疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 〜彩る季節を選べたら〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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3/Anxious in the Rainy noise

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「敬語」と俺は言った。俺がそう発言した瞬間、小テーブルの対面に座り込んだ伊万里についてはびくりと身体を弾ませて、そして隣に座った彼女はよくわからない、という顔をした。

「それはさておき、“体調”とやらは大丈夫なのか?」

 俺が伊万里に聞くと、彼女は困ったように「え、ええ」と答える。

「おかげさまで休んだ甲斐がありました。昨日までは熱がすごかったんですけど、なんというか今日の昼くらいから大分と下がってきたなぁ? みたいな感じで──」

「敬語」

「──うぎ……」

 伊万里はよくわからない擬音を口から漏らしながら、はあ、と大きなため息をついた。

「……それにしても、なんで花村さんが……、というか、本来なら別クラスである高原くんも来るわけないで──、んんっ、来るわけない……よね?」

 本当に不慣れなんだろう、言葉の節々が震えているのが面白い。ここで笑うといじけて二度と敬語をつかってくれなさそうだから、俺は顔に出さないように気を付ける。

「えっとね。笠中先生が昨日から配布物をよろしく頼むね、って渡してきて……。ついでに高原くんも巻き込んじゃえって」

「……えっ、お二人そんなに仲が良かったの?」

「一時間前にできた仲だ」

 意外そうな目で伊万里が見てくるので、弁明をするように言葉を返す。

 まあ、気まずいから来てほしいということだったが、それを本人に対して話すというのも違うだろう。

「……ていうか、花村っていうんだ。知らなかった」

「ずっとキミキミ言ってたもんね。どこかのお偉いさんみたいで面白かったから」

 から、という言葉を吐いた。となると、彼女が名前を教えてくれる空気感を出さなかったのはわざとということになるのだろう。

 なるほど、彼女自身も俺に名前を呼ばれないように仕向けていたということか。別に悔しくはない。悔しくはないけど、なんだか腑には落ちない。

「というわけでなんだが、新入部員だ」

「……え」

 伊万里は訳が分からないというように表情を歪ませた。未知と喜びが一瞬で高まったような顔をしている。

「だから、新入部員の花村さんだ。下の名前は知らない。よろしく頼むぞ花村さん」

「はい、よろしくお願いします、高原くん、伊万里ちゃん」

 彼女も俺のノリに合わせて返してくれる。

 伊万里は尚更意味が分からないというように、ずっと「えっ」という言葉を押し出してくる。

 まあ、理解させるつもりは毛頭ない。勢いだけで押し流す。

 俺を物理室という孤独に閉じ込めた報いだ、とくと味わうがいい。

 



「それでどうして休んだんだよ」

 粗方の混乱を伊万里に押し付けた後、俺は彼女にそう聞いた。それを隣にいる花村 沙那は興味深そうに伊万里の目を見つめている。

「ん、いやあ、別にサボったわけとかではなくですね」

 彼女は気まずそうに言葉を吐く。

「実際、昨日までは体調が悪かったんですよ。すごい悪寒がするというか、見る夢もろくでもなかったし」

「一昨日あたりはすごく元気そうだったけどな」

「私にもわかりませんが、本当に昨日は体調不良だったんですよ? 本当に、本当にですからね」

 伊万里は強調しながらそう呟く。

「で、今日の朝目覚めたら、一応元気にはなっていたんですけど」

「ですけど?」

「……どうせ、そんなに休めることもないから、まあ休んじゃってもいいか、とそんな気分になりまして」

「……」

「というわけでお休みしました! 以上!」

 俺と花村は伊万里の言葉を聞き終えると、互いに目を合わせる。

「な? サボりだったろ?」

「うん。サボりだったね」

 俺と彼女は呆れたように溜息をつく。伊万里が戸惑う顔が面白いから、俺たちはこれを続けている。

「い、いや、昨日までは体調不良で──」

「でも、今日は別に元気だったのに休んだんだろう。孤独な部員を一人残して」

「い、いや、ルト先輩とかいるじゃないですか」

「今日、あの人顔を出してくれなかったなぁ」

「え、え、えとぉ……、そのぉ……」

 彼女が限界を迎えたあたりで、俺は弾けたように笑った。

「いいよ。誰にだって休みたくなる時はあるもんな」

 俺がそう言うと、花村は苦笑する。

「高原くん、なんかドSって感じだね」

 ドSなのかどうかは知らないが、こうすると楽しいのだから、仕方ないというやつである。

「でも、明日からは学校来いよ。花村さんが科学同好会に入ってくれるって言うんだから、科学同好会から科学部だぞ。顧問がつくぞ。天体観測がやれるぞ」

 俺は淡々と事実を呟く。

 これで部員は四人になる。俺がルトの言うことを聞いていれば、特に問題もない。生徒会に入る、という面倒くささはあるけれど、これで伊万里の目的を果たすことができる。彼女の悩みを解決することができれば、どこか心に安堵感が生まれる。だから、これでいいのだ。

 ──本当に、そうだろうか。

 そんな、一筋の不安が、俺の心にどうしようもなく伝った。


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