57 / 154
第57話 海からの帰り道 / 城島さんが捨てられなかった物
しおりを挟む
海からの帰り道。
みんなと駅で別れる。
灰谷とオレが残される。
灰谷は何も言わずに自転車置き場の方に歩き出す。
「オレ、コンビニ寄ってくから」
灰谷の背中に声をかける。
灰谷が立ち止まって振り向いた。
「真島、オマエ、ホントにあの子と付き合うの?」
「……わかんねえ」
「その気がないならちゃんと断れよ」
こいつ、今日一日散々ほったらかしてたくせになんなんだよ。
「灰谷には関係ないじゃん」
「ないことねえよ」
オレはおチャラけて言う。
「いやあセフレが一週間会えないってさ。その間ヒマだから付き合おっかな」
「オマエふざけんなよ」
なんだよそのマジトーン。
「ふざけてねえよ。オマエなんかに色々言われたくないわ。オレのこと聞きたくねえんだろ。だったらほっとけよ」
「目に入ってくんだろうが」
「あっちだってヤなら断んだろ。オレのこと好きみたいだし。付き合ってりゃ好きになるかもな。オマエみたいに」
「……っ」
灰谷は気持ちを抑えこむような顔をした。
「……あの子は明日美の大事な友達なんだ。傷つけるようなマネだけは、すんなよ」
明日美の友達を泣かせるなってか?明日美が泣くから?
オマエが心配してるのは明日美ちゃんでオレなんかどうでもいいんだよな。
「それからオマエ、自分にウソはつくなよ」
灰谷はオレの目を真正面から見て言った。
なんだそれ。何言ってんだ。
ウソもつかせなかったくせに。
「付き合うよ。ちゃんと付き合えばいいんだろ」
オレは言い捨てて灰谷に背を向けて歩き出す。
なんであんなこと言うんだ。
ウソ?
つくよ。つくさ。
つかなきゃどうするんだ。
これからもついてやるよ。
オマエの親友を演じてやるよ。
どうしようもなくなって、オレは城島さんに電話する。
城島さん。城島さん。
どうすればいい。どうすればいい。
『おかけになった電話は電波の届かない……』
電話は繋がらない。
オレはオレが怖い。オレの執着が怖い。
キスを見たぐらいで、グラグラしちゃうオレが怖い。
助けて城島さん。城島さん。
なんでこんな時にいないんだよ。
歩き続けて結局、城島さんの家の前まで来てしまった。
部屋のインターフォンを押す。
♪ピンポーン。
……出ない。
まあいるわけないよな。
何気なく、ドアノブを回してみる。
カチャリ。
カギが開いてる?
「城島さん?」
中をのぞきこむ。
部屋に電気はついていない。
城島さんもいなかった。
出張でも、カギかけないのか。
「盗られて困るものなんかないからね」たんたんと言う城島さんの顔が浮かぶ。
ちょっと迷ったけれどオレは城島さんの部屋に上がりこみ、電気をつける。
もともと生活感のない部屋だけど、人気のない室内はさらにガラーンとして見えた。
最後に来た時と同じ、テレビと折りたたみ式のテーブルとマットレスがあるだけ……と思ったら、いくつか変化があった。
テーブルの上に真新しい灰皿とライター、この間城島さんが吸わせてくれたインドネシアの甘いタバコが置いてある。
そしてカギ。
この部屋のカギ?合カギだろうか。
オレに?……ではないと思う。
だったら電話してこないだろう。
誰かのために用意されたカギ。
誰かのために用意された喫煙セット。
城島さんが待っている人のための。
多分、城島さんがいない間に訪ねてきても、来た事ががわかるように。
いま、玄関のドアは開いていて、タバコの封は切られていないし、カギも机の上にある。
その人は多分、来ていない。
まあ、来たのは来たが、そのままってこともあるのかもしれないけど。
で、オレが転がりこんでいる。
オレは城島さんの、その空っぽの淋しい部屋でヒザを抱えた。
どれだけの夜を朝を、やり過ごせばいいのだろう。
城島さんの、オレの、思いは消えるのか。
うんざりした。
本当にうんざりした。
ゴロンと床に寝転がった。
身の置き所がなくてゴロゴロ転がってみた。
――テーブルの裏にそれはあった。
オレはテーブルの下に潜りこむ。
写真が一枚、貼ってある。
写っているのは多分、高校生だろう。
制服姿の男子二人の写真。
肩を組んで仲良さそうに笑っている。
一人は今より少し若い城島さんで、テレた笑顔を浮かべている。
もう一人はヤンチャな悪ガキといった感じで。
城島さんの肩に腕を回し、制服だというのに咥えタバコだった。
男の手には机の上に用意されたのと同じタバコが握られていた。
「おい城島、いっしょに写真撮ろうぜ」
「オレ、いいよ」
「逃げんなコラ」
「タバコ、入っちゃうぞ」
「いいって。ハイ、チーズ」
って感じだろうか。
その写真はきっと、何もかも捨ててきた城島さんがどうしても捨てられなかったもの。
視界がボヤけた。
涙がポタリと落ちた。
ポタリポタリと、とめどなく落ちた。
オレは泣いた。
ガキみたいに声を上げてわんわん泣いた。
みんなと駅で別れる。
灰谷とオレが残される。
灰谷は何も言わずに自転車置き場の方に歩き出す。
「オレ、コンビニ寄ってくから」
灰谷の背中に声をかける。
灰谷が立ち止まって振り向いた。
「真島、オマエ、ホントにあの子と付き合うの?」
「……わかんねえ」
「その気がないならちゃんと断れよ」
こいつ、今日一日散々ほったらかしてたくせになんなんだよ。
「灰谷には関係ないじゃん」
「ないことねえよ」
オレはおチャラけて言う。
「いやあセフレが一週間会えないってさ。その間ヒマだから付き合おっかな」
「オマエふざけんなよ」
なんだよそのマジトーン。
「ふざけてねえよ。オマエなんかに色々言われたくないわ。オレのこと聞きたくねえんだろ。だったらほっとけよ」
「目に入ってくんだろうが」
「あっちだってヤなら断んだろ。オレのこと好きみたいだし。付き合ってりゃ好きになるかもな。オマエみたいに」
「……っ」
灰谷は気持ちを抑えこむような顔をした。
「……あの子は明日美の大事な友達なんだ。傷つけるようなマネだけは、すんなよ」
明日美の友達を泣かせるなってか?明日美が泣くから?
オマエが心配してるのは明日美ちゃんでオレなんかどうでもいいんだよな。
「それからオマエ、自分にウソはつくなよ」
灰谷はオレの目を真正面から見て言った。
なんだそれ。何言ってんだ。
ウソもつかせなかったくせに。
「付き合うよ。ちゃんと付き合えばいいんだろ」
オレは言い捨てて灰谷に背を向けて歩き出す。
なんであんなこと言うんだ。
ウソ?
つくよ。つくさ。
つかなきゃどうするんだ。
これからもついてやるよ。
オマエの親友を演じてやるよ。
どうしようもなくなって、オレは城島さんに電話する。
城島さん。城島さん。
どうすればいい。どうすればいい。
『おかけになった電話は電波の届かない……』
電話は繋がらない。
オレはオレが怖い。オレの執着が怖い。
キスを見たぐらいで、グラグラしちゃうオレが怖い。
助けて城島さん。城島さん。
なんでこんな時にいないんだよ。
歩き続けて結局、城島さんの家の前まで来てしまった。
部屋のインターフォンを押す。
♪ピンポーン。
……出ない。
まあいるわけないよな。
何気なく、ドアノブを回してみる。
カチャリ。
カギが開いてる?
「城島さん?」
中をのぞきこむ。
部屋に電気はついていない。
城島さんもいなかった。
出張でも、カギかけないのか。
「盗られて困るものなんかないからね」たんたんと言う城島さんの顔が浮かぶ。
ちょっと迷ったけれどオレは城島さんの部屋に上がりこみ、電気をつける。
もともと生活感のない部屋だけど、人気のない室内はさらにガラーンとして見えた。
最後に来た時と同じ、テレビと折りたたみ式のテーブルとマットレスがあるだけ……と思ったら、いくつか変化があった。
テーブルの上に真新しい灰皿とライター、この間城島さんが吸わせてくれたインドネシアの甘いタバコが置いてある。
そしてカギ。
この部屋のカギ?合カギだろうか。
オレに?……ではないと思う。
だったら電話してこないだろう。
誰かのために用意されたカギ。
誰かのために用意された喫煙セット。
城島さんが待っている人のための。
多分、城島さんがいない間に訪ねてきても、来た事ががわかるように。
いま、玄関のドアは開いていて、タバコの封は切られていないし、カギも机の上にある。
その人は多分、来ていない。
まあ、来たのは来たが、そのままってこともあるのかもしれないけど。
で、オレが転がりこんでいる。
オレは城島さんの、その空っぽの淋しい部屋でヒザを抱えた。
どれだけの夜を朝を、やり過ごせばいいのだろう。
城島さんの、オレの、思いは消えるのか。
うんざりした。
本当にうんざりした。
ゴロンと床に寝転がった。
身の置き所がなくてゴロゴロ転がってみた。
――テーブルの裏にそれはあった。
オレはテーブルの下に潜りこむ。
写真が一枚、貼ってある。
写っているのは多分、高校生だろう。
制服姿の男子二人の写真。
肩を組んで仲良さそうに笑っている。
一人は今より少し若い城島さんで、テレた笑顔を浮かべている。
もう一人はヤンチャな悪ガキといった感じで。
城島さんの肩に腕を回し、制服だというのに咥えタバコだった。
男の手には机の上に用意されたのと同じタバコが握られていた。
「おい城島、いっしょに写真撮ろうぜ」
「オレ、いいよ」
「逃げんなコラ」
「タバコ、入っちゃうぞ」
「いいって。ハイ、チーズ」
って感じだろうか。
その写真はきっと、何もかも捨ててきた城島さんがどうしても捨てられなかったもの。
視界がボヤけた。
涙がポタリと落ちた。
ポタリポタリと、とめどなく落ちた。
オレは泣いた。
ガキみたいに声を上げてわんわん泣いた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
いつだってイキまくり♡ 部下と上司のラブラブセックス
あるのーる
BL
サラリーマンの三上には人に言えないストレス解消法があった。それは毎週金曜日、壁竿風俗で生えているペニスに向かって尻を振り、アナルをほじくり返すこと。
十年の長きにわたって同じ壁竿にアナルを捧げ続けた三上は、ついに竿の持ち主と対面することになる。恋にも似た感情を持ったまま始めて性器以外でも触れ合った相手は部下の六原であり、三上本人にも壁ごしの穴にも好意を抱いていたという六原のアタックによりなし崩し的に二人は付き合うことになった。
年齢差と六原からの好意が信用できていない三上は、体だけの関係に留めようとほだされないよう心は距離を取ろうとする。しかしそんな三上に容赦なく愛をぶつける六原によって、次第に三上もほだされていくのであった。
・・・・・
部下(26)×上司(38)のBLです。(pixiv再掲)
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
淫愛家族
箕田 悠
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
短編エロ
黒弧 追兎
BL
ハードでもうらめぇ、ってなってる受けが大好きです。基本愛ゆえの鬼畜です。痛いのはしません。
前立腺責め、乳首責め、玩具責め、放置、耐久、触手、スライム、研究 治験、溺愛、機械姦、などなど気分に合わせて色々書いてます。リバは無いです。
挿入ありは.が付きます
よろしければどうぞ。
リクエスト募集中!
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる