ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせる高校生男子・真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

文字の大きさ
上 下
121 / 154

第121話 噂

しおりを挟む
う~ん。
手強いっていうか、そりゃそうか……。

バイト中、レジに立つ灰谷は腕組みしながら思った。

灰谷があれこれ話しても真島の母節子からバイクOKは出なかった。
危険である(これはまあ当然の事)、真島の性格上バイクの運転が向いているとは思えない、というのが節子の弁だった。

「あの子、子供の頃から意外と注意力散漫なのよね。運転してる時にぽわーんって何か考え始めちゃって、ガッチャーンってなりそうだもの」

真島なら十分ありえる、と思ったら、返す言葉がみつからなかった。
実はバイクも準備できているとは言えない雰囲気だった。

節子とは対象的に「バイク?いいわよ」とすぐにOKを出した母久子からの助け舟を期待したが、よその家の事には口出ししませんといった顔でワインを飲んでいた。

「それより灰谷くん、今度久子さんの彼女もいっしょにみんなで食事しましょうよ」

節子がとんでもない事を言い出した。

「私、腕によりをかけて美味しいもの作るから」
「それいい節子さ~ん。ミネも喜ぶ~」

灰谷が思った通り、節子は久子の話を気持ちよく受け入れてくれたようだった。
それは良かったと思う。
でも、母とその彼女出席の食事会を想像すると……。
どんな顔していればいいのだろう。
でもまあ、三人で会うよりはいいかもしれない。
人数が多い方が。

まあ、そっちはいいとして、バイク、バイクがな~。


ん?あれ……。

休憩中の友樹が店の前で常連客の女子高生三人組に囲まれていた。
そのうち一人は灰谷に、もう一人は真島に告白してきた女子だった。

次は立花なんだろうか。
変わり身早いな。
いやまあ、オレ達はフッたから何も言えないけど。

ん?

友樹と女子達が話しながらチラチラと自分の方を見ているのに灰谷は気がついた。



「灰谷先輩、休憩どうぞ」

女子達から解放されたらしい友樹が灰谷に声を掛けてきた。

「ああ。何あれ?大丈夫だった」
「ああ。なんでもないですよ。ただの噂話です」
「噂?」
「ボク、真島先輩とはまだお会いしてないし」
「真島?真島がなんだって」

友樹の口から出た真島という言葉に灰谷は素早く反応した。

「……あの~最初は灰谷先輩が明日美さんって方と別れたのは本当かって聞かれて」
「ああ」
「聞いてたんで、今彼女はいないみたいですよって言ったんですけど。それでその……」

友樹が口ごもった。

「何?」
「いやあ……その……」
「いいよ。言って」

友樹は言いにくそうに言った。

「真島先輩が…その……ゲイ…で、それも原因なんじゃないかって」

灰谷は固まった。

なんだそれ?どっからそんな話。

「だからボクは最近入ったばっかりでよくわかりませんって言ったんですけど……」
「……」
「それで……その……あと……」

まだあるのかと灰谷は思った。

「あと?」
「いえ……」

灰谷の口調が強かったらしい。
友樹が口ごもった。

「いいよ。言って」
「真島先輩が……女の子を…妊娠させて捨てたってのは本当かとも言ってました」
「……」

灰谷の中に静かに怒りがこみ上げた。
どこのどいつがそんな事。
しかも他校のあの子達が知ってるって事はかなり広まってるって事か?

真島。
これ以上あいつを追いこみたくない。


「……あの、すいません。ボク、よく知らないのにこんな事」

友樹は恐縮している様子だった。

「いや、立花のせいじゃないよ」

灰谷はため息をついた。


「あの~ボク思ったんですけど、裏サイトじゃないですかね?」

恐る恐るといった感じで立花が言った。

「裏サイト?」
「あるんですよそういうのが。各学校にね。そこにある事ない事、誰かが書きこんだんじゃないんですか」

それこそ噂では聞いたことあるけど本当にあるのかそんなもの、と灰谷は思った。

「良かったらボク、探してみましょうか」
「え?」
「得意なんですよ、そういうの探すの。で、この話はデマだって書きこめばいいんじゃないですかね」

裏サイトを探すのが得意。
ただ単にPC関係に詳しいという事だろうか。

灰谷は友樹を見つめた。

純粋に親切心から言っているように見えた。

「いいよ。噂は噂だし過剰に反応するとややこしくなる」
「でも広がっちゃうと大変だし。ウソならウソって…」
「立花、真島がそういうヤツかどうか、一緒に働いて自分の目で確かめてくれ。あいつ、いいヤツだよ。オレが保証する」
「はい。もちろん」

友樹が微笑んだ。

「じゃ、オレ休憩入るわ」
「はい。いってらっしゃい」


バックルームに向かいながら灰谷は教室でアオってタンカを切った真島の姿を思い出した。

まったく。あんな事するから。
中田の言う通り、変なところで肝が座ってるんだよな。

ああ、でもオレも言っちゃったけどな。
思い返せば自分の方がかなりヒドイ事を言っている事に気がついた。
今度の件はオレのアオリのせいかも知れない。

影でコソコソやるようなヤツらが直接手を出して来るとは思えなかった。
ただ人の目は案外キツイ。

もしもの時はオレが……いや、オレ達サトナカハイで真島の事を守らないと。
いや、違う。
真島は守られるのなんてイヤがるだろう。
そう、一緒に戦ってやらねえと。
うん。

灰谷はポケットからスマホを取り出した。
相変わらず既読なし。着信なし。

あいつ、今頃どこで何してるんだろうなあ。

真島が姿を消して何度目だろう、灰谷は思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

さこゼロ
ファンタジー
俺のステータスがこんなに強いわけがない。 大型モンスターがワンパン一発なのも、 魔法の威力が意味不明なのも、 全部、幼なじみが見つけてくれたチートアイテムがあるからなんだ! だから… 俺のステータスがこんなに強いわけがないっ!

頭良すぎてバカになる

さとう たなか
BL
田舎の高校1年生、後呂美空(うしろ みう)は小学校からの幼馴染(男)にファーストキスを奪れた。 そのせいで男子との距離感がわからなくなり同じクラスの友人、仲村風馬(なかむら かずま)以外とは上手く接する事が出来なくなってしまった。そんな中、美空は顔は良いが間抜けな先輩、前川睦(まえかわ むつ)に出会う。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...