夢魔もどきの俺が自分のために人の認知を変えたら結果的にハーレム作れた ~ありふれた夢と世界と架空と何か~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第一章 夢魔もどきのありふれた生活

1-4 快適な睡眠ライフ

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「ああそっか。結城くんは遅れてきたから知らないか」

 少しばかり嫌な気持ちになって、うなだれながら教室の自席に戻る。そのうなだれた表情について隣席の女子に聞かれたので理由を説明すると、彼女は、──中多 亜美奈──は言葉を付け足した。

「佐城先生、朝からなんか不機嫌だったんだよね。不機嫌、というか情緒不安定? みたいな」

「……情緒不安定」

 生徒の見本である大人の教師が情緒不安定とか冗談だろ、とか思ったけれど、大人だって精神がどうにかなるときはあるかもしれない。一瞬でもそんなことを考えたことに少しばかり申し訳なさを感じて、俺は、はあ、と息を吐く。

「彼氏と別れたとか、なのかなぁ」

 俺は思いついたことを口に出す。それは限りなく独り言に近くて、適当な思考の整理だった。

 なんとなく、佐城の言葉はそれを思わせるようなものが大半だったような気がする。別れ、というか、浮気を咎められた彼氏側の気持ちというか、なんと表現すればいいものか。

 最後の会話あたりにもそれがにじみ出ていたような気もするけれど、それは俺の勘ぐりに収まるだけの話かもしれない。

 大概、他人の物事に首を突っ込むのは悪いことだ。相手の領域を侵害することになるから、あまりそういうことはしない。本人から許可を得られているのならまだしも、特に相談をされるわけでもないし、佐城が俺に対して相談するわけもないだろう。相談も何も、彼女は俺のやっていることについて把握はしていないはずだ。

「まあ、そうなんじゃない?」

 私は知らない、という風に中多は言葉を吐く。俺も知らないよ、とだけ返して、俺はもうすぐチャイムが鳴る時間であることを確かめた。





 もう授業中に寝ることはしなかった。別に眠気がなかった、とかそういうわけではないけれど、あんな叱られ方というかヘタり方を佐城に見せられれば、なんとなく授業中は起きなければいけないような気持ちになる。

 眠気を拭うことはできない。これは俺に対するデフォルトとも言える設定というか、もしくはデバフとも言えるべきもの。

 考えようによっては俺は場所を選ぶことなくいつだって眠ることができる。

 そのことを他人に話せば、お前が羨ましいよ、だとか、お前になりたい、だとか言葉を吐かれるけれど、当人の苦しみは当人にしか理解できないのだから、容易く俺になりたい、とか言ってくれるなよ、という気持ちになる。

 ……眠気がつらい。眠気がつらくて、黒板に書かれている白い文字が涙で滲んで見えてくる。あくびは止まることなく、そうして涙が零れそうになる。悲しいわけじゃない。

 ダブって見えてしまうそれをノートに書き写すことはできない。一応と言うばかりに筆記用具とノート、教科書あたりは出しているけれど、それを書く気にはならない。

 きっと、授業がつまらないというわけではないと思う。俺自身、それだけで寝たりするような人間ではない。……そう思いたい。でも、どうしても気質として眠気がつきまとうのだからしょうがない。

 他の教師であれば、騒がしくしない限りは注意をすることはない。睡眠はいわば自業自得で収まる範囲の迷惑であり、他者が雑談をして騒ぎ立てるのに比べれば、教師から見てもどうでもいい対象として映るだろう。

 事実、目の前で授業をしている数学教師に関しては、俺が寝ている様子を見て咎める様子はない。授業態度についてはCという評価を冷酷につけてくるけれど、テストでカバーをしているから、それについては問題がない。

 はあ、と息を吐く。

 問題があるとするならば、佐城なのだ。

 佐城の小言がなければ、他の教師も俺の睡眠については目をつぶってくれる。でも、佐城に職員室で言われたことは後を引きずるだろう。心なしか、目の前の教師についても、俺に対して視線を刺してきているような気がする。

 これじゃあ、俺の快適な睡眠ライフは継続されない。

 ……とりあえず、佐城の件に首を突っ込むのは野暮だと思うけれど、これは俺の利益に対する行動だ。少しでも眠れる環境づくりをしなければ、今後の俺の睡眠生活が大変なことになる。

 それは嫌だ。断固として拒否をする。

 なんなら他のクラスの人間に寝ているやつはいるのだ。事実としているのだ。証拠としてあいつは夢を見て、屋上の夢を見たのだ。

 それなのに、俺だけが仕打ちを受けるとかはなんか違う、ような気がする。どうせならそいつも怒られれば気は済むけれど、それで問題が解決するわけじゃない。

 俺は眠気を堪えながら、とりあえずノートの隅に適当な思いつきを書いてみる。

 それでどうなるかはわからないけれど、今後の俺の睡眠のためには一肌脱ぐしかないのだ。
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