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第87話 バカなガキ
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翌日の事だった。
バイトを終えて家に帰ると母ちゃんが玄関先でちょうど電話を切ったところだった。
「 信、あんた、結衣さんって子と付き合ってたってホント?」
オレの顔を見て静かな声で聞いた。
「え?うん」
「今、その子の親御さんから電話があって、あんたに妊娠させられて捨てられたって言ってる」
妊娠?
一瞬頭がパニックになった。
母ちゃんはオレの答えをじっと待っている。
「……付き合ってた。最近別れた。妊娠…は……ない……と、思う」
「どうしてそう思うの」
「ちゃんと避……避妊、してたから」
「とにかく、その子とそういう事があったのは事実なのね」
「うん」
母ちゃんは黙ったまま、しばらく何か考えていた。
そして言った。
「今から行くわよ、その子の家」
「え?」
「事実を確認して、謝るべきところがあれば謝るよ。こういうことは早いほうがいい。お父さんには後であたしから話す。あんたは制服に着替えなさい。髪もキチッとして」
――その日の母の姿をオレは一生忘れないだろう。
母ちゃんは結衣ちゃんの両親の前で畳に額をこすりつけた。
次々と浴びせられる結衣ちゃんの両親の言葉に、ただただ頭を下げ続けた。
オレのせいで。
オレも隣りで頭を下げた。
それしかできなかった。
結局、オレたちが最後にしてから一週間しかたっていなかったので、妊娠が確認できる時期まで待ってから、改めて話し合いをすることになった。
母ちゃんは娘さんともきちんとお話させて下さいと頼んだがそれは聞き届けられず、結衣ちゃんがその場に姿を現すことはなかった。
そのまま黙って二人、家まで帰った。
帰り道、母ちゃんは一言も口をきかなかった。
家の玄関を入ったところで、オレはこらえきれずに言った。
「母ちゃん、ごめん」
振り向いたと思ったら母ちゃんはオレの頬をビシリと叩いた。
「これは結衣さん分。これは結衣さんのご両親の分。これはお父さんとあたしの分」
三発、オレの頬を叩いた。
母ちゃんに叩かれたのはガキの頃以来だった。
頬が熱を持ってヒリヒリしてキーンと耳鳴りがした。
それだけ本気で叩かれた。
「痛っ。叩いたこの手も痛いわ」
「……ごめんなさい」
「男の子生んだ時から、もしかしたらこういうこともあるかもしれないって想像しなかったわけじゃないわ。
実際に体験するとは思っても見なかったけど」
「……」
何も言えなかった。
母ちゃんはオレの顔を見つめて言った。
「 信、人と関わるってね、こういうことなのよ。
人を深く傷つける事もあるの。
だからね、人とは誠実に向き合わなくちゃ。
もちろんあんたがそうしてなかったって言ってるわけじゃないのよ。
でもね、こんな風にするしかなかった結衣さんのことを思えば、おのずとあんたがどんな付き合い方をしていたかがわかる」
その通りだった。
そして始末の悪いことにオレには自覚もあった。
「起きてしまったことは変えられない。
これを機会にあんたは考えなさい。
人とどう向き合えばいいのかを」
「……うん」
「そして……もし結衣さんが本当に妊娠していたら。
私たちは結衣さんの望む、私たちに出来る限りのことをしなければいけないわ。
そこは、覚悟しなさい」
「はい」
「それとね、 信、あたしはあんたの親だからあんたが可愛い。
結衣さんのご両親だって結衣さんが可愛い。
だから今日のことで結衣さんのご両親を悪く思っちゃダメよ」
「うん」
母ちゃんにここまで言わせたことに、オレは泣けてきた。
「男は泣かない!」
そう言った母ちゃんも泣いていた。
「あたしも泣かない!」
「母ちゃん」
「何よ」
「母ちゃんの息子で良かったよ」
「でしょっ!だったらもうババアって言わないでよね」
「うん」
「さあ、今日は肉食べるわよ肉。力つけて頑張らないと」
その夜、母ちゃんから話を聞いた親父はオレの頬を一発殴ってからこう言った。
「男なら女を泣かせるな。母さんを泣かせるな。オレも謝りに行く」
似たもの夫婦。
でも、オレは愛されていた。
その夜、オレの頬はジンジンしてずっと耳鳴りがしていた。
翌日、結衣ちゃんの家から電話があった。
妊娠はなかったとの事だった。
きっと生理が来たんだろう。
わかっていたこととは言え、万に一つってこともあるし、正直オレは胸を撫で下ろした。
その話を聞いても母ちゃんは電話口で誠心誠意、謝っていた。
(娘さんを不安にさせてしまって本当に申し訳ありませんでした)
(親であれば聞きたくないであろう話をお聞かせてしまったこと、本当に本当に申し訳ありませんでした)
情けなかった。
自分がしでかした事の重大さを改めて思い知った。
オレはガキだ。
バカなガキだった。
バイトを終えて家に帰ると母ちゃんが玄関先でちょうど電話を切ったところだった。
「 信、あんた、結衣さんって子と付き合ってたってホント?」
オレの顔を見て静かな声で聞いた。
「え?うん」
「今、その子の親御さんから電話があって、あんたに妊娠させられて捨てられたって言ってる」
妊娠?
一瞬頭がパニックになった。
母ちゃんはオレの答えをじっと待っている。
「……付き合ってた。最近別れた。妊娠…は……ない……と、思う」
「どうしてそう思うの」
「ちゃんと避……避妊、してたから」
「とにかく、その子とそういう事があったのは事実なのね」
「うん」
母ちゃんは黙ったまま、しばらく何か考えていた。
そして言った。
「今から行くわよ、その子の家」
「え?」
「事実を確認して、謝るべきところがあれば謝るよ。こういうことは早いほうがいい。お父さんには後であたしから話す。あんたは制服に着替えなさい。髪もキチッとして」
――その日の母の姿をオレは一生忘れないだろう。
母ちゃんは結衣ちゃんの両親の前で畳に額をこすりつけた。
次々と浴びせられる結衣ちゃんの両親の言葉に、ただただ頭を下げ続けた。
オレのせいで。
オレも隣りで頭を下げた。
それしかできなかった。
結局、オレたちが最後にしてから一週間しかたっていなかったので、妊娠が確認できる時期まで待ってから、改めて話し合いをすることになった。
母ちゃんは娘さんともきちんとお話させて下さいと頼んだがそれは聞き届けられず、結衣ちゃんがその場に姿を現すことはなかった。
そのまま黙って二人、家まで帰った。
帰り道、母ちゃんは一言も口をきかなかった。
家の玄関を入ったところで、オレはこらえきれずに言った。
「母ちゃん、ごめん」
振り向いたと思ったら母ちゃんはオレの頬をビシリと叩いた。
「これは結衣さん分。これは結衣さんのご両親の分。これはお父さんとあたしの分」
三発、オレの頬を叩いた。
母ちゃんに叩かれたのはガキの頃以来だった。
頬が熱を持ってヒリヒリしてキーンと耳鳴りがした。
それだけ本気で叩かれた。
「痛っ。叩いたこの手も痛いわ」
「……ごめんなさい」
「男の子生んだ時から、もしかしたらこういうこともあるかもしれないって想像しなかったわけじゃないわ。
実際に体験するとは思っても見なかったけど」
「……」
何も言えなかった。
母ちゃんはオレの顔を見つめて言った。
「 信、人と関わるってね、こういうことなのよ。
人を深く傷つける事もあるの。
だからね、人とは誠実に向き合わなくちゃ。
もちろんあんたがそうしてなかったって言ってるわけじゃないのよ。
でもね、こんな風にするしかなかった結衣さんのことを思えば、おのずとあんたがどんな付き合い方をしていたかがわかる」
その通りだった。
そして始末の悪いことにオレには自覚もあった。
「起きてしまったことは変えられない。
これを機会にあんたは考えなさい。
人とどう向き合えばいいのかを」
「……うん」
「そして……もし結衣さんが本当に妊娠していたら。
私たちは結衣さんの望む、私たちに出来る限りのことをしなければいけないわ。
そこは、覚悟しなさい」
「はい」
「それとね、 信、あたしはあんたの親だからあんたが可愛い。
結衣さんのご両親だって結衣さんが可愛い。
だから今日のことで結衣さんのご両親を悪く思っちゃダメよ」
「うん」
母ちゃんにここまで言わせたことに、オレは泣けてきた。
「男は泣かない!」
そう言った母ちゃんも泣いていた。
「あたしも泣かない!」
「母ちゃん」
「何よ」
「母ちゃんの息子で良かったよ」
「でしょっ!だったらもうババアって言わないでよね」
「うん」
「さあ、今日は肉食べるわよ肉。力つけて頑張らないと」
その夜、母ちゃんから話を聞いた親父はオレの頬を一発殴ってからこう言った。
「男なら女を泣かせるな。母さんを泣かせるな。オレも謝りに行く」
似たもの夫婦。
でも、オレは愛されていた。
その夜、オレの頬はジンジンしてずっと耳鳴りがしていた。
翌日、結衣ちゃんの家から電話があった。
妊娠はなかったとの事だった。
きっと生理が来たんだろう。
わかっていたこととは言え、万に一つってこともあるし、正直オレは胸を撫で下ろした。
その話を聞いても母ちゃんは電話口で誠心誠意、謝っていた。
(娘さんを不安にさせてしまって本当に申し訳ありませんでした)
(親であれば聞きたくないであろう話をお聞かせてしまったこと、本当に本当に申し訳ありませんでした)
情けなかった。
自分がしでかした事の重大さを改めて思い知った。
オレはガキだ。
バカなガキだった。
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