疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 〜彩る季節を選べたら〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

文字の大きさ
上 下
46 / 80
4/I'm in love

4-5

しおりを挟む
◇◇◇

「それで、どこにいくんすか」

 夏の日照りがアスファルトを焼いている。じりじりとしている空気と、どこかサンダルからも伝わってくる熱気が、自分の体を蝕んでいく感覚がどこまでも拭えない。

 蝉の鳴き声がちらつく中で、俺は愛莉にそう言葉を吐く。

 夏の日射に愛莉もやられたようで、ゆっくりと一度ため息をついた。そうして息を整えたあとに、わざわざ気丈に振る舞うように背筋を張ったあとに「内緒です」と返してくる。いちいちそんな態度をとる必要もないのに、彼女が気丈に振る舞おうとするから、俺も彼女の態度に答えるように、一応背筋を伸ばしてみた。それでも暑い空気と気だるさについては消えなかったけれど。

 彼女の手元には、何かしらのチケットがある。どんなチケットか覗いてみようとすると、彼女はそれをポケットにしまい込んで、どこか得意げな顔をした。結局、行く場所については、たどり着くまではわからないようだ。

 そうして歩き出していくアスファルトの道。景色さえもゆだって揺らめいて見える陽炎に、心底嫌な気持ちを覚える自分がいる。

 別に、出かけることに対して億劫になっているわけではない。それでも、この時間を自室で勉強して過ごしていたら、少しは身になる時間なったのではないか、という気持ちは拭えない。

 未だに彼女に対して、成績が、学習が追いついていないのだ。それならば、適切に学習をするべきなのだろうけれど。

「また考え事しているでしょ」

「……いや?」

 誤魔化すように言葉を吐いたけれど、結局彼女は俺の所作を見ると「うそつき」といつも通りに言葉を返す。俺は、それに苦笑するしかなかった。

「今回のデートは何も考えないこと。リフレッシュなんですよ?」

「……デートなんすか?」

「デートっすよ」 

 彼女はるんるんと楽しそうな様子で言葉を付け足していく。

「男女、二人だけ、お出かけ、遊園地!」

「……遊園地行くんだ」

 俺が気づいた言葉をそのまま吐く。「あっ」という彼女の声。

 俺はやはり笑うしかなかった。

「い、いや。ほら、デートの気分だったから! お母さんになんかチケットももらえたから!」

「ほえー、なんか楽しそうな感じだな」

「楽しくするんです!」

 彼女は愛をふりまくように笑顔でそういった。

 こんなにも夏の気温が包んでいるのに、彼女はいつもの風体を崩さずに言葉を吐く。俺はそれが微笑ましくて、とりあえず、先程まで考えていた憂いのようなことは忘れるよう努めることにした。

 それが、俺の今はやるべきことなのだ。



◇◇◇

 たどり着いた場所は、彼女が漏らした通りの遊園地。近場の遊園地ではなく、遠目の、駅を何度も乗り継いだ先にある、町とはかけ離れている立地。家族とも赴いたことがない場所。

 電車の冷房の空気は好きだった。中での冷房は効きすぎることもなく、ちょうどいい温度感だった。愛莉はその中でも少し寒そうにしていたのが印象的だったのかもしれない。

 駅を乗り継いでいった後、目的の駅を降りると、そこからしばらくバスに乗られていった。

 バスに人はまばらに存在していて、家族連れ、というか母子の群れだったり、もしくは同年代の男女だったり、もしくはグループでつるむようなやつがいたり、もしかしたら俺と顔見知りかもしれないだけのやつもいた。

 愛莉は特に視線を配ることはなく、ただただふらりと過ごしていく。俺たちは席に座ることもなく、ただぼうっとバスの慣性に揺られながら、目的地までを過ごしていく。

「遠かったな……」

 交通費だけで財布の中身を吸い取られた感覚がする。中身については豊潤というわけでもなかったけれど、その中身が失われていく感覚は少しだけ寂しく感じた。……どうせ、ここで使わなければ参考書に消えるだけなのだが。

 彼女は俺の声に適当に相槌を打つ。特に何も気にしていないというふうに。

 遊園地のゲートを前にして、右隅の方に見える大きい遊園地の欠片が、いよいよ俺たちが到着した、ということを認識させてくる。

「ここでお約束をしましょう」

「約束?」

「うん、大事なお約束」

 彼女は俺に向きなおって言葉を付け足す。

「いち! ここでは勉強のことを忘れること!」

「……あい」

「に! ここでは恋人として振る舞うこと!」

「……まあ、愛莉がいいならそれで」

「さん! 全力で楽しむこと!」

「……がんばります」

 自分自身ではしゃぐ様子については想像することができないけれど、中にはいったら年齢相応に盛り上がることはできるかもしれない。そんな期待を抱いてみる。

「よし! それでは入場の時間だー! おー!」

「……オー」

 ……こんな調子になるかもしれないけれど、彼女はそんな俺に苦笑をする。

 俺は、そんな彼女の優しさに甘えている。

 そんな、彼女の優しさに報いることができればいい。

 俺は、そんなことを心の片隅で反芻していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...