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3.黒
エピローグ
しおりを挟むジューンベリーが食べ頃を迎えている。これが終わったら、サンザシと収穫しよう。パイにして貰って、アンゼリカに教わったハーブティーを入れなくちゃ。お茶の時間にはカトレアとアランも呼ぼう。忙しいだろうけれど、少しだけ。
照りつける太陽に汗を拭って、デイジーはスコップで土を掘り起こした。
「キュウ」
庭を飛び回っていたハリィがジューンベリーに齧り付く。
「ああ! 待って、後でだってば! サンザシ、ハリィを捕まえといて!」
「少しくらいならいいじゃないですか」
言われたとおりにハリィを抱き上げてサンザシが肩を竦めた。
デイジーはもぐもぐと口を動かすハリィを見やって唇を尖らせる。
「駄目、放っておいたら全部食べるもの」
「まあそれは否めませんが。……何を植えるんです?」
サンザシはデイジーの手元を覗いて首を傾げた。ハンカチの上に広げた種を摘まんで、デイジーはにやりと口角をつり上げる。
「見てのお楽しみ」
「なんとなく察せられますけどね」
「……じゃあ聞かないでよ」
サンザシの言いぐさにむっとしつつ、種を土に埋めてゆく。水をやってから、ハリィの頭を撫でた。
「よし、ハリィ出番だよ。この辺びゅーっと吹いちゃって」
ハリィは嬉しそうに片翼を上げ、サンザシに抱かれたままで白い息を吐いた。見る間に芽が出てたくさんの白龍草が花を咲かす。
「最高! ありがとう!」
デイジーはサンザシの腕からハリィを抱き寄せて頬ずりをした。
「どうなさるのですか、この花」
「明日のカトレア姉様たちの結婚式で、ブーケに使って貰うの。楽しみだなあ」
カトレアとアランの結婚式はクローチアでも盛大に執り行われる事になった。本番を翌日に控えた城は大騒ぎで、使用人たちが駆け回っている。
お茶の準備、ちゃんとしてくれるだろうか。少しだけ心配になったが、押し切ればどうにかなるだろうとデイジーは一つ頷いた。
「カトレア様、きっとお綺麗でしょうね」
「私も結婚したいなあ」
「……アラン王子と?」
サンザシの言葉に、デイジーはお腹を抱えて笑った。よくそんな考えが浮かぶなあ。年下の従者は、デイジーが思っていたよりもずっと変わり者のようだ。
「私なら、アラン兄様よりサンザシの方がいいかな」
笑いすぎたらしく顔を顰めていたサンザシの頬が、一瞬にして赤く染まる。表情は険しいのに頬と耳だけ赤くて、またおかしくなって笑ってしまった。
「お父様に反対されたら、また二人で家出しようよ」
「……殴られるのはもうご免です」
「次はサンザシのお父さんとお母さんを探そう。ご挨拶したいの」
僅かに目を丸くしてから、サンザシはふわりと笑った。今ならやっとわかる。二年前のあの日、デイジーが一日中奔走してまで手に入れたかったのは、きっとこれだった。
デイジーはサンザシの手を取って歩き出した。小さな白龍が二人の上を飛んでいる。
ねえサンザシ、やっぱり一緒に死のうか。飽きるほど一緒に、生きた後で。
口には出さずに、デイジーは繋いだ指先に力を込めた。
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