妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

文字の大きさ
上 下
11 / 88
壱/倒錯とも言える純愛的関係性

1-4

しおりを挟む


「初めての高校はどうだったよ」

 高校初日が明けて、昼間の飯時、悪戯をするような顔で恭平は俺に話しかけてきた。

 俺はまだ食事中なのに、彼は特に気にしないというように片手に煙草をつまんでいる。彼も食事を摂っていないはずだろうに、いつだって喫煙を優先する性格。それにどこか呆れが入るような気持ちがある。別に、人の自由だからよいのだけど。

「なんというか普通でしたよ。時間帯が夜ってこと以外はそこまで違和感を覚えませんでしたね」

「いいじゃねえか。普通の高校生活とやらが送ることできそうならさ」

 ははは、と乾いた笑いを返す。それもそうだな、と思ったから。

 皐に作ってもらった弁当を食べている。俺の好みについては完全に把握しており、また苦手な野菜に関しても俺が食えるようにきちんと調理がされている。俺は適当に唐揚げを最後の一口にしようと残しておいて、とりあえずそれ以外のおかずを口に含む。美味しい味。

「皐ちゃんは今何やってんだ? お前がいない間、流石に暇なんじゃないか?」

「牛丼屋の面接が通ったみたいで、そこでバイトしているみたいですよ。何やら蕎麦がちゃんとしている牛丼屋だとか」

「ほぇー、いい子だなぁ本当に。俺の彼女だったら、適当に携帯とかいじったり、買い物行って散財してくるぞ」

 コメントをしづらいので、俺は、へえ、とだけ返した。

「いや、マジでお前皐ちゃんを大事にしろよ? あんなにいい子を手放したら俺が許さんからな」

「……なんで恭平さんが許さないんすか」

 俺が笑いながらそう言うと、恭平は煙草を咥えながらも真剣な表情で俺を見る。

「あのな、お前はあの子に生かされてるんだよ。ほら、お前のその弁当だって見てみろよ。いつも朝五時には出るお前の食事を、きちんと作ってくれてるんだぞ?

 一年前の、ほら、お前が働き始めたばかりのことを思い出してみろよ、死にそうな顔しかしていなかったあの頃をさ」

 説教のような口調だ。言われなくても分かっている事項だから、耳に五月蠅い感覚がする。

「わかってますよ」とだけ発して、俺は弁当に改めて向き合う。

 俺は皐に生かされている。それは俺自身が良く理解している。

 きっと、彼女がいなければ俺は何かしらで潰れて、いま歩んでいる未来でさえおぼつかないものになっているだろう。そうなっていないのは、彼女が俺のことを支えてくれているからであり、それ以上の要素は存在しない。

「まあ、わかってるならいいんだけどよ」

 恭平は、うんうん、と頷く様子を見せながら、煙草を吸い終わる。吸い終わった拍子に立ち上がり、吸い殻を近くのごみ箱に入れ込むと、どこかへ歩き出して消えていった。今日のあの人は昼飯を食べないのかもしれない。あの人の勝手だから、別にどうでもいいけれど。

「……うん」

 俺は恭平の言葉を改めて咀嚼する。

 感謝の言葉を恥ずかしくて伝えられないのは、流石にまずいかもしれない。皐がそれで俺から離れる未来は想像することもできないし、想像もしたくないけれど、それをきっかけに彼女が俺と距離を置くのは嫌だ。

 何かしらの行動をしなければいけない。何かしら、彼女のためになるような行動を。

 ──そうしないと、いつかどこかにいなくなりそうで、不安で仕方がないから。





 いつまでも不安を拭うことはできない。

 彼女から始めた近親愛、ひとつの禁忌というものは、禁忌だからこそ距離を置くきっかけにつながるかもしれない。

 俺に魅力なるものがあるのかはわからない。だが、俺以上に魅力的な誰かに出会ったときに、確実に他人であるそんな誰かに、俺は皐が傾いてしまうのか、それが不安で仕方がない。

 俺は皐を信頼している。皐を好きだし、皐を好きだからこそ、彼女がそんなことをする想像をすることはできない。

 でも、万が一があったら?

 万が一があったとして、そうして彼女が俺の手元からいなくなったとして、俺はその時にどうすればいい?

 一年前に戻ることは嫌だ。嫌で仕方がない。隣に皐がいてほしい。誰かにとられる想像なんて吐き気がする。皐は俺の所有物ではないはずなのに、それでも俺の手元にいてほしい感覚。ひどく勝手だ、身勝手だ。それが許されていいわけがない。

 でも、不安は拭えない。彼女がどんな未来を選択するのかはわからない。だから、心の準備はいつかしておいた方がいいのかもしれない。

 考えたくない、考えたくはないけれど、必要なことだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

せめく

月澄狸
現代文学
ひとりごと。

処理中です...