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弐/偶然にも最悪な邂逅
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この季節の行く先を、私は知ることをしない。
予測することはできる。それは誰にだってできる。大体の未来というものは、自分の中にある経験則に従うように、当たり前のような一年の一周をなぞる。
それは普遍的なものであり、一年のめぐりあわせというものは、よっぽどのことがあっても変わることはない。
それほどまでに、私たち人間の干渉というものは、世界に対して小さなものだ。季節はそれを受け容れるということはどこまでもなかった。
春はあるし、夏はある。秋もあるし、冬だってある。春夏秋冬はどこであれ繰り返されていて、その行く先は、どうしようもなく私たちの今へ、いつかの未来へとたどり着く。
どこまでも変わらない。変わることはない。それに憂いを抱く必要はないし、憂いを抱くことはない。
当たり前のことなのだ、自然としたことなのだ。だから、それについて考える必要はどこまでも存在しない。
それなら、私の押し寄せてくる季節に対する感情はなんなのだろう。
どうして、私はこんなことを考え続けているのだろう。
解決もなにも存在しない、自然的な現象に、どうして私は憂いを抱こうとしているのだろう。
私の裏腹を無視するように、世界は、季節は、すべては彩にあふれている。
緑色があった、桜色がある、地面に灰色が残っている、青空が広がっている、コントラストのような白色が一部を占有している。花の色が赤として視界を刺してくる。そのどれもが美しいと感じる感性は私の中にある。
でも、どこまでも寂しさを拭うことはできない感傷に浸り続けている。
その所以を考えてみた。その所以は後悔だった。言葉を吐きだしたことへの後悔だった。彼に対して吐き出した言葉の思惑の勝手さに対する後悔だった。
いつだって、私は彼を探していた。
学校の中を探した。よく彼は図書室にいたはずだった。だから、図書室を探してみた。そこに彼はいなかった。
学校が終わって、そうして彼の家を覗いてみた。学校が終われば家に帰っていると思った。幼い頃に何度も遊びに行った家だった。だから、それは特に普通の行動だった。そこにも彼はいなかった。なんなら、彼の家族さえ存在していなかった。
どこにも彼の影は感じなかった。
最後に見たのは卒業式だった。知っている彼の名前は変遷していた。知らぬ間に変わっていた。それを彼は私に知らせることはなかった。
いや、知らせようとしてくれていたのかもしれない。知らせようとしていた時期に逃げていたのは私の方だった。
私は彼の事情を察した。事情を察して、そうして後悔の青を私の中に飾り立てた。
後悔、後悔、後悔。どこまでも取り繕うことのできない後悔。
それに浸りながら、彼を今も探し続けている。
一言、謝ることができたのなら。
そんな思いのまま、彼をどこに行っても探し続けている。
◇
「部活動か、いいねぇ」
落ち着いた口調の中で言葉を間延びさせて、中原は俺たちの質問に、ゆっくりとそう返した。
ホームルームを終わらせた教室の中には、どこまでも静けさが漂っている。人の気配もまばらであり、こちらに注目する視線がいくつかあったけれど、帰ることを優先したように目を逸らしていく。そうした結末の行く先は、担任である中原と、俺と皐と伊万里が残るという絵面であった。
「実際、部活動はやる人がいるならやれるんだよ。まあ、他の先生方は良しとしないけどねぇ」
中原は、少しばかり気まずそうに言葉を吐いた。
「ほら、部活動って正直先生方からしてみれば居残り……、というか残業そのものだからね。それを良しとする熱心な先生はあんまりいないんだよね。でも、私はその心意気には感心するよ。もし、やる気があるというのなら、人数を集めてみるのも悪くはないと思うんだ。もし、顧問になる人がいないというのなら、私が顧問をやってみてもいい。……ああ、でも外で活動する系の運動部は難しいからね。ほら、うちの高校にはナイターがないからさ」
ははは、と乾いた笑いを返しながら、中原は答える。俺たちはそれに薄ら笑いを浮かべて、相槌のような笑みを返した。
「まあ、でもバスケットボール部とか、もしくは文化系の部活なら大丈夫だと思うよ。吹奏楽については難しいだろうけれど」
「……いや、とりあえず部活動ができるなら安心しました。今はそれだけでもありがたいので、方向性が固まったらまた相談してもいいですか?」
かまわないよ、と間延びした声を中原は返して、そのまま廊下へと彼は歩いて行く。俺は最後にさようなら、と挨拶をきちんと行った。彼女らもそれに従うように声を合わせて頭を下げた。
「……というわけで、部活動は何とかなりそうだぞ」
「あ、あ、ありがとうございます!」
伊万里は中原が去った後も頭をあげないままで、感謝の言葉を呟いた。
「でも、そうだなぁ。問題というほどのものでもないんだけれど、俺たちの部活は何にしようか、というところがあるわけなんだけど」
俺がそう言うと、伊万里は小さな声で言葉を呟く。
「う、うんどうぶとかは、にがてなのでやりたくないです……」
「それなら文化系の部活だな。思いつくのだと、文芸部とか、生活部とか?」
生活部という言葉を出すと、皐が「懐かしいね」と言葉を返す。確かに懐かしいかもしれない。俺たちが通っていた中学の文化部のひとつだった部活だ。
「せ、生活部ですか?」
「うん。なんというか、家庭科の授業みたいなものを部活でやるやつなんだけど──」
「──あっ、あっ、あ、それは、だ、大丈夫です」
言葉に食い込みながら伊万里は返した。
「それなら文芸部か?」
「え、え、えと、私、やりたいことがあるん、です、け、けど」
伊万里は照れくさそうな表情をしながら言葉を呟く。
「て、てて天文部……、とか……」
なるほど、と俺は彼女の言葉に返した。
「とりあえず、そちらの方向性で活動してみることにしようか。今日はもう遅いし、明日以降にまた相談しよう」
伊万里はその声に頷いた。
方向性については定まりそうだ。俺は安堵の息を吐きだした。
この季節の行く先を、私は知ることをしない。
予測することはできる。それは誰にだってできる。大体の未来というものは、自分の中にある経験則に従うように、当たり前のような一年の一周をなぞる。
それは普遍的なものであり、一年のめぐりあわせというものは、よっぽどのことがあっても変わることはない。
それほどまでに、私たち人間の干渉というものは、世界に対して小さなものだ。季節はそれを受け容れるということはどこまでもなかった。
春はあるし、夏はある。秋もあるし、冬だってある。春夏秋冬はどこであれ繰り返されていて、その行く先は、どうしようもなく私たちの今へ、いつかの未来へとたどり着く。
どこまでも変わらない。変わることはない。それに憂いを抱く必要はないし、憂いを抱くことはない。
当たり前のことなのだ、自然としたことなのだ。だから、それについて考える必要はどこまでも存在しない。
それなら、私の押し寄せてくる季節に対する感情はなんなのだろう。
どうして、私はこんなことを考え続けているのだろう。
解決もなにも存在しない、自然的な現象に、どうして私は憂いを抱こうとしているのだろう。
私の裏腹を無視するように、世界は、季節は、すべては彩にあふれている。
緑色があった、桜色がある、地面に灰色が残っている、青空が広がっている、コントラストのような白色が一部を占有している。花の色が赤として視界を刺してくる。そのどれもが美しいと感じる感性は私の中にある。
でも、どこまでも寂しさを拭うことはできない感傷に浸り続けている。
その所以を考えてみた。その所以は後悔だった。言葉を吐きだしたことへの後悔だった。彼に対して吐き出した言葉の思惑の勝手さに対する後悔だった。
いつだって、私は彼を探していた。
学校の中を探した。よく彼は図書室にいたはずだった。だから、図書室を探してみた。そこに彼はいなかった。
学校が終わって、そうして彼の家を覗いてみた。学校が終われば家に帰っていると思った。幼い頃に何度も遊びに行った家だった。だから、それは特に普通の行動だった。そこにも彼はいなかった。なんなら、彼の家族さえ存在していなかった。
どこにも彼の影は感じなかった。
最後に見たのは卒業式だった。知っている彼の名前は変遷していた。知らぬ間に変わっていた。それを彼は私に知らせることはなかった。
いや、知らせようとしてくれていたのかもしれない。知らせようとしていた時期に逃げていたのは私の方だった。
私は彼の事情を察した。事情を察して、そうして後悔の青を私の中に飾り立てた。
後悔、後悔、後悔。どこまでも取り繕うことのできない後悔。
それに浸りながら、彼を今も探し続けている。
一言、謝ることができたのなら。
そんな思いのまま、彼をどこに行っても探し続けている。
◇
「部活動か、いいねぇ」
落ち着いた口調の中で言葉を間延びさせて、中原は俺たちの質問に、ゆっくりとそう返した。
ホームルームを終わらせた教室の中には、どこまでも静けさが漂っている。人の気配もまばらであり、こちらに注目する視線がいくつかあったけれど、帰ることを優先したように目を逸らしていく。そうした結末の行く先は、担任である中原と、俺と皐と伊万里が残るという絵面であった。
「実際、部活動はやる人がいるならやれるんだよ。まあ、他の先生方は良しとしないけどねぇ」
中原は、少しばかり気まずそうに言葉を吐いた。
「ほら、部活動って正直先生方からしてみれば居残り……、というか残業そのものだからね。それを良しとする熱心な先生はあんまりいないんだよね。でも、私はその心意気には感心するよ。もし、やる気があるというのなら、人数を集めてみるのも悪くはないと思うんだ。もし、顧問になる人がいないというのなら、私が顧問をやってみてもいい。……ああ、でも外で活動する系の運動部は難しいからね。ほら、うちの高校にはナイターがないからさ」
ははは、と乾いた笑いを返しながら、中原は答える。俺たちはそれに薄ら笑いを浮かべて、相槌のような笑みを返した。
「まあ、でもバスケットボール部とか、もしくは文化系の部活なら大丈夫だと思うよ。吹奏楽については難しいだろうけれど」
「……いや、とりあえず部活動ができるなら安心しました。今はそれだけでもありがたいので、方向性が固まったらまた相談してもいいですか?」
かまわないよ、と間延びした声を中原は返して、そのまま廊下へと彼は歩いて行く。俺は最後にさようなら、と挨拶をきちんと行った。彼女らもそれに従うように声を合わせて頭を下げた。
「……というわけで、部活動は何とかなりそうだぞ」
「あ、あ、ありがとうございます!」
伊万里は中原が去った後も頭をあげないままで、感謝の言葉を呟いた。
「でも、そうだなぁ。問題というほどのものでもないんだけれど、俺たちの部活は何にしようか、というところがあるわけなんだけど」
俺がそう言うと、伊万里は小さな声で言葉を呟く。
「う、うんどうぶとかは、にがてなのでやりたくないです……」
「それなら文化系の部活だな。思いつくのだと、文芸部とか、生活部とか?」
生活部という言葉を出すと、皐が「懐かしいね」と言葉を返す。確かに懐かしいかもしれない。俺たちが通っていた中学の文化部のひとつだった部活だ。
「せ、生活部ですか?」
「うん。なんというか、家庭科の授業みたいなものを部活でやるやつなんだけど──」
「──あっ、あっ、あ、それは、だ、大丈夫です」
言葉に食い込みながら伊万里は返した。
「それなら文芸部か?」
「え、え、えと、私、やりたいことがあるん、です、け、けど」
伊万里は照れくさそうな表情をしながら言葉を呟く。
「て、てて天文部……、とか……」
なるほど、と俺は彼女の言葉に返した。
「とりあえず、そちらの方向性で活動してみることにしようか。今日はもう遅いし、明日以降にまた相談しよう」
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