妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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参/夢見の悪さとその答え

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 人との距離感について考える日は、いつまでも止まらない。止めることはできない。考えない日も存在しない。考えない日が存在してはならない。

 それが日常生活と言うものであり、もしくは社会生活とも言うべきものであり、さらには人間生活と表現するべきものであり、それは元の社会といえる氷塊であっても、解け落ちた氷のその先であっても、どこまでも逃げることはできない現実。逃げても変わらない現実。逃げることは許されない。

 それに対して恐怖感を覚えても直視しなければいけない。それに対して憂いを抱くことは人間として失格する行為でしかない。失格する行為でしかないのに、俺はどこまでも視線をそらさずにはいられない。

 気持ち悪い。どこまでも自分が気持ち悪い。人との距離感についてを考え、そうして踏み込むことに対しての抵抗感を覚えるのが気持ちが悪い。視線を逸らしたくて仕方がない。人間ではない感覚を覚えて仕方がない。解け落ちた氷にさえ成ることができていないような気がして、自分を肯定することができない。皐に対して愛を示すための行為に抵抗感を覚える。愛に形はない、本物はない、偽物はない、相似はなく、合同はない。どこまでも、何もない。だから、それを物理的な証明だと仮定、定義することで愛を呑み込んだ。そのために好意を行為として重ねた。それが、どうしようもなく傲慢であると認識してしまう。それを心地がいいと感じる気持ちも、感覚も、どこまでも気持ちが悪い。

 禁忌愛だから許されないのだろうか。そういうわけでもない。もし、これが皐以外の他人のものだったとしても、同じような思考の迷路に苛まれる。

 どこまでもとらわれる。どこまでも、どこまでもとらわれる。

『解け落ちた氷のその行く先はどこだろう』

 頭の中で、人形の声がする。

 それは、いつまでたっても反響し続けた。





「顔色が悪いな」と恭平は俺の顔を見つめて、そう言葉を呟いた。

「休めなかったのか? 結構な休みをあげたと思ったけれど」

 俺はその言葉を咀嚼して、どう言葉を返すかを迷ってしまう。

 実際、休みの期間は長いもので、久しぶりの休息に身を費やすことができた。出かけたりして、そうして気分を整えたりもした。もともとあった風邪のような体調についても整っていて、自分に関することは、どこまでも万全であるように感じる。

 でも、どこか頭痛のような声が聞こえてくる。その声の演出をしているのは自分自身であり、どこまでも自分を呪う言葉は止まらない。

「……最近、寝つきが悪いんですよ」

「……惚気話か?」

 にたにたと笑いながら恭平は聞いてくる。俺はその言葉の意味が一瞬わからなかったけれど、数秒して呑み込む。吸っていた煙草の煙を喉に焼いて、そうして咳き込む。恭平は俺のそんな様子を見てげらげらと笑った。

「若いっていいよな。でも、仕事に支障がないようにしろよな」

「それを前提にしないでくださいよ……」

 苦言を吐くしかない。でも、彼の言葉を否定することもできそうもない。間接的な要因としては、ひとつ考えられてしまうから。





 彼女と家に帰った後、彼女は俺の身体を求めてきた。彼女は俺の身体を求めてきた、だから、その欲求にこたえた。そうすることが自然だと考えたから、意識的に、無意識的にも彼女の身体を確かめた。それを愛と形容して、そうすることで俺たちは近親愛であることを改めて認識した。

「ねえ」と彼女は俺の身体の上で言葉を吐く。俺はその彼女の表情を見ることができないまま、静かに彼女の言葉を待った。

「なんで、手を離したの」

 皐は、確かにそう言葉を吐いた。確かに、そう疑問を吐いた。俺は、その言葉にどう返すべきかを考えた。

 言い訳なら無限に見つけることができる。でも、見つけたところで、それは虚偽の理由になってしまう気がする。それで納得させることもできるだろうが、俺がそうしたくなかった。だから、俺は彼女の言葉を咀嚼して、咀嚼をして、咀嚼を繰り返して、そう言葉を吐いた。

「後ろめたかったんだ」と。

「愛莉にこの関係を悟られることが後ろめたくて仕方がなかった。だから、手を離したんだ」

 正直な感情を言葉に出した。言葉に出したことで、自分の心の正体でさえ把握した。言葉に表現したことで、心が形になる感覚がした。

「ふうん」と皐はどうでもいいような声を出した。

「おしおき」と言葉を続けた。

 俺は、その言葉を受け取った。


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