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第一章 灰色の現実

1-EX2 尾行しようよ♡

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 「いやあ、面白い話になってきたじゃないか」

 「立花先生にとっては他人事ですもんね」

 僕がそう悪態をつくと、立花先生は「そうでもないさ」と言葉を続ける。

 「ほら、クラスメイトの仲を取り持つ、っていうのも教師の仕事として大事だろう?だから、君たちがそうやって仲を育んでくれる分には、こちらとしては嬉しいし面白いって感じなんだよ」

 「はあ」

 それを言うのならば魔法教室後のアフターケアを気にしてほしいのだけれど、といかそれのせいでそんな事になっているのだけれど。そんな思いを言葉に吐き出すのはやめておいた。というか話すことに体力を持っていきたくはなかった。

 「……というか、こんな炎天下の日になんですか?僕、買い物行ったのでさっさと帰りたいんですけど」

 「そんな邪険にしてくれるなよ。僕は君たちが仲良くしてくれるのが嬉しいし、面白い。でも、それが更に面白くなれば、それでいいというか、それがいいというか」

 「……はあ、そうなんですね」

 こんなに暑い日差しだというのに、立花先生はいつも通りに長袖の白衣を着て、そうして佇んでいる。見ているだけでも暑苦しい気分だ。

 まともにやりあうだけ無駄だろう。適当な相槌を返してしまう。目上の人ではあるけれど、僕なりにこの人の対処方法についてはわかってきた。そこまで本気に相手をしない。それが、この人と関わる上での大事なことだと、僕はしっかり理解したのだ。

 「というわけで、今から天原くん尾行しない?」

 「なんで?!」





 「ほら、君たち最近会話はしてはいるけれど、それって上辺だけじゃない?相手のことを真に知って仲良くするためには、相手の裏側の方も知っておかなければいけないと思うんだよ。だから、尾行しようよ♡」

 「猫撫で声で何を言っているんですか……。僕、もう帰りますから」

 これ以上相手にして時間を無駄に、……というか太陽に体力を奪われたくない。

 「おいおいおいつれないなぁ。君ならのってくれるものだと僕は信じていたのに」

 「のるわけないでしょう……普通に犯罪じゃないですか」

 「いいや犯罪なんかじゃないよ。それなら探偵業とか興信所なんか犯罪のオンパレードじゃないか。だから尾行は犯罪じゃない、リピートアフターミー?」

 「言いませんよ……」

 「……はあ、入校したての君は素直だったのに、どうしてこんなにノリの悪い人間になってしまったんだ……。やっぱり友達がいない人間ってノリが悪いんだな……」

 「──なんですって?」 

 「や っ ぱ り 友 達 が い な い 人 間 っ て ノ リ が 悪 い ん だ な ぁ ! !」 

 あからさまに、大声で、誰かに聞こえるように、挑発するように。

 ……なんかだんだんイライラしてきた。

 別にあれだから。友達がいないことを馬鹿にされて、それで怒っている訳ではないから。単純にこの人の性格が僕に苛立ちを覚えさせているだけだから。

 「──そこまで言うならやってやろうじゃないですか」

 「もういいよ。どうせノリ悪いし」

 「やるって言ってるでしょ!!」

 割と本気の怒声を僕から引き出したところで、立花先生はニヤッと笑う。

 クソ、きっとこれは負け以上のなにものでもないのだろうな。





 「というかそもそも尾行するには、天原の位置を把握していなければならないのでは?」

 僕が当然の疑問を口にすると、先生は指を振りながらちっちっちと声に出して挑発する。実際これを人にやられると、結構イラつく。

 「僕に抜かりはないさ」

 これを見てみなさい、と立花先生から渡される──スマートフォン。

 「……これがどうかしたんですか?」

 「……使い方わからないの?」

 「持っていないので……」

 「……そうかい」

 なんでだろう。立花先生は憐れみの目で僕のことを見てくる。気のせいだと思いたい。

 先生は手早くスマートフォンを操作して、そして一つの画面を僕に見せつける。地図のようなものと、そして赤い点。

 「彼に発信器つけておいたんだ」

 「普通にやっていることヤバいでしょ」

 「大丈夫!絶対バレないから安心してくれたまえ!」

 「僕が言いたいのはそういうことじゃないんですよ……」

 ……ツッコむのも疲れてきた。

 とりあえず促されるままに、その地図の画面を見てみる。

 「割と近い位置にいるようだね。行ってみよっか」

 このペースに巻き込まれるのは精神的な苦痛を催すけれど仕方がない。僕は我慢しながら先生と一緒に歩いて行った。
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