ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせる高校生男子・真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

文字の大きさ
上 下
139 / 154

第139話 これからの距離感

しおりを挟む
食事も済んでオレの部屋に灰谷と二人、上がってきた。

「あ~タオルケット~」

オレはベッドに飛びこみタオルケットを抱える。

「いや、オレ、タオルケット大好きなんだってわかったわ」
「なんだそれ」
「こうやって指で挟んでスリスリしながら寝るのが最高」
「なんだそりゃライナスか」 
「ライナス上等」
「お、そうだ真島、これ」

灰谷が窓際に置かれた灰谷行きとマジックで書かれたダンボールをポンポンと叩く。

「この間、取りに来たら、なんかすんげえ増えてるんだけど」
「いやあ~まあ、いいじゃねえか。読め読め。面白いの入れといたから」
「オマエが読みたいやつだろ」
「まあな」
「しょうがねえなあ」

灰谷は呆れたように笑いながら床に腰を下ろした。

「それより真島、この四日、何してたんだよ」
「ん?」
「あの部屋にずっといたの?」
「ん~チャリで海行った」
「海?」
「うん」
「チャリで?この暑いのに?」
「うん。すんげえキツかった」
「そりゃキツイだろう」
「地球温暖化は確実に進んでると思ったね。つうか中学生のオレらマジアホ」
「ああ……アホだな」

灰谷は小さく微笑んだ。

「んで、見れたの海」
「うん」
「そりゃあ良かった」
「うん」

オレはあのショボい海を、坂を、しんどい自転車道中をきっとずっと忘れない。


「そうだ灰谷、バイク。そう言えばバイク写ってなかった?」
「うん。買った」
「え~なんだよそれ。オレが欲しかったのにジョーカー。なんで灰谷が買っちゃうんだよ。ってあれ?でも確か二台ゲットって……」
「うん。オレとオマエの分」
「え?」
「オマエ、バイク欲しいって言ってたし。オレも一緒に走りたくなってさ」

灰谷は珍しくテレた顔で言った。

「中田の兄貴に頼んで探してもらった」
「灰谷……」

そんな事、考えてくれてたんだ。
オレがいない間。
オレと一緒に走りたいって。
オレの欲しがってたバイクまで探してくれて。

嬉しかった。
すんげえ嬉しかった。


「サンキューな」
「おう。あ、色、オマエどっちがいい?ブラックとシルバー」
「灰谷は?」
「オレ?オレは別にどっちでもいい。こだわりねえ」
「そっか。じゃあオレは黒かな。ブラック」

灰谷がクスリと笑った。

「なんだよ」
「いやあ、なんでもない。じゃあオレがシルバーな」
「あ、でも灰谷、オレさ、実はカネが…」
「ああ、オレが建て替えとくから、分割で払え」
「助かる。けど、オマエそんなにおカネあんの?」
「オマエと違ってバイト代、貯金してっからな」
「お~素晴らしい~」
「バイクの写真見るか?」
「見る見る」

オレは起き上がって灰谷が見せてくれるスマホの写真をのぞきこむ。

「お~カッコイイ~。シルバーもいいじゃん」
「うん」

色違いのバイクで灰谷と二人走る。

ん~。いいね~。

「バイクなら海も近いよな」
「ああ。チャリより楽勝だろ」
「うん」
「まあ、あの時の、チャリはチャリで良かったんだけどな」
「……うん」

そうだった。
いい思い出だった。
今度はまたバイクで、いい思い出を作ろう。


「ただ、問題が二つある」
「なんだよ」
「まず節子、バイクダメだって」
「ああ、そうだよな」

忘れてた。
母ちゃん反対してたんだった。

「こっちは粘り強く説得するしかない」
「うん」
「それと……バイクな、中田の兄貴に探してもらったんだ」
「おう。伝説の不良に」
「うん。で、かなりムリして探してもらったんだ」
「ムリ?」
「オマエが帰って来た時に、つうかオマエに帰って来たいって思わせたかったからさ」

え?そんな事まで考えて用意してくれたの。
なんだよそれ。

「灰谷……」
「いやいや、そういうのはいいんだけど」

よくねえよ。
なんかもうこいつ……。

「いやだから、まあ、一日でも早くって頼んだんだよな。まあでも、そう簡単に見つかるとは思ってなかったんだけど」
「うん」
「一日で見つけてくれちゃったんだよ」
「おお。さすが。ああ、お礼言わないとな」
「うん。で、だ。第二回長渕ナイト開催決定な」

灰谷がオレの肩を叩いた。

「オーマイゴッド」

オレは天を仰ぎ、十字を切った。
いやオレ、宗教ないけども。

「ジーザース」
「うん。ジーザス」
「あ~また頭で何日も回っちゃうよ~。生きてー生きてー生きてーヨーソローヨーソロー。うお~」

オレは頭を抱えた。

「うん。でだ、更に矢沢ナイトも順次開催予定」
「何それ?」
「まあそれだけ色んな人の力を借りて探したって事」
「うお~マジか~。矢沢の人、歌上手いかな?」
「どうだろうなあ」
「いや、長渕も矢沢も楽曲はいいんだけどさ。もう、言ってみればシロートのナリキリの熱い歌って…」
「ああ。地獄。でもまあ、ペナルティだと思って」
「なんのペナルティだよ」

灰谷はオレのTシャツのえりを掴み、顔を近づけた。

「オレに黙って行ったペナルティだよ」
「それは……」
「わかるけど。でも、黙って行くなよ。せめてなんか言って行けよ」

灰谷の顔は本当に怒っていた。
そんだけ心配してくれてたんだなとわかった。

「うん、ワリぃ」

つうか顔近い。
マジでキスする五秒前。
灰谷も感じたのか、パッと手を離した。

「……まあだから、今回のナイトは真島がメインになって盛り上げろよ」
「おお。わかった」

これからいろんな距離感難しいなとオレは思った。
カラダも心も……。


「あ!」

灰谷が突然声を上げた。

「なんだよ」
「ヤバイ。オレ、ファミレスに置きっぱ」
「何を?」
「あいつらを」
「え?」
「サトナカ」
「ん?佐藤と中田?」

灰谷は電話を掛け始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...