ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせる高校生男子・真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

文字の大きさ
上 下
110 / 154

第110話 一人②

しおりを挟む
夏の宵。

夜風が気持ちいい。

住宅街を抜けて公園を通りコンビニへ。
あ、この間灰谷と、これと反対のルート歩いたな。
なんて思いつつ。


アレコレ迷ってサンドイッチにいちごオーレ、アメリカンドッグっていう訳わかんない組み合わせに水のペットボトル、それからソーダ味のアイスを一本買ってコンビニを出た。


公園のベンチでアイスをかじる。
食後に食べようと思ってたけど、城島さんちには冷蔵庫がないんだった。

シャクシャクシャクシャク。

夜風が気持ちいい。

ぐ~。

腹が鳴った。

公園の時計は七時半だった。


今頃、灰谷は……。
バイトは十一時からだったから、もう終わってる。
黙って出ていったオレの事、どう思ってんだろ。

ふー。

ダメだダメだ。
一旦捨てなきゃ。
大事なものを捨てなきゃ。

とりあえずメシだ。
メシ喰おう。


城島さんの部屋に戻ってコンビニで買ってきたものを食べる。

モソモソモソ。
ん~なんか物悲しいなあ~。

動くものがないからか。
音出すものも。

取り壊しが決まってるせいか他の部屋はすでに空いてるっぽくて、建物全体に人の気配がない感じだった。
城島さんがテレビは捨てられないって言ってたのもわかるような気がするな。
映像だけでもチラチラしてたら、紛れそうな気がする。

紛れる?
ああ。なるほど。
スマホの電源も入れてない。
PCもない。
テレビもない。
話せる人もいない。
あるのは自分だけ。
そっか。自分と向き合うのか。


怖え~。
なんだか今一瞬ゾッとした。

城島さんは働きながらだけど、これを一人でしばらくやってたんだよな。
スゴイよ。
オレなんか家出てから数時間しか経ってないのに、もうすでに帰りたくなってる。

ふう~。
なんか、メシ食えない……。

今日が八月の二十五日。
三十日までに帰るとして、あと五日か……。
長えな。
持つかなオレ。
何する?

一つだけ、やってみようと思ってることがあった。
でもそれは昼間だ。

寝るか。
いや、さっき起きたばっかなのに眠れるか?


――ってあら?急に腹が痛い。

トイレトイレ……。

「お借りしま~す」


はあ~スッキリ。
で、紙が……ない。
五センチ位残ってるだけ……。
いける?いけないだろこれ。

おーい。どうすんだコレ。

家だったら「母ちゃ~ん紙ないんだけど~」って呼べば済むのにな。
そうか、これが一人暮らし。
トイレットペーパーの在庫にも気を配らないとならないわけか。


はあ~。


神よ~。紙よ~。紙下さ~い。

オレは手を合わせて上を見上げた。

天井付近に突っ張り式の棚が吊ってあった!
けど……何もない。

お~。どうする?

オレはぐるりとトイレ内を見渡す。
便器の下辺りに置いておいたりは……ないね。

ああ~。
これは~ええと~パンツ足首に引っ掛けたままお尻突き出してチョコチョコ歩きながらトイレから出て……。

え~どうすんだ。
んん~。
あ~風呂場のシャワーで流す?
それもな~。

あ~ピーンチ。

んん~。


振り向けば背後には窓。
カーテンがかかっている。
なんで窓にカーテン?
そっとカーテンを開けてみる。
あ~外の廊下に面しているからか。
電気つけるとシルエットが見えちゃうからだな。
――って、あった!!トレペ!

窓枠に一個、隠れるようにちょこんと載っていた。

あ~神よ。いや城島さん。
ありがとう。ありがとう。

事なきを得た。

はあ~。アホなことしてて疲れる。



オレはベランダの窓を開けて腰を下ろした。

アパートの二階からは家の明かりがボツボツと見えた。

あの明かり一つ一つの下に人が住んでるんだよな、なんて事を思う。
そしてオレみたいに悩んだり、メシ食ったり、トイレットペーパーがなくて困っていたりしてるんだろう。

その中には前に城島さんの言ったヒドイ事だって起こってるんだろうな。

昼の明るい明け透けさに比べて夜はなんて静かで懐が深いんだろう。
夜は昼のすべてを覆い隠す。

なんて事をつらつら考えていたら……。

ん?

カーテンの影に灰皿。
城島さんの机の上に用意してあった灰皿だ。
そしてあのタバコとライター。
灰皿には長さの違う吸い殻が二本。

――これって。

今のオレみたいに窓を開けて城島さんとあの人、公園で会ったあの人がベランダで二人、タバコを吸っている姿が目に浮かぶ。
二人、ただ静かにタバコを吸っている姿が。


ちょっと迷ったけど、母ちゃんゴメンと心でつぶやいて、オレもタバコに火をつけた。

あの人に教わったように肺に煙を入れて吐く。

フー。

吸って吐く。
吸って吐く。

繰り返してから唇を舐めると甘い。


城島さんは大丈夫。
うん。大丈夫。
オレは確信した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

処理中です...