ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせる高校生男子・真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

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第139話 これからの距離感

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食事も済んでオレの部屋に灰谷と二人、上がってきた。

「あ~タオルケット~」

オレはベッドに飛びこみタオルケットを抱える。

「いや、オレ、タオルケット大好きなんだってわかったわ」
「なんだそれ」
「こうやって指で挟んでスリスリしながら寝るのが最高」
「なんだそりゃライナスか」 
「ライナス上等」
「お、そうだ真島、これ」

灰谷が窓際に置かれた灰谷行きとマジックで書かれたダンボールをポンポンと叩く。

「この間、取りに来たら、なんかすんげえ増えてるんだけど」
「いやあ~まあ、いいじゃねえか。読め読め。面白いの入れといたから」
「オマエが読みたいやつだろ」
「まあな」
「しょうがねえなあ」

灰谷は呆れたように笑いながら床に腰を下ろした。

「それより真島、この四日、何してたんだよ」
「ん?」
「あの部屋にずっといたの?」
「ん~チャリで海行った」
「海?」
「うん」
「チャリで?この暑いのに?」
「うん。すんげえキツかった」
「そりゃキツイだろう」
「地球温暖化は確実に進んでると思ったね。つうか中学生のオレらマジアホ」
「ああ……アホだな」

灰谷は小さく微笑んだ。

「んで、見れたの海」
「うん」
「そりゃあ良かった」
「うん」

オレはあのショボい海を、坂を、しんどい自転車道中をきっとずっと忘れない。


「そうだ灰谷、バイク。そう言えばバイク写ってなかった?」
「うん。買った」
「え~なんだよそれ。オレが欲しかったのにジョーカー。なんで灰谷が買っちゃうんだよ。ってあれ?でも確か二台ゲットって……」
「うん。オレとオマエの分」
「え?」
「オマエ、バイク欲しいって言ってたし。オレも一緒に走りたくなってさ」

灰谷は珍しくテレた顔で言った。

「中田の兄貴に頼んで探してもらった」
「灰谷……」

そんな事、考えてくれてたんだ。
オレがいない間。
オレと一緒に走りたいって。
オレの欲しがってたバイクまで探してくれて。

嬉しかった。
すんげえ嬉しかった。


「サンキューな」
「おう。あ、色、オマエどっちがいい?ブラックとシルバー」
「灰谷は?」
「オレ?オレは別にどっちでもいい。こだわりねえ」
「そっか。じゃあオレは黒かな。ブラック」

灰谷がクスリと笑った。

「なんだよ」
「いやあ、なんでもない。じゃあオレがシルバーな」
「あ、でも灰谷、オレさ、実はカネが…」
「ああ、オレが建て替えとくから、分割で払え」
「助かる。けど、オマエそんなにおカネあんの?」
「オマエと違ってバイト代、貯金してっからな」
「お~素晴らしい~」
「バイクの写真見るか?」
「見る見る」

オレは起き上がって灰谷が見せてくれるスマホの写真をのぞきこむ。

「お~カッコイイ~。シルバーもいいじゃん」
「うん」

色違いのバイクで灰谷と二人走る。

ん~。いいね~。

「バイクなら海も近いよな」
「ああ。チャリより楽勝だろ」
「うん」
「まあ、あの時の、チャリはチャリで良かったんだけどな」
「……うん」

そうだった。
いい思い出だった。
今度はまたバイクで、いい思い出を作ろう。


「ただ、問題が二つある」
「なんだよ」
「まず節子、バイクダメだって」
「ああ、そうだよな」

忘れてた。
母ちゃん反対してたんだった。

「こっちは粘り強く説得するしかない」
「うん」
「それと……バイクな、中田の兄貴に探してもらったんだ」
「おう。伝説の不良に」
「うん。で、かなりムリして探してもらったんだ」
「ムリ?」
「オマエが帰って来た時に、つうかオマエに帰って来たいって思わせたかったからさ」

え?そんな事まで考えて用意してくれたの。
なんだよそれ。

「灰谷……」
「いやいや、そういうのはいいんだけど」

よくねえよ。
なんかもうこいつ……。

「いやだから、まあ、一日でも早くって頼んだんだよな。まあでも、そう簡単に見つかるとは思ってなかったんだけど」
「うん」
「一日で見つけてくれちゃったんだよ」
「おお。さすが。ああ、お礼言わないとな」
「うん。で、だ。第二回長渕ナイト開催決定な」

灰谷がオレの肩を叩いた。

「オーマイゴッド」

オレは天を仰ぎ、十字を切った。
いやオレ、宗教ないけども。

「ジーザース」
「うん。ジーザス」
「あ~また頭で何日も回っちゃうよ~。生きてー生きてー生きてーヨーソローヨーソロー。うお~」

オレは頭を抱えた。

「うん。でだ、更に矢沢ナイトも順次開催予定」
「何それ?」
「まあそれだけ色んな人の力を借りて探したって事」
「うお~マジか~。矢沢の人、歌上手いかな?」
「どうだろうなあ」
「いや、長渕も矢沢も楽曲はいいんだけどさ。もう、言ってみればシロートのナリキリの熱い歌って…」
「ああ。地獄。でもまあ、ペナルティだと思って」
「なんのペナルティだよ」

灰谷はオレのTシャツのえりを掴み、顔を近づけた。

「オレに黙って行ったペナルティだよ」
「それは……」
「わかるけど。でも、黙って行くなよ。せめてなんか言って行けよ」

灰谷の顔は本当に怒っていた。
そんだけ心配してくれてたんだなとわかった。

「うん、ワリぃ」

つうか顔近い。
マジでキスする五秒前。
灰谷も感じたのか、パッと手を離した。

「……まあだから、今回のナイトは真島がメインになって盛り上げろよ」
「おお。わかった」

これからいろんな距離感難しいなとオレは思った。
カラダも心も……。


「あ!」

灰谷が突然声を上げた。

「なんだよ」
「ヤバイ。オレ、ファミレスに置きっぱ」
「何を?」
「あいつらを」
「え?」
「サトナカ」
「ん?佐藤と中田?」

灰谷は電話を掛け始めた。
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