21 / 29
第21話
しおりを挟むピンポーン。
くり返されるパターン。
朝、目覚めれば一人。
チャイムが鳴る。
ドアを開ければ中田が立っている。
中田の持ってきてくれた朝メシ。
風呂場の洗面台の鏡に映る疲れたオレの顔。
それから…。
灰谷がカラダ中につけた〈しるし〉は、どれもこれもうっすらとして、今にも消えそうだった。
首筋についた指の痕だけが、かろうじて残っていた。
灰谷。
灰谷。
灰谷。
ザーザーとオレのカラダを滑り落ちる水が排水口に吸い込まれていく。
それをただ見つめる。
「真島。真島」
風呂場の外から中田の声がする。
「真島、遅刻する。学校行こう」
学校…。
そうだ。灰谷がいるかもしれない。
灰谷が。
いる…かもしれない。
昼間は学校にいるのかもしれない。
そうだ。ミルハニのシークレットを渡してやろう。
いらないなんて言ってたけど本当は欲しいはず。
オレはシークレットをポケットに入れて学校へ向かった。
*
相変わらず、壁際一番後ろの灰谷の机の上には花瓶がのっている。
灰谷には花なんか似合わないのに。
オレはゆっくりと灰谷の席に近づいた。
もしかしたら灰谷の姿が見えるんじゃないかと。
気配を感じ取れるんじゃないかと。
「真島」とオレの名を呼ぶ灰谷の声が聞こえるんじゃないかと。
でも、灰谷の姿は見えず、気配も感じず、声も聞こえなかった。
灰谷は沈黙していた。
そう、学校ではオレたちはそんなに親しくもない、ただのクラスメイト。
だからなんだろ灰谷。
でも、これでオマエも黙ってはいられないはず。
ポケットからボトルキャップフィギアを取り出す。
シークレットのミルハニ。
灰谷の机の上に置いた。
「灰谷、これでフルコンプリートだよ」
返事はない。
そっかなんだっけ。ええと…。
「野郎ども、天国の門にキッスしな。ミル~ク。ハニ~。ヘブンズキーッス」
そんで、そうそうドロップキック。
オレはフィギアを持ち上げて、花瓶にドロップキックさせた。
そいでパンチラと。
灰谷、オマエの好きな巨乳ミニスカTバックだぞ。
しかもシークレットの赤Tバック。白じゃないんだぞ。
うれしいだろ。
「エロっ!」て言う灰谷の声を待った。
灰谷は言わなかった。
いつまで待っても言わなかった。
言わないの?言わないのか…。そっか。そっか。
やっぱオマエ、ムッツリじゃん。
トントンと肩を叩かれる。
ふり返れば中田で。
「真島。予鈴鳴った。ホームルームはじまる」
中田は痛々しそうな顔をして言った。
あれ?オレ、イタイの?
そうか…。
「…ああ」
自分の席に戻ろうとしてはじめて気がついた。
クラス中の視線がオレに集まっている。
何アイツ、とでもいうような。
ビックリしたような、引いたような。
ああ…オレ、やらかしちゃったみたい。
まあ、いいけど。
そして七瀬。七瀬と目があった。
ちっちゃくて白くて胸がデカくて男のオレとは真反対の女。
灰谷が付き合っていた女。
夏休みの間、灰谷を独り占めにしていた女。
そしてたぶん、灰谷が抱いた女。
死の直前まで会っていた女。
でも…灰谷が最後に会いに来たのはオレだ。
誰も知らないけれど。誰にも言えないけれど。
オレは口角だけを持ち上げてニッと笑ってみせた。
七瀬はビクッとして目をそらした。
席に着くと佐藤が寄ってきた。
「真島ー。お前どうしちゃったの。大丈夫か」
「佐藤、やめろよ」
中田が言う。
「いや、だって真島がさー。いきなり大声でヘブンズキッスとか言い出すからさ~」
ああ…そんな大きな声出しちゃってたか…。
「やめろって」
「どうしちゃった?マジマジックリン」
マジマジックリン…ああ…灰谷、オレにあだ名つけてたって言ってたな。ツーカー。
「マジに頭がクリックリンしちゃったか」
「佐藤、てめえホントに、ちっとは人のこと考えてモノを言え!」
中田がめずらしく感情的になっている。
「なんだよなんだよ。中田は真島には優しいけどオレにはいっつも冷てえよな」
佐藤がむくれている。
「お前、なんでそういうこと…ガキか」
「ガキで悪いか!」
ククク…オレは思わず笑ってしまう。
「お前らホントにいいヤツだよ。オレにはもったいねえ」
佐藤が目を丸くして、中田が困った顔をした。
その時、本鈴が鳴り、「ほらー席つけー」と担任が入ってきた。
また、始まる。
日常が。
灰谷がいないことなんて、まるで関係ないみたいに。
息を吸って、吐いて。
息を吸って、吐いて。
あと、どれ位くり返せば灰谷が今いるところに行けるんだろう。
灰谷。
灰谷。
灰谷。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
オレの心はただくり返す。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ショタ18禁読み切り詰め合わせ
ichiko
BL
今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
禁断の寮生活〜真面目な大学生×体育会系大学生の秘密〜
藤咲レン
BL
■あらすじ
異性はもちろん同性との経験も無いユウスケは、寮の隣部屋に入居した年下サッカー部のシュンに一目惚れ。それ以降、自分の欲求が抑えきれずに、やってはイケナイコトを何度も重ねてしまう。しかし、ある時、それがシュンにバレてしまい、真面目一筋のユウスケの生活は一変する・・・。
■登場人物
大城戸ユウスケ:20歳。日本でも学力が上位の大学の法学部に通う。2回生。ゲイで童貞。高校の頃にノンケのことを好きになり、それ以降は恋をしないように決めている。自身はスポーツが苦手、けどサカユニフェチ。奥手。
藤ヶ谷シュン:18歳。体育会サッカー部に所属する。ユウスケとは同じ寮で隣の部屋。ノンケ。家の事情で大学の寮に入ることができず、寮費の安い自治体の寮で生活している。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる