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第99話 断捨離/真島が言おうとしたこと

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「オマエまだやんの?」

断捨離を続けるオレを尻目にシャワーを浴びてさっぱりした表情の灰谷が言う。
ベッドの縁に腰かけて濡れた髪をタオルでゴシゴシと拭く。
オレのTシャツに少し丈の足りないジャージ姿。
熱のこもったカラダ。
うちのボディーソープとシャンプーの匂い。
清潔な肌。

その姿はひどく無防備でオレを落ち着かない気持ちにさせる。
なんでだろう。こんなの何度も見てるはずなのに。
なんだか見ていられない。

「オレ、もうちょっと片付けるから。灰谷、先寝てろよ」
「いや、オマエが寝るまで起きてるって。つうか手伝うって言ってんじゃん」

オレの部屋には寝る場所もないからって、さっき母ちゃんが客間に布団を敷いてくれた。
張り切って二組。
オレのはいいって言ったのに。
並んだ布団はまるで新婚初夜。
あんな近くじゃ寝れねえし。

「手伝って貰うことがねえよ。オレのときめきはオレにしか測れないんだから」
「まあな」
「じゃあ、明日の朝、早起きしてゴミ捨てに付き合ってくれよ」
「おう。じゃあ先に寝るかな。お前もテキトーにしろよ」
「うん」
「んじゃ、おやすみ」

灰谷がオレの肩をポンと叩き、荷物を飛び越えて出て行った。

灰谷の触れたところが、熱を持ってジンジンする。

そう、オレのときめきはオレにしか測れない。

ときめき~。


はあ~。

それにしても……オレ、さっき公園の近くで灰谷に何言おうとした?
灰谷が明日美ちゃんと別れたって聞いて。


――もう、限界かな。
いっそのこと告ってフラレて終わりにしたい気持ちもある。
このままだったら笑い話に……なんねえか。

いや、逆にオレがラクになるだけだろ。
灰谷に自分の気持ちだけ押しつけて。
いや、灰谷ならキッパリ、カタつけてくれるかも。

「真島、ハッキリ言う。オマエとはそういうの、ない。でも、今までどおり友達な」……とかね。

はあ~。

わかんねえ。なんかもうわかんねえ。

ふ~。

ガサガサガサガサ。

オレは自分の始末のつかない気持ちを詰めこむようにゴミ袋にモノを詰めた。




ガタガタバタン。

真島が片付けをする音が聞こえる。
客間に敷かれた布団の上にごろりと寝転がり、頭の下に手を組んで灰谷は天井を眺めていた。

明日美と別れた。
本当は自分の方から別れを切り出さなければいけなかったのに、結果、明日美に言わせてしまった。

サイテーだなオレ。


そして、別れたその足で真島に会いに来た。

まだ数時間しかたってないのに、もうなんだか終わったことみたいな気がしている。
オレって本当に薄情だな。

なんだっけ。真島が昼間、言ってたやつ。

『自分にとって一番大事なものが何かを知るには、今大事だと思ってるものを片っ端から捨ててみること』……だっけ。

あいつも色々あったから、だから断捨離なんて始めたんだろうな。

大事なものか……大事なものを片っ端から……オレなら何を捨てる?
そしたら何が残る?


コンビニからの帰り道、真島は何を言おうとしたんだろうか。


まぶしいあの夏。
自転車で遊びに行ったあの時も、真島はオレに何か言いかけた。

そして、退院してオレがなんでも話せよって言った日も。

同じ顔をしていた気がする。


『灰谷……オレ……オレ』

あれは……。
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