妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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参/夢見の悪さとその答え

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 だいぶと学校へと歩く道のりについては慣れが生じてきた。一瞬、迷いそうになる感覚があった一週間前とは異なり、静かに道を切り替えることができてきている。道中のコンビニから学校までの道中、たまに変則的な道を歩いてみたりして、その中で近道になっているかもわからないものを確認してみたりして、少し遊べそうな裏の方にある個人のカラオケ店なんかを見たりして、皐と一緒に今度行こうか、なんて話をした。

 つまらなくない登校の道、やはり皐に俺は救われているような気がした。

 



「ええと、そうだなぁ」

 ホームルームが終わった後、中原は俺と皐、そして伊万里を教卓前に呼び出す。このメンツで呼び出されるということは確実に部活についての事柄であり、少し気まずそうに話をしようとする中原の姿に少しばかりドギマギしてしまう。それに比例するように、背がびくびくとしている、というか足が震えている様子の伊万里を視界に入れる。皐については特に気にしていないというように、ただ真顔で中原の顔を見つめている。

「一言で言うとね、まあ、新規の部活についてはオーケイになったんだ。うん、いいことだね」

「ほ、本当ですか?!」

 喜びの声を上げたのは伊万里だった。衝動的に声を上げてしまったのか、その声音は明るさと大きさがある。だが、次にはハッとしたように口を押える彼女の姿。それがなんとなく面白いような気がした。

「いやあ、ただね、天文部っていうのは難しくてね……。深夜まで監督する先生のブラックさについて会議でつつかれちゃったんだよね。ほら、天文部って天体観測を行う部活だろう? それのせいで、天文部、っていうのはなしになった」

 中原が気まずそうに話す理由を聞いて、俺は何となく納得するしかなかった。まあ、そうだろうな、という気持ちにしかならない。そもそも校内で行われている部活動についても、だいたいが放課後一時間程度の運営しか行われていない。最高でもそこまでしか教師が残らないということなのだけれど、天文部ということになればそれ以上に教師を拘束することになってしまう。

「僕は別にいいんだけどね。なんか周りの人が心配していてね、僕、というかきっと後続の先生の心配なんだろうけれど、来年以降も部活を続けるとなると、流石に深夜まで作業をする教師を残すわけにはいかないって、そうなっちゃった」

「……そうですか」

 とりあえず、俺は彼に対してそう言葉を吐いた。彼はいろいろと俺達のために頑張ってやってくれている。その上での結果ならば仕方がない。これ以上に迷惑をかけるわけにはいかないから仕方がない。

 傍らにいる伊万里の姿を視界に入れる。

 悲しそうなことを、隠すような口元。瞳は髪に隠れて見えないけれど、子供のように露骨に表情を作る姿が、俺には見えてしまう。

「というのが、前提の話なんだけどさ」

「……前提?」

 皐が言葉を吐く。俺は反応に遅れて、中原が話すであろう言葉の続きを待つしかできない。

「ほら、天文部ってなると恒常的に天体観測を行うみたいになるだろう。それがまずいって話なんだから、イベント形式でやった方がいいんじゃないかな、って僕は思ったんだ。ただ、それだと天文部っていう名称には嘘がついて回るし、ちょうどいい具合のものを探した結果、こうなりました」

 こうなりました、と言った後、中原は俺たちに紙を渡す。

『自然科学部 活動内容』と題目に書かれた紙。下には大きな空欄がある。

「というわけで、君たちが入る部活は『自然科学部』と相成りました、よかったね」

「ほ、本当に?」

 伊万里が震えた声を出しながら、訝し気に聞いてくる。それに対して中原はにっこりとしながら、うん、と大きく頷く。

「まあ、毎日天体観測を行うことはできないけれど、例えば七夕の日とか、十五夜の日とか、そうだなぁ、なんかクリスマスでもいいや。ともかくとして、たまにのイベントごととして天体観測を行うことはできる。その時には僕も顧問として付き添うし、君たちがしたいようにもできると思うんだ。制限があるっちゃあるけれど、これで満足してくれないかな」

「いや、十分すぎますよ中原先生……」

 俺は敬意をきちんと抱いて、そう彼に言葉を吐いた。

 今度から、心の中でも中原先生と呼ぶことにしよう。そんな思い付きが頭の中に残った。
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