妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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壱/倒錯とも言える純愛的関係性

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 俺と皐は分かたれた。朝になって、正気と狂気に侵されて、それでもなお現実を認識することが嫌になって、それでも繋がりは失うことしかできなくて、母と父が様子を伺ってくる前に、理性をもって距離を離した。

 不思議と喪失感があった。二人で一つだった感覚は物理的ではなく、精神的なもので確実に存在していた。温もりの中にいないことを自覚するのが、ひどく寂しい感覚がした。

 皐の目は赤かった。泣いていたことを認識するのがつらかった。でも、それは必然の別れだった。だから、しょうがないことだった。

 いつも通り、居間に二人で降りた。

 そうして、それで決定的に俺たちは離別した。





 母に引き取られた俺は、母とアパートで過ごすことになった。金銭的な余裕はあったらしい。その余裕は不貞のきっかけとなったスーパーのパートの給料であった。

 母は何事もなかったかのように振舞っていた。

 以前の家よりも母の帰ってくる時間は遅くなっていった。三者面談を約束した日にも、急用という言葉を使って来ることはなかった。俺は担任と二人で進路を話すことになった。担任は同情する眼差しで俺を見た。そのまなざしが俺にはきつかった。

 学校ですれ違う皐の視線は、何か言いたげだった。会話をしようと立ち止まったけれど、会話をしてしまえば足を引きずられてしまうから、皐から離れていってくれた。俺も足の向きを変えて、そうして何もなかったように演出した。

 俺は高原から加登谷という苗字になった。周囲から呼ばれる名前は変わらなかったけれど、テストや書類に書く名前は加登谷と記さなければいけなかった。

 少なかった友人についても関係性は冷え込んでいった。どうせ、関わってもらっても大して相手にする気にはならないからそれでいいと思った。

 だいたい、その辺りから進路については諦めがついてしまった。勉強することの意義を見いだすことはなく、ただただ母に対する嫌悪感だけが募っていく。

 距離を置きたいという気持ちだけが反芻し、家で会わなくとも、母の庇護下にいることがどうしても気持ち悪くて仕方がなかった。

 母と会ってしまうタイミングがある時には吐き気を殺そうと必死になった。

 なんとなく、生きるということに対して命題を失った感覚も反芻していた。

 何度か繰り返した担任との二者面談で、俺は高校にはいかないことを告げた。担任には何度も止められたが、その決意を変えることはなかった。

 母に連絡がいったらしく、それを家に帰ってとがめられることがあった。俺はそれに対して憤りを覚えることしかなく、母が父にしたように罵詈雑言を浴びせてしまった。途端に嫌悪感は爆発して、嗚咽とともに台所に吐き出してしまったことを今でも思い出すことができる。

 爆発したままで、俺は決意を変えることはしないと憤りのままに伝えた。ぐしゃぐしゃな言葉だったと思う。言葉ははっきりと口から出ていなかった。

 泣くつもりなんてなかったはずなのに、瞳には雫が滲んでいた。

 母は憐れむような視線で俺を見た。そうさせたのは母のはずなのに、まるで被害者かのように振舞う母の姿があった。

 俺は、もう関わることを辞めた。

 あらゆる周囲の静止の声を聞き流した。目を逸らした。

 母から父に連絡したらしく、父と話す機会もあったがその言葉さえも聞き流した。

 父は寂しそうな瞳をしていた。それでさえどうでもよかった。

 二月の受験期、他の奴らが登校していない中で、俺は静かに図書館で読書に身を費やした。そうすることで自我を保つことにした。

 被害者であることを振舞っているのに、自分自身が被害者であることを認識すると惨めでしょうがなかった。俺は自立することを心に決めた。

 それまででも、皐との会話は学校でさえ生まれていなかった。





 二月中に就職をするために職を探した。中学生でも雇ってくれるところは、大半が現場仕事か工場での勤務だった。別にどちらで勤めてもよかったけれど、待遇面で入居可能と記されている求人に送った。特に苦労することもなく、一度目の面接で受かり、三月から体験、四月からは本就職という具合になった。

 そうしてついた仕事は、現場仕事の型枠大工だった。

 建築するためにコンクリートの枠を立てる仕事で、非力な俺はしばらく体験だけでも心が折れそうになった。肉体労働というものを少し舐めていたのかもしれない。
 だが、まだ出ることができない家に帰るたびに、それでもこのまま留まるよりかはマシだと思って、身を粉にして苦痛を呑み込んだ。そうすることで三月を乗り切り、四月に俺は家を出た。

 母は、何も言わなかった。ずっと前から言葉を交わすことはなかったから、それでいいのだと思う。言葉をかけられたところで感情が揺さぶれることはなかっただろう。

 関わりを消したくて仕方がなかったから、別れの言葉もなしに俺はアパートから消えた。

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