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4/I'm in love
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◇◇◇
「うぅ……」
アトラクションを乗り終えた後、ずぶぬれた姿で彼女は苦しそうに声を漏らしていた。
それもそのはずだろう。そこまで絶叫というものに対して耐性を獲得していないのに、それでも乗ったのだから。
アトラクションの中で、彼女はジェットコースターが下る度に大きな悲鳴を上げていて、たまに彼女の手が腕に絡まる感覚がある。だが、それが力を失ったり、もしくは更に力がこもったりして、そのすがるような手が俺は面白く感じてしまった。
「いやあ、すげえ楽しかったな!」
彼女の苦しそうな表情、感情とは別に俺はすごくアトラクションを楽しめた。
いつもはテレビで見つめるだけの時間が、実際に現実として目の前にある感覚は楽しかった。なにより、隣で悲鳴をあげる彼女の姿が面白すぎて、緩急が来る度に腹筋がよじれるかと思った。
「翔也は楽しそうでいいね……」
「実際楽しかったからな」
あんまり日常的に体験することがなく、なにより安全性が確保されているという保証があるものは、ものすごく楽しむことができるような気がする。そして、外野で大きなリアクションをとってくれる人間がいれば、なおさらその楽しさは倍増する感覚。
そんなことを以前に皐に話したところ、「翔兄は
性根が真っ黒なんだと思うよ」と言葉を吐かれた。確か、ネットのサービスでホラー映画を見繕って彼女と一緒に見たときだったと思う。彼女が目の前の映画に対して悲鳴をあげるたびにゲラゲラとそれを笑っていたら、悔しそうに彼女はそう呟いていた気がする。
「私、絶叫系苦手かも」
「なんとなくその雰囲気は感じていたけどね」
皐と愛莉はもとからそういったものに関しては苦手であった。どれだけ軽いと思えるホラー的な内容でも身体をビクつかせた後に叫びをあげるし、そんな人物が絶叫系を得意とするかで言えば、確実に否だとも言える。もしかしたら、そういった人間もいるのかもしれないけれど、彼女らに関してはそれに類するものではないという具合だ。
そもそも、人間の本能としての部分で、彼女たちは恐怖に対する耐性が薄いのだ。あらゆるものに予測を立てて生活をしていると、そんなホラーに関してだったり、ジェットコースターに関してだったりは、そこまで叫びをあげる要素には繋がらないものだが、愛莉たちにはそれがない。だから、こういう結末をたどることについては目に見えていたような気がしないでもない。
「もう、絶叫系はやめといたほうがいいか?」
「……いや! 私はそれでも乗らせていただきます!」
「……まあ、そうなりますよね」
だが、結局、彼女らは怖いもの見たさで何でも挑戦をしようとする。予測を立てて結末を決めつける俺にはできないところ。だからこそ、彼女に惹かれるところがあるのだけれど。
「なにより翔也がたのしそうにしているのに、私だけ参加できないというのはずるいと思います」
「別にずるくはないと思うけれど」
いや、翔也はずるいよ、と愛莉は不貞腐れたような表情でぶうぶうと言う。俺は彼女のそんな仕草が面白くて自然と笑顔になる。
「でも、とりあえず立て続けに絶叫系は愛莉が疲れそうだから、コーヒカップ的なやつで息抜きしようぜ。近くにあったような気がするから」
「いいの?」
「お前が喉を枯らしてもいいなら、そのまま連チャンでも俺は構わないんだけどな」
結局その後には愛莉を絶叫系に連れ回すことにはなるのだけれど、ここはきちんと愛莉のことも考えなければいけない。
俺のリフレッシュという名目は在るけれど、だからといって、彼女に負担ばかりをかけるのは良くないのだ。
「ぜひコーヒーカップでお願いします」と愛莉は言葉を呟いた後、そうしてカバンに入れていた飲み物を取り出して、そうして一息をつく。俺もそのタイミングに合わせて、そろそろ空になりそうなペットボトルを完全に飲み干して、太陽の日射に向かい合った。
肌に張り付く濡れた衣服の感覚。先程までは冷たく感じていた感触は、体温と気温にほだされて、生ぬるい感覚が嫌に肌に伝わってくる。
きっと行動していくうちに乾いていくだろう。そこまで気にしなくてもいいかもしれない。
今は、彼女と一緒に楽しむことが、いちばん大事なことなのだから。
「うぅ……」
アトラクションを乗り終えた後、ずぶぬれた姿で彼女は苦しそうに声を漏らしていた。
それもそのはずだろう。そこまで絶叫というものに対して耐性を獲得していないのに、それでも乗ったのだから。
アトラクションの中で、彼女はジェットコースターが下る度に大きな悲鳴を上げていて、たまに彼女の手が腕に絡まる感覚がある。だが、それが力を失ったり、もしくは更に力がこもったりして、そのすがるような手が俺は面白く感じてしまった。
「いやあ、すげえ楽しかったな!」
彼女の苦しそうな表情、感情とは別に俺はすごくアトラクションを楽しめた。
いつもはテレビで見つめるだけの時間が、実際に現実として目の前にある感覚は楽しかった。なにより、隣で悲鳴をあげる彼女の姿が面白すぎて、緩急が来る度に腹筋がよじれるかと思った。
「翔也は楽しそうでいいね……」
「実際楽しかったからな」
あんまり日常的に体験することがなく、なにより安全性が確保されているという保証があるものは、ものすごく楽しむことができるような気がする。そして、外野で大きなリアクションをとってくれる人間がいれば、なおさらその楽しさは倍増する感覚。
そんなことを以前に皐に話したところ、「翔兄は
性根が真っ黒なんだと思うよ」と言葉を吐かれた。確か、ネットのサービスでホラー映画を見繕って彼女と一緒に見たときだったと思う。彼女が目の前の映画に対して悲鳴をあげるたびにゲラゲラとそれを笑っていたら、悔しそうに彼女はそう呟いていた気がする。
「私、絶叫系苦手かも」
「なんとなくその雰囲気は感じていたけどね」
皐と愛莉はもとからそういったものに関しては苦手であった。どれだけ軽いと思えるホラー的な内容でも身体をビクつかせた後に叫びをあげるし、そんな人物が絶叫系を得意とするかで言えば、確実に否だとも言える。もしかしたら、そういった人間もいるのかもしれないけれど、彼女らに関してはそれに類するものではないという具合だ。
そもそも、人間の本能としての部分で、彼女たちは恐怖に対する耐性が薄いのだ。あらゆるものに予測を立てて生活をしていると、そんなホラーに関してだったり、ジェットコースターに関してだったりは、そこまで叫びをあげる要素には繋がらないものだが、愛莉たちにはそれがない。だから、こういう結末をたどることについては目に見えていたような気がしないでもない。
「もう、絶叫系はやめといたほうがいいか?」
「……いや! 私はそれでも乗らせていただきます!」
「……まあ、そうなりますよね」
だが、結局、彼女らは怖いもの見たさで何でも挑戦をしようとする。予測を立てて結末を決めつける俺にはできないところ。だからこそ、彼女に惹かれるところがあるのだけれど。
「なにより翔也がたのしそうにしているのに、私だけ参加できないというのはずるいと思います」
「別にずるくはないと思うけれど」
いや、翔也はずるいよ、と愛莉は不貞腐れたような表情でぶうぶうと言う。俺は彼女のそんな仕草が面白くて自然と笑顔になる。
「でも、とりあえず立て続けに絶叫系は愛莉が疲れそうだから、コーヒカップ的なやつで息抜きしようぜ。近くにあったような気がするから」
「いいの?」
「お前が喉を枯らしてもいいなら、そのまま連チャンでも俺は構わないんだけどな」
結局その後には愛莉を絶叫系に連れ回すことにはなるのだけれど、ここはきちんと愛莉のことも考えなければいけない。
俺のリフレッシュという名目は在るけれど、だからといって、彼女に負担ばかりをかけるのは良くないのだ。
「ぜひコーヒーカップでお願いします」と愛莉は言葉を呟いた後、そうしてカバンに入れていた飲み物を取り出して、そうして一息をつく。俺もそのタイミングに合わせて、そろそろ空になりそうなペットボトルを完全に飲み干して、太陽の日射に向かい合った。
肌に張り付く濡れた衣服の感覚。先程までは冷たく感じていた感触は、体温と気温にほだされて、生ぬるい感覚が嫌に肌に伝わってくる。
きっと行動していくうちに乾いていくだろう。そこまで気にしなくてもいいかもしれない。
今は、彼女と一緒に楽しむことが、いちばん大事なことなのだから。
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