64 / 109
第三章 灰色の対極
3-6 見せつけに来やがったんだねこのリア充
しおりを挟む
「まず言うべきことがあると思います」
葵の家に行き、上がることにはなったものの、最初に彼女から言われた言葉はそんな一言だった。
「ええと……」
そうやって、考えてみる。
思えば、思い当たる節がありすぎる。
なんというか、思い立ったら吉日というわけでもないけれど、とりあえず葵に会えば何とかなる、とか都合のいい考えをしていたから、いざ彼女が結構強気な態度をとると、どう対応すればいいかわからなくなる。
ええと、謝ればいいのだろうか。そうして謝るべきことを考えてはみたけれども、やはり思い当たる節が多すぎる。
天使の時間の中で、彼女の胸に触れたことだろうか。一応あの場では事態が事態だったからあやふやになったけれど、彼女に対して正式な謝罪は紡ぐことができていない。そうなると、それを謝らなければいけないような気がする。まあ、正式的に言えば、謝罪はしたものの、それを彼女が受け入れていないだけなのだが、加害者が被害者にそんな態度をとったら、更に怒るに決まっている。
もしくは、それではないとしたら、ここ最近魔法教室をサボり続けていることだろうか。どうせ行く意味はないと思い出してから、天使時間の後には行くことはなくなってしまった。立花先生にも無断で休んでいるから、そのことを謝罪しなければいけないのだろうか。
更にもしくは、最近の彼女に対して、あまり関わろうとしなかったことだろうか。後ろめたい気持ちが優先して、そうして彼女と関わることをやめようとしたことを謝罪しなければいけないのだろうか。
……駄目だ、思い当たる節が多すぎる。こういう時にどういう対応をするべきなのか、全くわからない。こういう時に義務教育は何も役に立たないのだと実感をする。生活に生かす知恵を授けてくれないのだから、本当に意味がない。
「……とりあえず、ごめんなさい」
思い当たる節が多すぎるにしても、謝罪をしなければ、話をすることもできないので僕はそう彼女に言う。どれに対して謝っているのか、とそう聞かれれば詰んだも同然だけれど、その言葉を聞いて彼女は、「……まあ、よろしいでしょう」と少し老人の口調のように冗談めかして返してくれたのだから、ほっとする。
「それでどうしたの?環から話があるなんて、なんか珍しいじゃん」
「……いや、まあ、話があるっていうほどのものでもないのだけれど」
いざ改めて彼女と会話をしたい、という気持ちだけでここに来たことを悟られるのは、どこか恥ずかしい。これだと僕が葵に故意をしているみたいになっちゃうから、どういう事情を取り繕うべきなのかを考えるけれど、結局思い付きはしない。
思い立ったら吉日、それにしては思い立ちすぎた。無計画さがここでほころびを生んでいるような気がする。でも、結局行動をしなければ変わらないのだから、どうしようもない。
「ふうん」と葵は、少し素っ気なく返してそっぽを向く。少し頬が膨れているのがいつもと違うから目につく。どこか少し不貞腐れているような雰囲気。
「それで、なんで魔法教室に来なかったんですか?」
「……それは、その、ですね」
……魔法が使えないことを自覚したから、とは少し言いづらい。
天音に言われたから、というのもあるけれど、そんなこと以上に、自分自身が魔法を使う想像ができない、というのが現状としてある。
もし、彼女にそれを伝えたら、またどこか苦しい顔をしてしまうかもしれない。だから、言葉を考えてみる。
「……天音ちゃんと出かけてたんでしょ」
……なんだって?
「は?なんで天音──」
「あ!ほら今天音っていった!前までは天音ちゃんのことを天音さんって言ってたのに、そうなんだ。やっぱりそうなんだ。もう付き合ってるんだ、ふーん、そんなことを話に来たんだ。見せつけに来やがったんだねこのリア充」
「いや、違います違います。天音は天音というか、なんというか、いつの間にか呼び捨てにしていたというか、なんというか」
「いつの間にか呼び捨てにするくらいに仲が良くなったってことなんでしょう!?最近の若者は展開が早くてよかったですね!!」
葵は無茶苦茶に怒声をまき散らしながら、部屋にある枕や衣類を投げ飛ばしてくる。周囲にはいろいろな硬いものがあるのに、それを投げつけないところが彼女らしい。
──そんな所作に、どこか落ち着きを覚える。僕はどこか少し変だ。
「まあ、でもいろいろあったけれど、天音とはそんなんじゃないよ。本当に。信じてくれるかはわからないけど」
実際、そこまで仲が深まったわけでもない。ただ、天使の時間を一緒に過ごしただけで、それ以上は……。
「……本当に?」
「本当だよ。天音に聞いてみればいいじゃん」
「……聞けないよ。環と同じでずっと休んでるし」
……え?
「休んでるの?天音が?」
「環と同じで、ずっと休んでるよ。だからデートとか行ったのかな、って疑ったんですよぉ」
消え入りそうな声で彼女は呟く。
──天音が、休んでいる?なんとなく彼女はいつも魔法教室にいるような気がしていたから、そんなことはないと思っていたのに。
「あ、今天音ちゃんのこと考えたでしょ」
「……いや、違います、違いますとも」
考えてはいたけれど、葵が思う方ではない。
──どこか嫌な予感を覚える。なんで、胸騒ぎがするのだろう。
葵の家に行き、上がることにはなったものの、最初に彼女から言われた言葉はそんな一言だった。
「ええと……」
そうやって、考えてみる。
思えば、思い当たる節がありすぎる。
なんというか、思い立ったら吉日というわけでもないけれど、とりあえず葵に会えば何とかなる、とか都合のいい考えをしていたから、いざ彼女が結構強気な態度をとると、どう対応すればいいかわからなくなる。
ええと、謝ればいいのだろうか。そうして謝るべきことを考えてはみたけれども、やはり思い当たる節が多すぎる。
天使の時間の中で、彼女の胸に触れたことだろうか。一応あの場では事態が事態だったからあやふやになったけれど、彼女に対して正式な謝罪は紡ぐことができていない。そうなると、それを謝らなければいけないような気がする。まあ、正式的に言えば、謝罪はしたものの、それを彼女が受け入れていないだけなのだが、加害者が被害者にそんな態度をとったら、更に怒るに決まっている。
もしくは、それではないとしたら、ここ最近魔法教室をサボり続けていることだろうか。どうせ行く意味はないと思い出してから、天使時間の後には行くことはなくなってしまった。立花先生にも無断で休んでいるから、そのことを謝罪しなければいけないのだろうか。
更にもしくは、最近の彼女に対して、あまり関わろうとしなかったことだろうか。後ろめたい気持ちが優先して、そうして彼女と関わることをやめようとしたことを謝罪しなければいけないのだろうか。
……駄目だ、思い当たる節が多すぎる。こういう時にどういう対応をするべきなのか、全くわからない。こういう時に義務教育は何も役に立たないのだと実感をする。生活に生かす知恵を授けてくれないのだから、本当に意味がない。
「……とりあえず、ごめんなさい」
思い当たる節が多すぎるにしても、謝罪をしなければ、話をすることもできないので僕はそう彼女に言う。どれに対して謝っているのか、とそう聞かれれば詰んだも同然だけれど、その言葉を聞いて彼女は、「……まあ、よろしいでしょう」と少し老人の口調のように冗談めかして返してくれたのだから、ほっとする。
「それでどうしたの?環から話があるなんて、なんか珍しいじゃん」
「……いや、まあ、話があるっていうほどのものでもないのだけれど」
いざ改めて彼女と会話をしたい、という気持ちだけでここに来たことを悟られるのは、どこか恥ずかしい。これだと僕が葵に故意をしているみたいになっちゃうから、どういう事情を取り繕うべきなのかを考えるけれど、結局思い付きはしない。
思い立ったら吉日、それにしては思い立ちすぎた。無計画さがここでほころびを生んでいるような気がする。でも、結局行動をしなければ変わらないのだから、どうしようもない。
「ふうん」と葵は、少し素っ気なく返してそっぽを向く。少し頬が膨れているのがいつもと違うから目につく。どこか少し不貞腐れているような雰囲気。
「それで、なんで魔法教室に来なかったんですか?」
「……それは、その、ですね」
……魔法が使えないことを自覚したから、とは少し言いづらい。
天音に言われたから、というのもあるけれど、そんなこと以上に、自分自身が魔法を使う想像ができない、というのが現状としてある。
もし、彼女にそれを伝えたら、またどこか苦しい顔をしてしまうかもしれない。だから、言葉を考えてみる。
「……天音ちゃんと出かけてたんでしょ」
……なんだって?
「は?なんで天音──」
「あ!ほら今天音っていった!前までは天音ちゃんのことを天音さんって言ってたのに、そうなんだ。やっぱりそうなんだ。もう付き合ってるんだ、ふーん、そんなことを話に来たんだ。見せつけに来やがったんだねこのリア充」
「いや、違います違います。天音は天音というか、なんというか、いつの間にか呼び捨てにしていたというか、なんというか」
「いつの間にか呼び捨てにするくらいに仲が良くなったってことなんでしょう!?最近の若者は展開が早くてよかったですね!!」
葵は無茶苦茶に怒声をまき散らしながら、部屋にある枕や衣類を投げ飛ばしてくる。周囲にはいろいろな硬いものがあるのに、それを投げつけないところが彼女らしい。
──そんな所作に、どこか落ち着きを覚える。僕はどこか少し変だ。
「まあ、でもいろいろあったけれど、天音とはそんなんじゃないよ。本当に。信じてくれるかはわからないけど」
実際、そこまで仲が深まったわけでもない。ただ、天使の時間を一緒に過ごしただけで、それ以上は……。
「……本当に?」
「本当だよ。天音に聞いてみればいいじゃん」
「……聞けないよ。環と同じでずっと休んでるし」
……え?
「休んでるの?天音が?」
「環と同じで、ずっと休んでるよ。だからデートとか行ったのかな、って疑ったんですよぉ」
消え入りそうな声で彼女は呟く。
──天音が、休んでいる?なんとなく彼女はいつも魔法教室にいるような気がしていたから、そんなことはないと思っていたのに。
「あ、今天音ちゃんのこと考えたでしょ」
「……いや、違います、違いますとも」
考えてはいたけれど、葵が思う方ではない。
──どこか嫌な予感を覚える。なんで、胸騒ぎがするのだろう。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
最弱装備でサクセス〜どうのつるぎとかわの防具しか買えなかった俺だけど【レアリティ777】の効果が凄すぎて最強になってしまった〜
キミちゃん
ファンタジー
この魔物が蔓延る世界の小さな村で、一人の少年が生まれた。
彼の名は
「サクセス」
明るい父親と心優しい母親の間に生まれた、農家の三男だ。
サクセスは両親の温かい愛情を受け、スクスクと成長していくが、一つだけ問題がある。
それは、両親がとても貧乏であること。
幼い頃から、それに気づいていたサクセスは、成人を迎える日に家を出て行かなければならなくなると思い、その日の為にコツコツとお金を貯め続けた。
「それでは父さん、母さん、行ってきます!」
自分が成人する前日、両親から涙ながら家を出て行って欲しいと告げられたサクセスは、貯め続けていたお金「300ゴールド」を手に、成人したその日に家を出て行った。
サクセスは、涙を流して謝罪する両親を背に、冒険者になる為【アリエヘン】の町を目指す。
【アリエヘン】に到着したサクセスは、冒険者ギルドに向かう前に、まずは装備を整える事にした。
しかし、まともな装備を揃えるにはお金が足りず、仕方なくクズ装備箱の中から、
レアリティ777の「どうのつるぎ」
と、同じく
レアリティ777の「かわの防具」
を購入する。
装備を買い揃えたサクセスは、冒険者ギルドを訪れ、「戦士」の職業に転職して冒険者になると、早速、町近くの草原に向かい、魔物を倒しに行く……のだが。
「スライム強すぎるだろ!」
彼は、魔物一弱いと称されるスライムにすら苦戦する程弱かった。
だが初めてレベルアップした時、異変に気付く。
それは、他の人よりもレベルアップで上昇する能力値が10倍も多いという事。
不思議に思ったサクセスは、装備を確認すると、そこで装備に隠されたセットスキル
【レアリティ777】
に気づく。
これにより、サクセスの運命の歯車は大きく回り始めた。
※ 第一部改稿終了
外伝4話まで改稿済み
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~
そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。
王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。
中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。
俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。
そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが?
「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」
「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」
「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」
「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる