106 / 154
第106話 オムライスと中田の洞察力
しおりを挟む
「ホントに連絡つかないの真島?」
ガツガツとステーキ肉に食いついていた佐藤が口元についたステーキソースをぬぐいながら言った。
「ああ」
そっか。ここのオムライスってこのタイプだったか。
卵をスプーンでつつきながら灰谷は答えた。
真島家を後にしてサトナカに電話したら、中田がバイトの給料が出たのでメシをオゴってくれると言う。
ついでに夏休みの課題の事も検討しようというので、いつものファミレスで待ち合わせた。
灰谷が着くと中田と佐藤はすでに来ていた。
面倒だった灰谷はメニューも見ずにオムライスを注文した。
「真島~マジか~?なんだよ一人旅って。しかもチャリで?」
「うん。らしい。節子によれば」
「全国横断の小学生かよ。結衣ちゃんともあんなに仲良さそうだったのにフラれたとか言うし。失恋旅行か」
「そんな乙女じゃないだろ」
とんかつ御膳の豚汁に七味をこれでもかと振りながら中田が言う。
真島は結衣との別れの理由を自分がイチャイチャしすぎて引かれてフラれた、という事にしていた。
「あ~じゃあやっぱあれか、学校でみんなにバラされちゃったのが……」
「かもな、仲良くしてたツレに、『そんなの簡単に受け入れられねえよ~』とか言われちゃったしな」
「グッ……それはオマエ……」
「冗談だって。そこは気にしねえよ真島は。な、灰谷」
おそらく杏子経由で明日美や結衣との件をいろいろ聞いているだろうに中田はそんな事をおくびにも出さなかった。
「うん」
「だよなあ。んもう~中田のイケズ~。なんか心当たりないの灰谷」
『……灰っ…谷……灰……谷ぃ…』
真島の部屋の前で聞いたくぐもるような湿った声が灰谷の頭の中でリフレインした。
「……ない」
「オマエがわかんないんじゃ、オレたちにわかるわけないよな」
「ん~。あ、豚汁うまっ」
灰谷はオムライスをスプーンですくって口に入れた。
「ふわふわ」
「あ?何、灰谷」
「ここんちのふわふわだな、卵」
「ん?」
「ふわふわだしデミグラだし」
「え?それがウマいんじゃん」
「いや、オムライスは薄焼き卵でケチャップだろ」
「昭和」
「そういや真島もそんなこと言ってたな」
それはきっと真島の母、節子の作るオムライスのせいだ。
例えばそれは、母が仕事で授業参観に来れなかった時。
飼い始めた猫が病気ですぐに死んでしまった時。
中学生まで続けていたサッカーを膝を痛めてできなくなった時。
そんな時決まって『オムライス食おうぜ灰谷』、真島はそう言って灰谷を家に引っ張っていった。
節子の作るオムライスはいつも薄焼き卵にケチャップだった。
『オマエ、オムライス好きだよな』と真島はよく言う。
でも多分、オムライスが好きなのは真島の方だ、と灰谷は思う。
真島は本当に美味しそうにオムライスを食べる。
それをいつも見ているから。
だから、オレも好きになった。
真島……。
灰谷はオムライスをほおばった。
食後はコーヒーを飲みながら課題の作戦会議。
「つうか、真島あいつ課題持っていってると思う?」
「持ってかねえだろ」
「だよな。丸投げか~逃げたな真島のやつ」
逃げた。
逃げたのか。
何から?
オレから?
すべてから?
ん~。
どうにもすべての言葉を真島に結びつけてしまう灰谷がいた。
「まあいいじゃねえか。オレもバイト終わったし、三人でやればチョロいって」
中田の言葉に佐藤が神妙な顔をして聞く。
「前から思ってたけど中田はなんだかんだ言って真島に甘いよな。なんでだ?」
「なんで?なんでだろう。あいつカワイイじゃん」
「な、中田。もしやオマエも真島のトリコに。魔性!魔性のゲイ?いやバイ?」
「ちげえよ。あ、ちがわないか」
「マジで?」
「いやさ、あいつ、この間も教室であんな事バラされても煽ったりタンカ切ったり。肝が座ってるじゃん。あんな事するヤツなんてサイテーだしさ。オレ、スカッとした」
「オレはひやひやしたよ」
灰谷は驚いた。
そして、あんな事するヤツらをまともに相手にする事ないのにと思った。
でも、昔からそうだがああいう事するヤツを生理的に受け付けない、そういう所が真島にはある。
それに……。
そう。もうきっと、ウソをつく自分をオレに、オレ達に見せたくなかったんだろう。
そうも思った。
「かと思えばなんか繊細でさ、いっつもグルグル考えて狭いとこ自分で入りこんで周りが見えなくなってたりとかもするし」
「そっか~?そんなとこあるか?」
言われてみればそういう所、あるかもしれない。
中田の分析に灰谷は感心する。
「他人なんて興味ねえ~みたいな顔してるけど、実は人のことちゃんと見てるし優しいじゃん」
「うん。真島は優しいよ。マックおごってくれるし」
「そのアンバランスさが面白いって言うか」
「そういうのをトリコっていうんじゃねえの」
「そうかな。ならそうかもな。な、灰谷」
オマエもそうだろと言われているようだった。
中田の方こそ真島の事をよく見てるしわかってる。
案外近くにいすぎるオレより、真島の事が見えてるのかもしれない、と灰谷は思った。
「おい灰谷~」
「ん?」
「つうかさ、真島、いくらなんでも始業式までには戻ってくんだろ」
「ああ。節子もそんなこと言ってた」
「んじゃあさ、中田が言うように課題はオレたちで頑張ろうぜ。あいつも色々あったしさ。きっと一人になる時間が必要なんだよ」
「だな」
なんだかんだ言ってもオレたちは真島には甘いのだった。
得意科目に合わせて課題を割り振った。
「んじゃ、帰るわ」
「あれ?なに灰谷、ここでやってかねえの?明日美ちゃん?」
「いや」
「またみんなで集まりたいよな。あ~でも真島、結衣ちゃんと別れちゃったし、みんなではムリか」
「オレ、明日美と別れたわ」
さらりと言って灰谷は立ち上がった。
「中田、今日はゴチな」
「おう」
「ええ~っ!別れたって灰谷!明日美ちゃんと?」
「うん。んじゃな」
「ちょっと灰谷、なんだそれ。詳細をくわしく。ってうわ~コーヒーこぼした」
「佐藤、オマエあせりすぎ」
「だって明日美ちゃん、うわ~教科書……」
「いいから拭け。灰谷」
灰谷の背中に中田が声をかけた。
「ん?」
灰谷は立ち止まり振り返った。
「あんま心配すんなよ真島の事。すぐ帰って来るんだから」
「おう。してないよ心配なんて」
「なら、いい。じゃなお疲れ~」
「ウィ~」
「ちょっ、灰谷、詳細~」
「いいから佐藤。オマエは座れ。それ終わったらデザート食べていいから」
「ホントに?」
「ホントホント。まあでも、真島っつうか、実はマジハイ見てるのが楽しいんだけどなオレは」
中田は一人、つぶやいた。
ガツガツとステーキ肉に食いついていた佐藤が口元についたステーキソースをぬぐいながら言った。
「ああ」
そっか。ここのオムライスってこのタイプだったか。
卵をスプーンでつつきながら灰谷は答えた。
真島家を後にしてサトナカに電話したら、中田がバイトの給料が出たのでメシをオゴってくれると言う。
ついでに夏休みの課題の事も検討しようというので、いつものファミレスで待ち合わせた。
灰谷が着くと中田と佐藤はすでに来ていた。
面倒だった灰谷はメニューも見ずにオムライスを注文した。
「真島~マジか~?なんだよ一人旅って。しかもチャリで?」
「うん。らしい。節子によれば」
「全国横断の小学生かよ。結衣ちゃんともあんなに仲良さそうだったのにフラれたとか言うし。失恋旅行か」
「そんな乙女じゃないだろ」
とんかつ御膳の豚汁に七味をこれでもかと振りながら中田が言う。
真島は結衣との別れの理由を自分がイチャイチャしすぎて引かれてフラれた、という事にしていた。
「あ~じゃあやっぱあれか、学校でみんなにバラされちゃったのが……」
「かもな、仲良くしてたツレに、『そんなの簡単に受け入れられねえよ~』とか言われちゃったしな」
「グッ……それはオマエ……」
「冗談だって。そこは気にしねえよ真島は。な、灰谷」
おそらく杏子経由で明日美や結衣との件をいろいろ聞いているだろうに中田はそんな事をおくびにも出さなかった。
「うん」
「だよなあ。んもう~中田のイケズ~。なんか心当たりないの灰谷」
『……灰っ…谷……灰……谷ぃ…』
真島の部屋の前で聞いたくぐもるような湿った声が灰谷の頭の中でリフレインした。
「……ない」
「オマエがわかんないんじゃ、オレたちにわかるわけないよな」
「ん~。あ、豚汁うまっ」
灰谷はオムライスをスプーンですくって口に入れた。
「ふわふわ」
「あ?何、灰谷」
「ここんちのふわふわだな、卵」
「ん?」
「ふわふわだしデミグラだし」
「え?それがウマいんじゃん」
「いや、オムライスは薄焼き卵でケチャップだろ」
「昭和」
「そういや真島もそんなこと言ってたな」
それはきっと真島の母、節子の作るオムライスのせいだ。
例えばそれは、母が仕事で授業参観に来れなかった時。
飼い始めた猫が病気ですぐに死んでしまった時。
中学生まで続けていたサッカーを膝を痛めてできなくなった時。
そんな時決まって『オムライス食おうぜ灰谷』、真島はそう言って灰谷を家に引っ張っていった。
節子の作るオムライスはいつも薄焼き卵にケチャップだった。
『オマエ、オムライス好きだよな』と真島はよく言う。
でも多分、オムライスが好きなのは真島の方だ、と灰谷は思う。
真島は本当に美味しそうにオムライスを食べる。
それをいつも見ているから。
だから、オレも好きになった。
真島……。
灰谷はオムライスをほおばった。
食後はコーヒーを飲みながら課題の作戦会議。
「つうか、真島あいつ課題持っていってると思う?」
「持ってかねえだろ」
「だよな。丸投げか~逃げたな真島のやつ」
逃げた。
逃げたのか。
何から?
オレから?
すべてから?
ん~。
どうにもすべての言葉を真島に結びつけてしまう灰谷がいた。
「まあいいじゃねえか。オレもバイト終わったし、三人でやればチョロいって」
中田の言葉に佐藤が神妙な顔をして聞く。
「前から思ってたけど中田はなんだかんだ言って真島に甘いよな。なんでだ?」
「なんで?なんでだろう。あいつカワイイじゃん」
「な、中田。もしやオマエも真島のトリコに。魔性!魔性のゲイ?いやバイ?」
「ちげえよ。あ、ちがわないか」
「マジで?」
「いやさ、あいつ、この間も教室であんな事バラされても煽ったりタンカ切ったり。肝が座ってるじゃん。あんな事するヤツなんてサイテーだしさ。オレ、スカッとした」
「オレはひやひやしたよ」
灰谷は驚いた。
そして、あんな事するヤツらをまともに相手にする事ないのにと思った。
でも、昔からそうだがああいう事するヤツを生理的に受け付けない、そういう所が真島にはある。
それに……。
そう。もうきっと、ウソをつく自分をオレに、オレ達に見せたくなかったんだろう。
そうも思った。
「かと思えばなんか繊細でさ、いっつもグルグル考えて狭いとこ自分で入りこんで周りが見えなくなってたりとかもするし」
「そっか~?そんなとこあるか?」
言われてみればそういう所、あるかもしれない。
中田の分析に灰谷は感心する。
「他人なんて興味ねえ~みたいな顔してるけど、実は人のことちゃんと見てるし優しいじゃん」
「うん。真島は優しいよ。マックおごってくれるし」
「そのアンバランスさが面白いって言うか」
「そういうのをトリコっていうんじゃねえの」
「そうかな。ならそうかもな。な、灰谷」
オマエもそうだろと言われているようだった。
中田の方こそ真島の事をよく見てるしわかってる。
案外近くにいすぎるオレより、真島の事が見えてるのかもしれない、と灰谷は思った。
「おい灰谷~」
「ん?」
「つうかさ、真島、いくらなんでも始業式までには戻ってくんだろ」
「ああ。節子もそんなこと言ってた」
「んじゃあさ、中田が言うように課題はオレたちで頑張ろうぜ。あいつも色々あったしさ。きっと一人になる時間が必要なんだよ」
「だな」
なんだかんだ言ってもオレたちは真島には甘いのだった。
得意科目に合わせて課題を割り振った。
「んじゃ、帰るわ」
「あれ?なに灰谷、ここでやってかねえの?明日美ちゃん?」
「いや」
「またみんなで集まりたいよな。あ~でも真島、結衣ちゃんと別れちゃったし、みんなではムリか」
「オレ、明日美と別れたわ」
さらりと言って灰谷は立ち上がった。
「中田、今日はゴチな」
「おう」
「ええ~っ!別れたって灰谷!明日美ちゃんと?」
「うん。んじゃな」
「ちょっと灰谷、なんだそれ。詳細をくわしく。ってうわ~コーヒーこぼした」
「佐藤、オマエあせりすぎ」
「だって明日美ちゃん、うわ~教科書……」
「いいから拭け。灰谷」
灰谷の背中に中田が声をかけた。
「ん?」
灰谷は立ち止まり振り返った。
「あんま心配すんなよ真島の事。すぐ帰って来るんだから」
「おう。してないよ心配なんて」
「なら、いい。じゃなお疲れ~」
「ウィ~」
「ちょっ、灰谷、詳細~」
「いいから佐藤。オマエは座れ。それ終わったらデザート食べていいから」
「ホントに?」
「ホントホント。まあでも、真島っつうか、実はマジハイ見てるのが楽しいんだけどなオレは」
中田は一人、つぶやいた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
頭良すぎてバカになる
さとう たなか
BL
田舎の高校1年生、後呂美空(うしろ みう)は小学校からの幼馴染(男)にファーストキスを奪れた。
そのせいで男子との距離感がわからなくなり同じクラスの友人、仲村風馬(なかむら かずま)以外とは上手く接する事が出来なくなってしまった。そんな中、美空は顔は良いが間抜けな先輩、前川睦(まえかわ むつ)に出会う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる