言った。私は彼が今日という日まで頑張っていたことを知った。彼に対して関わりたいという気持ちもあったけれど、彼に対して何かをしてあげたいという気持ちもあった。
働く、ということがどういうものなのかはわからない。でも、相応に苦しさを伴うものだ。それも普通の高校生とは違う生活、彼と同じような境遇の人も少なくはないだろうけれど、そんな苦しみの中にいる彼を助けたいと思った。
きっと、さっちゃんも大変なんだ。
踏み込むことで、彼らの生活を助けてあげたい。不純な気持ちでしかないけれど、心の底からそう思っているのだ。
こんなことを提案すれば、彼はやんわりと断るのだろう。そんなのは目に見えている。大事なのは勢いと強引さ。有無を言わせぬ行動。それ以外にはない。
だから、私は行動することにした。
そうして、彼との、彼らとの新しい生活が始められるように。
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