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第一章 灰色の現実
1-4 ──ええと、よろしく?
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「だから、今日から君は魔法使いだ!以上!」
「それがよくわかんないって言ってるんですけど!?」
僕がそう返すと立花さんはため息をついた。ため息を吐きたいのは確実にこちらなのだけれども。
彼はそのまま見ていた僕の左手の甲を僕の眼前にまで持ってくる。
「──なんですこれ」
そして目に見えるのは僕の手の甲。手の甲といえばそうなんだけれど、そこには見慣れないタトゥーのようなものが書いてある。黒色の、刺又みたいな、そんな模様。
当たり前だけれど、タトゥーを彫った記憶はない。高校生だし。
「それは紋章だ。魔法使いにだけ現れる魔法使いの証のようなものだ。
なるほどなるほど。さっきから君の体が巻き戻らない理由っていうのは、魔法使いの素養があったということだったんだろう。
これはすごい!本当にすごいよ!君という身体に興味が湧いてくるねぇ!」
立花は手の甲を元の位置に戻して、まじまじと紋章とやらを見つめながら楽しそうにぶつぶつと呟いている。
「……紋章?……というか、葵の手の甲でそんなの見たことないんですけど」
「……魔法使いは秘匿される存在って言ったろう?普通に隠していたに決まっているじゃないか」
「……葵、そうなの?」
僕が葵にそう聞くと、「あ、うん」と言って、彼女は保健室から出ていく。急に出ていくもんだから何事かと思えば、その後すぐに戻ってきて、彼女は右手の甲を見せてくる。
赤色の、炎のような形のタトゥー、というか紋章。
「いつもはファンデーションで隠してるんだよ。……ほら、やっぱりバレちゃいけないし」
「まあ、さっき葵ちゃんは普通に魔法を見せたし、魔法使いだって告白しちゃったんだけどね」
立花さんは少し苦笑しながらそう呟いた。
「いやあ、それでも君が魔法使いでよかったよ。君が魔法使いなら僕もいやなことをしなくて済むからね。魔法使い同士の輸血ということならば、単純に婚姻ということで片が付くし、葵ちゃんを処刑する必要もない。めでたしめでたしだ!」
「──ちょっと待って、本当に待って。いや、待ってください。
さっきから本当にすべての状況がわからないんですよ。死んでたとか蘇生とか、魔法とか魔法使いとか、それで婚姻って何ですか!?」
葵はそんな僕の言葉を聞いて、返す。
「──ええと、よろしく?」
……更にややこしくしてんじゃねえぞお前。
◇
「……はあ、君ねぇ」
立花さんは呆れたような動作をとる。
「これからはこんなことの連続になるんだから、理解ができなくとも納得して受け容れるしかないんだよ?」
「……こんなことが連続になるんですか?」
「うん。だって今度から君は僕の生徒だから」
……本当に、何が起きているんだろう。そして彼は何を言っているんだろう。
「……もう、無理ぃ」
僕は理解の範疇を超えた意識を外に追いやりたくなるけれど、そんなに都合よく眠ることもできやしない。
「ま、そんなに悲観することはないさ。君がわからないって思ってることをすべて知れるのが僕の教室だ。憂う必要はない。なんなら、さっき葵ちゃんがやったみたいに君も魔法を使えるようになるんだからさ」
悲観する必要はない、ってそう言われても……。
……って。
「──え?僕も魔法が使えるんですか?」
「だから君はもう魔法使いなんだから使えるに決まっているじゃないか」
立花さんは続ける。
「でも、魔法には知恵が必要だ。知識が必要だ。崇高な精神と、非現実を受け容れる心の器量も必要だ。それができるようになって、ようやく魔法を使うことができる。
君にとってはすごい遠い道かもしれない。それでも、一般の人間には体験できない非現実を君は味わうことができる。
それは凄く価値のある経験だと、僕はそう思うけどね」
彼のそんな言葉を聞いて、僕は考える。
魔法だとか、魔法使いとか、紋章とか正直よくわからないし、別にそんなファンタジー的な何かはわからないままでいいような気もするけれど。
──好奇心は殺せない。どこまでいっても人間の好奇心は未知に惹かれていくものだ。葵がさっきやったように、僕にも魔法を使える可能性があるというのならば、その可能性に惹かれてしまうのは、人間の性だと言えるだろう。
その裏で、葵が僕をそこまでして助けた思惑に責任を取らなければいけない感情が付きまとう。
秘匿される存在である魔法使いというものを、自分の命を考えずに僕に明かして、そして僕を助けてくれた。処刑されることもきっと半ばで分かっていただろうに。とぼけた顔をしてはいたけれど、その裏にある覚悟は本物だったはずだ。
それなら、僕は責任をとらなければいけない。
ぶっちゃけ婚姻とかそういうのは、正直真面目には受け取れないけれど、それでも彼女が命を懸けてくれた分、僕を助けてくれた分は彼女の責任は取らなければいけない。
「──いい目になったじゃないか」
立花さんは、僕の顔を見つめてそう呟く。
「ということで今日から君は僕の生徒だ。
尊敬と崇拝の念を抱きながら、僕のことを先生と呼ぶがいい」
銀色の長髪を揺らしながら、彼は、──先生は僕を見下ろしてそう言った。
……というわけで、僕は今日から魔法使いになったらしいです。
「あ、ちなみに拒否権とかってなかったから、受け容れなかったとしても強制的に入校させるんだけどね」
「……さいですか」
「それがよくわかんないって言ってるんですけど!?」
僕がそう返すと立花さんはため息をついた。ため息を吐きたいのは確実にこちらなのだけれども。
彼はそのまま見ていた僕の左手の甲を僕の眼前にまで持ってくる。
「──なんですこれ」
そして目に見えるのは僕の手の甲。手の甲といえばそうなんだけれど、そこには見慣れないタトゥーのようなものが書いてある。黒色の、刺又みたいな、そんな模様。
当たり前だけれど、タトゥーを彫った記憶はない。高校生だし。
「それは紋章だ。魔法使いにだけ現れる魔法使いの証のようなものだ。
なるほどなるほど。さっきから君の体が巻き戻らない理由っていうのは、魔法使いの素養があったということだったんだろう。
これはすごい!本当にすごいよ!君という身体に興味が湧いてくるねぇ!」
立花は手の甲を元の位置に戻して、まじまじと紋章とやらを見つめながら楽しそうにぶつぶつと呟いている。
「……紋章?……というか、葵の手の甲でそんなの見たことないんですけど」
「……魔法使いは秘匿される存在って言ったろう?普通に隠していたに決まっているじゃないか」
「……葵、そうなの?」
僕が葵にそう聞くと、「あ、うん」と言って、彼女は保健室から出ていく。急に出ていくもんだから何事かと思えば、その後すぐに戻ってきて、彼女は右手の甲を見せてくる。
赤色の、炎のような形のタトゥー、というか紋章。
「いつもはファンデーションで隠してるんだよ。……ほら、やっぱりバレちゃいけないし」
「まあ、さっき葵ちゃんは普通に魔法を見せたし、魔法使いだって告白しちゃったんだけどね」
立花さんは少し苦笑しながらそう呟いた。
「いやあ、それでも君が魔法使いでよかったよ。君が魔法使いなら僕もいやなことをしなくて済むからね。魔法使い同士の輸血ということならば、単純に婚姻ということで片が付くし、葵ちゃんを処刑する必要もない。めでたしめでたしだ!」
「──ちょっと待って、本当に待って。いや、待ってください。
さっきから本当にすべての状況がわからないんですよ。死んでたとか蘇生とか、魔法とか魔法使いとか、それで婚姻って何ですか!?」
葵はそんな僕の言葉を聞いて、返す。
「──ええと、よろしく?」
……更にややこしくしてんじゃねえぞお前。
◇
「……はあ、君ねぇ」
立花さんは呆れたような動作をとる。
「これからはこんなことの連続になるんだから、理解ができなくとも納得して受け容れるしかないんだよ?」
「……こんなことが連続になるんですか?」
「うん。だって今度から君は僕の生徒だから」
……本当に、何が起きているんだろう。そして彼は何を言っているんだろう。
「……もう、無理ぃ」
僕は理解の範疇を超えた意識を外に追いやりたくなるけれど、そんなに都合よく眠ることもできやしない。
「ま、そんなに悲観することはないさ。君がわからないって思ってることをすべて知れるのが僕の教室だ。憂う必要はない。なんなら、さっき葵ちゃんがやったみたいに君も魔法を使えるようになるんだからさ」
悲観する必要はない、ってそう言われても……。
……って。
「──え?僕も魔法が使えるんですか?」
「だから君はもう魔法使いなんだから使えるに決まっているじゃないか」
立花さんは続ける。
「でも、魔法には知恵が必要だ。知識が必要だ。崇高な精神と、非現実を受け容れる心の器量も必要だ。それができるようになって、ようやく魔法を使うことができる。
君にとってはすごい遠い道かもしれない。それでも、一般の人間には体験できない非現実を君は味わうことができる。
それは凄く価値のある経験だと、僕はそう思うけどね」
彼のそんな言葉を聞いて、僕は考える。
魔法だとか、魔法使いとか、紋章とか正直よくわからないし、別にそんなファンタジー的な何かはわからないままでいいような気もするけれど。
──好奇心は殺せない。どこまでいっても人間の好奇心は未知に惹かれていくものだ。葵がさっきやったように、僕にも魔法を使える可能性があるというのならば、その可能性に惹かれてしまうのは、人間の性だと言えるだろう。
その裏で、葵が僕をそこまでして助けた思惑に責任を取らなければいけない感情が付きまとう。
秘匿される存在である魔法使いというものを、自分の命を考えずに僕に明かして、そして僕を助けてくれた。処刑されることもきっと半ばで分かっていただろうに。とぼけた顔をしてはいたけれど、その裏にある覚悟は本物だったはずだ。
それなら、僕は責任をとらなければいけない。
ぶっちゃけ婚姻とかそういうのは、正直真面目には受け取れないけれど、それでも彼女が命を懸けてくれた分、僕を助けてくれた分は彼女の責任は取らなければいけない。
「──いい目になったじゃないか」
立花さんは、僕の顔を見つめてそう呟く。
「ということで今日から君は僕の生徒だ。
尊敬と崇拝の念を抱きながら、僕のことを先生と呼ぶがいい」
銀色の長髪を揺らしながら、彼は、──先生は僕を見下ろしてそう言った。
……というわけで、僕は今日から魔法使いになったらしいです。
「あ、ちなみに拒否権とかってなかったから、受け容れなかったとしても強制的に入校させるんだけどね」
「……さいですか」
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