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第四章 異質殺し

4-5 モノクロな世界

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 ジェットコースターについては遊園地の目玉となっているだけあって、相応に人が混んでいた。家族連れや、もしくは恋人を連れているような、そんな人ばかり。そのどれもが楽しそうな顔をしていて、見ているだけでその幸福が分け与えられるような、そんな錯覚を覚える。

 隣にいる天音の顔を見る。ずっと、ジェットコースターのレールや、動体に対して視線を追いかけていて、今か今かと天音は待ち望んでいるようだ。彼女は彼女で楽しそうにしている。

 きっと、俺たちの光景をほかの人間が見たら、その人間は恋人なのではないかと勘繰るかもしれない。

 半年という期間は、確かにそれを思わせる関係の紡ぎ方はしたけれども、天音に対してそういったベクトルの感情は生まれていない。彼女が俺のことをどう思っているのかは知らないし、察する気もないけれど、俺は彼女については何も思わないようにしている。

 そうでなければ、天音に対して申し訳ないから。

 俺が孤独だと感じるすべての精神要素は、葵がいないことが所以している。その感情を埋めるための行動は、その代償行為を求めることで、天音に何か感情を覚えてしまってはいけないのだ。

 天音は、葵ではない。

 天音は俺の幼馴染だろう。自分の過去の記憶がそう言っている、対極がそれを思い出させてくれた。

 でも、幼馴染だからと言って、彼女は葵にはなりえない。

 こんな時でも、彼女の色を考えずにはいられない。

 葵だったら。ここにいるのがアオイだったのならば。そんなことばかりを考える自分が情けない。そして、それ以上に天音に対して申し訳ない。

 ──列の波にのまれて、徐々に前へと足を進ませる。

 今だけでもそんなことを考えないようにしなければいけない。ここにいるのは天音だ。天音のことを考えなければいけない。

 「たのしみだね」

 天音は俺に言葉を吐いた。

 「……そうだね」

 俺はそれに返答をする。適当な返事だった。きっと、そこに感情は介在していない。





 水月先輩は違和感を覚えずにはいられない様子だったけれど、集団で歩いているときに明楽くんに話を聞いて、ようやく諦めたようだった。

 立花先生本人に聞いても、そんな記憶がない、と答えられてしまったのだ。だから、それ以上に掘り下げる意味もないだろう。

 気のせい、というか一つの夢、ということで水月先輩は片づけて、明楽くんと腕を組みながら一緒に歩いているのを後ろから見つめる。水月先輩は明楽くんを揶揄うのが好きだからそんなことをしている。明楽くんはそれに振り回されてデレデレとしているけれど、私にはそんな様子がうらやましかった。

 ──心の中に違和感がある。

 本当に私とは私だったのだろうか。

 そんな無意味な思考が続いて仕方がない。

 私は私だ。赤原葵だ。それ以上の何物でもない。でも、それを考えるたびに、どこか頭を掻きむしりたくなる衝動に駆られる。

 これは私がモノクロだからこそ、考えてしまうのかもしれない。

 魔法教室の面々は、相応に彩があふれているようにふるまっている。そのどれもが、私には取り込むことのできないから、私が私であることを肯定することができない。

 『世界は、何色だと思う?』

 いつか会った、彼の言葉を思い出す。

 しきりに私が赤色だと言ってくれた彼の姿。それが脳裏に過って仕方がない。

 誰だか、思い出すことができない。心に引っかかるところがある。でも、思い出せないし、私がその人と関わったのは、それ一回のみだ。だから考えるだけ無駄なのに。

 ──心が引きずられる。思い出すだけで心は締め付けられる。

 たまに、夢に出てくるのだ。

 私と彼が、仲良く話し合っている様子を。

 夢の中での彼は髪が黒色だった。そっちの方が正しいような気がする。そんな彼といつも家で話していたり、もしくは出かけたりしていたり。……そんな夢を見てしようがない。

 私は、恋に落ちたのだろうか。

 ……見知らぬ誰かに?

 馬鹿らしくなった。考えるだけ無駄でしかない。

 「やっぱ遊園地の醍醐味ってジェットコースターだよねぇ!」

 「……僕はちょっとそこらで休憩していますね」

 「おい!俺だって苦手なのに雪冬だけ逃げてんじゃねぇ!」

 「えぇ~? 明楽くんジェットコースター苦手なのぉ~? 私意外だなぁ~」

 「い、いや違いますよ! 今のは雪冬を慰めるために言っただけで……」

 「僕を言い訳に使わないでください……」

 「フン、軟弱者が!」

 「……まあ、こういうのは得手不得手あるから! 気ままに楽しんでいこうじゃないか君たち!」

 ──私も、彼らのように彩を得ることができればいいのに。

 そんな彼らの進めた歩行について行きながら、どうでもいい考えを巡らせてしまった。
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