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第64話 ナツノヒカリを想う

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窓のない、風の通らないホテルの部屋で天井を見つめながらオレはあの夏を思い出す。


あの日、チャリで灰谷と出かけた中学生のあの日、灰谷は覚えていなかったけど、帰り道でケンカになった。
原因はたしか、なけなしのお金で買ったジュースをオレが飲みきったとかなんとかそんなので。
灰谷がキレたんだった。
暑くて疲れて家まではまだ遠くて。
灰谷は怒って口もきかないし。

夕方だってのにまだ明るくて蒸し暑くって。

長い上り坂にさしかかり、並んで自転車を押しながら、泣きたくなるような疲労感の中で突然オレは思ったんだ。


灰谷と二人、こうしている今が幸せだと。
こうやっていつまでも、こいつのそばにいたいと。


「灰谷……オレな」

オレは灰谷に声をかけた。

「なんだよ」

灰谷はオレを見た。

「(オレ、オマエと……)」

灰谷の顔を見たらなんだか胸がいっぱいになって、何も言えなくなってしまった。

「なんでもない。もうちょっとだぜ。がんばろう」

そう言ってごまかした。



あの日のオレを、オレは……想う。
あのナツノヒカリをオレは……想う。
灰谷を……想う。


オレのいままで生きてきた記憶や思い出のそのどれもが灰谷と結びついていて、だからこんなにも灰谷の事を想ってしまうのだろう。

けれど今年の夏、オレたちはバラバラで。
だからオレの心はネジ曲がって、こんなこと――結衣ちゃんと寝る――とかをしてしまうのだろう。


言い訳だ。
オレの都合のいい言い訳だった。

行き場のない想いはどこに行くんだろう。

結衣ちゃんとカラダを重ねれば重ねるほど淋しくてしょうがなくなった。

城島さんの時もそうだったけど、オレにとってセックスは少しの快楽とその後に淋しさを感じる行為だった。



「真島くん?」

シャワーから戻ってきた結衣ちゃんがオレの顔をのぞきこむ。

「ん?」
「ううん。泣いてるのかと思った」
「泣いてないよ」
「そう?」
「うん」

オレの変化に敏感な結衣ちゃん。
手を引いて胸に抱き寄せる。

ごめんね。好きじゃなくて。結衣ちゃんの好きと違くて。
せめてもの罪滅ぼしに、こうして抱きしめる。
スベスベして小さくてやわらかい抱き枕。

「落ち着く」

結衣ちゃんはオレの胸に頬を寄せる。

そうだね。
人のカラダって、心臓の音って落ちつくよね。


結衣ちゃんがオレの耳たぶを撫でた。

「これ、カッコイイね」

クロムハーツのピアス。
バイトして初給料で買ったやつ。
灰谷とデザイン違い。

「気に入った?」
「うん」

オレは右耳のピアスを外して結衣ちゃんの耳につける。

「え?いいの!」
「うん」
「ありがとう真島くん。大切にするね」
「うん」

多分こんなもんじゃ償いきれないほどヒドイことしてる……。
ごめんな。

オレは心でささやいた。
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