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第88話 最後の電話
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妊娠がなかったことがわかった日の夜遅く電話が鳴った。
結衣ちゃんからだった。
「もしもし」
『…真島くん、電話に出てくれてありがとう』
結衣ちゃんの声は小さく、少し震えていた。
「うん」
『……ごめんなさい。こんなに大変なことになっちゃって』
「うん」
『あたし、もし真島くんの子供ができてたら、真島くん、帰ってきてくれるんじゃないかって』
「うん」
『そんなことないのわかってたけど。もしかしたらって』
「うん」
うん、しか言うことができなかった。
ここまで追いこんだのはオレだった。
『まだ早いのわかってたけど、検査薬使ったら、それをお母さんにみつかっちゃって。で、で……本当にごめんなさい。真島くんのご両親にも……』
「いいんだよ。オレが全部、悪い。結衣ちゃんには本当に悪い事したと思ってる。ごめん。本当にごめん」
『謝らないで。あたしは嬉しかった。楽しかった。この夏、真島くんと一緒にいられて』
「……」
灰谷への当てつけで始めた結衣ちゃんとの付き合いだたったけど、オレも嬉しかったし楽しかった。
こんな自分の事を全身で好きだと言ってくれる結衣ちゃんの存在になんて言えばいいんだろう。
そう。慰められた。
でも灰谷を想う気持ちとは全然違くて……。
『あのね、あの……灰谷くんの事』
「うん」
『知ってるの?灰谷くんは真島くんの気持ち』
「知らない。気づいてないと思う」
『そっか。……あのね、灰谷くんとうまくいくといいね、とは言えない』
「うん」
『でもね、一番そばにいる人に想いを伝えられないツライ気持ちはわかる。わかると思う』
「うん」
『真島くんの気持ち知ってるのって、あたしだけだよね』
城島さんは……省いていいんだろうな。
「うん」
『二人の秘密だね』
「うん」
『話してくれてありがとう。あ、あたしが無理やり言わせたんだよね』
「……」
『真島くん、あたし、真島くんのこと、本当に好きだったよ』
「うん。わかってた。ちゃんとわかってた。ごめんな」
ごめんしか言える言葉がなかった。
『……これで最後、だよね』
「……うん」
『元気でね』
「結衣ちゃんも。元気で」
二人とも電話を切れずにいた。
『真島くん、電話切って』
「いや、結衣ちゃんが切りなよ」
『わかった……じゃあ……さよなら……』
電話を切った後、結衣ちゃんはきっと泣くだろう。
オレが傷つけた人。
今度のことでイヤというほどよくわかった。
オレ自身の弱さと女々しさ、灰谷への執着の深さ。
オレ、時期が来たら、ここを離れよう。
灰谷から、離れよう。
それで、灰谷のいないところで一人で何もかも始めるんだ。
自分一人で自分の責任において。
城島さんの言うように何もかも捨ててみたら何が一番大事なのかわかるのかもしれない。
――って、まあ、高校卒業まではこのままやってくしかないし、大学までは(行ったらだけど)親掛かりになっちゃうだろうけど……。
母ちゃんを、親父を、オレの周りにいる人を、これ以上オレのせいで泣かせたくない。
高校卒業まであと1年半。
それまでなんとか持ちこたえよう。
そう心に誓った。
結衣ちゃんからだった。
「もしもし」
『…真島くん、電話に出てくれてありがとう』
結衣ちゃんの声は小さく、少し震えていた。
「うん」
『……ごめんなさい。こんなに大変なことになっちゃって』
「うん」
『あたし、もし真島くんの子供ができてたら、真島くん、帰ってきてくれるんじゃないかって』
「うん」
『そんなことないのわかってたけど。もしかしたらって』
「うん」
うん、しか言うことができなかった。
ここまで追いこんだのはオレだった。
『まだ早いのわかってたけど、検査薬使ったら、それをお母さんにみつかっちゃって。で、で……本当にごめんなさい。真島くんのご両親にも……』
「いいんだよ。オレが全部、悪い。結衣ちゃんには本当に悪い事したと思ってる。ごめん。本当にごめん」
『謝らないで。あたしは嬉しかった。楽しかった。この夏、真島くんと一緒にいられて』
「……」
灰谷への当てつけで始めた結衣ちゃんとの付き合いだたったけど、オレも嬉しかったし楽しかった。
こんな自分の事を全身で好きだと言ってくれる結衣ちゃんの存在になんて言えばいいんだろう。
そう。慰められた。
でも灰谷を想う気持ちとは全然違くて……。
『あのね、あの……灰谷くんの事』
「うん」
『知ってるの?灰谷くんは真島くんの気持ち』
「知らない。気づいてないと思う」
『そっか。……あのね、灰谷くんとうまくいくといいね、とは言えない』
「うん」
『でもね、一番そばにいる人に想いを伝えられないツライ気持ちはわかる。わかると思う』
「うん」
『真島くんの気持ち知ってるのって、あたしだけだよね』
城島さんは……省いていいんだろうな。
「うん」
『二人の秘密だね』
「うん」
『話してくれてありがとう。あ、あたしが無理やり言わせたんだよね』
「……」
『真島くん、あたし、真島くんのこと、本当に好きだったよ』
「うん。わかってた。ちゃんとわかってた。ごめんな」
ごめんしか言える言葉がなかった。
『……これで最後、だよね』
「……うん」
『元気でね』
「結衣ちゃんも。元気で」
二人とも電話を切れずにいた。
『真島くん、電話切って』
「いや、結衣ちゃんが切りなよ」
『わかった……じゃあ……さよなら……』
電話を切った後、結衣ちゃんはきっと泣くだろう。
オレが傷つけた人。
今度のことでイヤというほどよくわかった。
オレ自身の弱さと女々しさ、灰谷への執着の深さ。
オレ、時期が来たら、ここを離れよう。
灰谷から、離れよう。
それで、灰谷のいないところで一人で何もかも始めるんだ。
自分一人で自分の責任において。
城島さんの言うように何もかも捨ててみたら何が一番大事なのかわかるのかもしれない。
――って、まあ、高校卒業まではこのままやってくしかないし、大学までは(行ったらだけど)親掛かりになっちゃうだろうけど……。
母ちゃんを、親父を、オレの周りにいる人を、これ以上オレのせいで泣かせたくない。
高校卒業まであと1年半。
それまでなんとか持ちこたえよう。
そう心に誓った。
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