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第89話 登校日①
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高校の登校日。
数日ぶりに着る制服はなんだか少し窮屈に感じる。
灰谷の自転車の後ろに乗るのは今日で最後と決めていた。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
母ちゃんの声がする。
オレは階段を下りていく。
「灰谷、ウイッス」
灰谷はビックリ顔だ。
呼ばれる前にオレが下りていったからだろう。
「真島、オマエどうしたの。今日は雪降るんじゃね?」
「かもな。んじゃ、行ってきます」
母ちゃんの顔を見て言う。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
玄関のドアから顔を出して母が笑顔で手を振った。
灰谷が軽く頭を下げた。
オレはいつものように灰谷の自転車の後ろに腰を下ろす。
「んじゃ、今日もタンデムで行きますか」
「おう」
灰谷の力強い漕ぎで自転車が軽快に走り出した。
暑い夏の日差し。
ぬるい風。
お尻に伝わる振動。
しばらくして灰谷が言った。
「結衣ちゃんのこと明日美から聞いた。……大変だったな」
「オレが悪い。オレの事はいい。それより灰谷、母ちゃんを労ってくれよ」
「おう。節子の好きなケーキでも買って遊びに行くか」
「頼む」
風を切って進む自転車。
オレの特等席。
「オマエさ、明日美ちゃん、自転車の後ろに乗っけたことある?」
「明日美?ああ例のストーカー事件の時に乗っけたきりかなあ」
「今度また乗せてやれよ。いいぞオマエの背中」
「オレの背中~?フェロモン出てるか?」
「おう。惚れちゃいそう。灰谷く~ん」
オレはふざけたフリして灰谷の腰に手を回し背中に頬をくっつけた。
「おいおいやぶさかじゃねえなあ」
「やぶさかじゃねえのかよ」
「あれ?やぶさかじゃないってどういう意味だっけ」
「知らん」
「暑い。くっつくな」
「うるさい。眠いんだよ」
灰谷の背中だ。
広くて固くて気持ちイイ。
しっとり汗がにじんでる。
オレは目を閉じる。
キイキイいう自転車の音。
頬を行き過ぎる風。
シャツに包まれた灰谷のカラダ。
ずっとこうしてたいなあ。してたかったなあ。
車が突っこんできて、二人いっしょにハネてくんねえかなあ。
願ってはみたが叶うはずもなく。
いつもの交差点で佐藤と中田と合流するまで、オレは目を閉じ、最後の特等席を噛みしめていた。
「よっ、熱中症少年!」
「うるさいよ佐藤」
「もういいのか真島」
「うん。佐藤も中田もこの間はありがとな」
オレが退院した翌日、訪ねてきてくれて、お見舞いつって佐藤は自作のジオラマ、中田は働いてる店の洋服をくれた。
「いいっていいって。杏子も心配してたわ」
「『マジー、マジ大丈夫~?』って?」
「おっ、似てる」
「うっさいよ佐藤」
「じゃあ中田、マジーマジ大丈夫~。杏子ちゃんありがとっす、マジリスペクトっすって言っといて」
「マジー、マジ受けんですけど~」
佐藤がノッた。
「マジサト、オマエらマジうざいんですけど~」
中田もノッた。
「……」
「灰谷はまたボケんのか~い」
佐藤がツッコむ。
「いやだから、オレ、オチは無理だって」
杏子ちゃんのものまねでマジーマジマジ言いながら、オレたちが教室に入っていくと、ざわついていた教室内がピタリと静かになった。
「マジ卍、チョリーッス!」
静かな教室に佐藤の声が響き渡った。
なんだ?
「えーみんなどうしたの?オレやっちゃった?」
ん?見られてるのってもしかして、オレ?
黒板の前に集まっていたやつらが、バラバラと席に帰っていく。
なんか貼ってある?
何?写真?
近づいてよく見ればそれはオレが城島さんとホテルから出てきた所を写したものを大きくプリントアウトしたものだった。
数日ぶりに着る制服はなんだか少し窮屈に感じる。
灰谷の自転車の後ろに乗るのは今日で最後と決めていた。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
母ちゃんの声がする。
オレは階段を下りていく。
「灰谷、ウイッス」
灰谷はビックリ顔だ。
呼ばれる前にオレが下りていったからだろう。
「真島、オマエどうしたの。今日は雪降るんじゃね?」
「かもな。んじゃ、行ってきます」
母ちゃんの顔を見て言う。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
玄関のドアから顔を出して母が笑顔で手を振った。
灰谷が軽く頭を下げた。
オレはいつものように灰谷の自転車の後ろに腰を下ろす。
「んじゃ、今日もタンデムで行きますか」
「おう」
灰谷の力強い漕ぎで自転車が軽快に走り出した。
暑い夏の日差し。
ぬるい風。
お尻に伝わる振動。
しばらくして灰谷が言った。
「結衣ちゃんのこと明日美から聞いた。……大変だったな」
「オレが悪い。オレの事はいい。それより灰谷、母ちゃんを労ってくれよ」
「おう。節子の好きなケーキでも買って遊びに行くか」
「頼む」
風を切って進む自転車。
オレの特等席。
「オマエさ、明日美ちゃん、自転車の後ろに乗っけたことある?」
「明日美?ああ例のストーカー事件の時に乗っけたきりかなあ」
「今度また乗せてやれよ。いいぞオマエの背中」
「オレの背中~?フェロモン出てるか?」
「おう。惚れちゃいそう。灰谷く~ん」
オレはふざけたフリして灰谷の腰に手を回し背中に頬をくっつけた。
「おいおいやぶさかじゃねえなあ」
「やぶさかじゃねえのかよ」
「あれ?やぶさかじゃないってどういう意味だっけ」
「知らん」
「暑い。くっつくな」
「うるさい。眠いんだよ」
灰谷の背中だ。
広くて固くて気持ちイイ。
しっとり汗がにじんでる。
オレは目を閉じる。
キイキイいう自転車の音。
頬を行き過ぎる風。
シャツに包まれた灰谷のカラダ。
ずっとこうしてたいなあ。してたかったなあ。
車が突っこんできて、二人いっしょにハネてくんねえかなあ。
願ってはみたが叶うはずもなく。
いつもの交差点で佐藤と中田と合流するまで、オレは目を閉じ、最後の特等席を噛みしめていた。
「よっ、熱中症少年!」
「うるさいよ佐藤」
「もういいのか真島」
「うん。佐藤も中田もこの間はありがとな」
オレが退院した翌日、訪ねてきてくれて、お見舞いつって佐藤は自作のジオラマ、中田は働いてる店の洋服をくれた。
「いいっていいって。杏子も心配してたわ」
「『マジー、マジ大丈夫~?』って?」
「おっ、似てる」
「うっさいよ佐藤」
「じゃあ中田、マジーマジ大丈夫~。杏子ちゃんありがとっす、マジリスペクトっすって言っといて」
「マジー、マジ受けんですけど~」
佐藤がノッた。
「マジサト、オマエらマジうざいんですけど~」
中田もノッた。
「……」
「灰谷はまたボケんのか~い」
佐藤がツッコむ。
「いやだから、オレ、オチは無理だって」
杏子ちゃんのものまねでマジーマジマジ言いながら、オレたちが教室に入っていくと、ざわついていた教室内がピタリと静かになった。
「マジ卍、チョリーッス!」
静かな教室に佐藤の声が響き渡った。
なんだ?
「えーみんなどうしたの?オレやっちゃった?」
ん?見られてるのってもしかして、オレ?
黒板の前に集まっていたやつらが、バラバラと席に帰っていく。
なんか貼ってある?
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近づいてよく見ればそれはオレが城島さんとホテルから出てきた所を写したものを大きくプリントアウトしたものだった。
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