上 下
105 / 154

第105話 青春っぽいの

しおりを挟む
「あの、今日って多田さんシフトでしたっけ?」

友樹への紹介が一段落したところを見計らって灰谷は聞いてみた。

「ん?真島くんの代わりだけど」
「え?」
「あれ、もしかして灰谷くん聞いてない?昨日の夜電話が来て、八月中のシフト、全部代わったの。夏休みの課題が間に合わないからって」
「そう……ですか」
「灰谷くんは?課題、終わってる?」
「あ~もう少しなんですけど」

灰谷の納得できないような様子を見て、店長の目が好奇心に輝いた。

「あれ?何何?一番の親友が聞いてないって何よ?ケンカでもした?あれえ、それとも明日美ちゃんと三角関係とか?」
「違いますよ」
「だよね~」

昨日はそんなこと一言も言ってなかったんだけどな……。


ん?
灰谷が視線を感じて顔を上げると友樹と目が合った。

友樹は灰谷を見て、ふわりと笑った。

なんだ?人の痴話話が面白いとか?
そういう感じでもないか。

「ワケありだなあ。まあとにかく立花くんは、これから灰谷くんと真島くんとシフトがいっしょになる事が多いと思うから、指導よろしくね」
「はあ」



その日、灰谷はモヤモヤしながら働いた。

バイト終わりに真島に電話をしてみた。
電源が切られている。

あいつ……ホントなんなの?
LINEを送る。

『おい。バイト休んで何してんだよ?』


「あの……灰谷先輩、お疲れ様です」

すでに帰り支度を済ませていた友樹は律儀にも灰谷が電話を終わるまで待っていたらしい。

「ああ。お疲れ」
「先輩、家は大通りの方ですか?」
「いや、反対側。立花くんちはあっちの方?」
「はい。あの、立花でいいですよ」
「そう?」
「真島先輩はこっちですよね」
「うん。あれ?真島のこと知ってるの?」
「いえ。さっき店長に聞いて」
「ああ」
「じゃあ、ボク、お先に失礼します」
「お疲れ」

立花友樹はなるほど、他店舗で働いていただけのことはあり、ほとんど教えることもなく、テキパキと働いていた。
店長の言う通り即戦力だった。
明日美の穴も埋まるだろう。明日美目当ての客は減るかも知れないが。

それにしても真島のやつ、夏休みの残りのシフト全部休みってどういう事だろう。
確かに課題にはまるっきり手をつけてないとは言ってたけど。
みんなで手分けしてやる事になってるし。

具合でも悪くなったとか?
昨日の今日で?
いや、でもこの間の熱中症もあるしな。

灰谷は自転車で真島の家へ向かった。

  *   *   *

チャイムを押すと母の節子が出てきた。

「あら灰谷くんどうしたの」
「真島、いますか?」
「 まことならいないわよ」
「え?」
「あれ?聞いてない?今日のお昼に自転車に乗って出かけたの。旅に出るって」
「旅…ですか」

意外な展開に灰谷は驚いた。

「なんか昨夜急に、一人になって色々考えてみたいから行かせてくれって言い出して。
あたしは反対したんだけど。お父さんが『わかった行って来い』って。
あの人ああ見えて、そういう青春っぽいの好きだから」

青春っぽいの……。

「まあ、あの子もいろいろあったから。
一人になって自分と向き合いたいって言うのもわからなくはないしね。
とは言っても、あと一週間で学校が始まるからそれまでには帰って来るって約束だけはさせたんだけど」
「そうですか」
「でも、灰谷くんに黙って行くなんておかしいわね」

それだけ追いこまれてるって事かもしれないな。
いや、深刻か。

「でもね~あの子あれで淋しがりだから、すぐに帰ってくるとあたしは踏んでるんだけど。多分、長くて二日ってとこね」


真島家を後にして、灰谷はもう一度スマホをチェックしてみた。
折り返しの電話はないし、LINEのメッセージに既読もついていなかった。
もう一度電話してみたが、相変わらず電源は切られたままだった。
念の為に佐藤と中田に電話して聞いてみたが、二人とも真島の行き先はおろか旅に出たことさえも知らなかった。

親とバイト先だけ。
そこだけにはキチッと筋を通す辺りがなんとも真島らしかった。

それにしてもオレには一言あってもいいのに。
もしかしてやっぱ昨日の……つうかオレのことが関係してんのか?
ないことはないよな……。

あいつ、一人でどこ行ったんだろう。


灰谷は空を見上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

雷音
BL
全12話 本編完結済み  雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ 一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。 ※闇堕ち、♂♂寄りとなります※ 単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。 (登場人物は全員成人済みです)

叔父を愛している話

神谷 愛
BL
急に両親がいなくなった。ほかに頼れる人もいなかった僕は叔父のもとに引き取られることになった。妻もいないという叔父は優しく僕を受け入れてくれた。一緒に暮らしているうちに自分の中に親愛とはことなる感情が生まれていることを言い出せないまま数年を過ごしていた。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

ラガー少年緊縛特訓

龍賀ツルギ
BL
ラグビー部の高校生塚本マモルが監督の今村秀雄にマゾ調教される話。 たまにはサッカー少年ではなく精悍なラグビー少年の調教話を書きたくなりました。 いつも華奢な美少年ばかりを餌食にしておりますので😅 ローズバットNightにもマモルと言う名のラグビー青年が出てきますが関連は有りません。 この作品ではハイソックスをラグビーソックスと表記いたします❗ 僕の作品ですのでマモルもラグビーソックスを履いて緊縛調教されます。 短篇で書いていくつもりです😺 目標10000字を超えずにまとめること‼️

いくら仲良しでも適度な距離は必要です。

蒼乃 奏
BL
「俺、考えたんだけど。悠太は俺と付き合ってる事にしよう」 「………え?何言ってんの?」 幼なじみの訳の分からない説得に混乱する俺。 「もう無理だから。選択肢はないから」 何が無理なのか知らないけど、お前と付き合うとか無理なんですけど。 とりあえず、その際どい所を触ってる手を離してもらえませんかね? 幼なじみとの適度な距離って? 甘いBLです。本番は※をつけます。 R18なので苦手な方はスルーしてください。

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

処理中です...