ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせる高校生男子・真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

文字の大きさ
上 下
36 / 154

第36話 夏の思い出

しおりを挟む
「なあ昔さ~中学生の時、遠出したことあったじゃん」
「あ~?」

灰谷が急に話し始めた。

「チャリでどこまで遠くまで行けるか行ってみようって。海行こうって」
「ああ……そんなこともあったな」
「あれ、夏だったよな」



そう夏だった。
ミンミンと蝉しぐれの降る、暑い暑い夏だった。
夏の時間を持て余したオレたちはチャリで走り出した。

焼けつくようなアスファルト。車の排気ガス。
照り返す日差しの中、ひたすら海を目指して自転車を漕いだ。
よく熱中症で倒れなかったもんだ。


「んでさ、海なんていつまでたっても見えてこなくて、結局はじめての商店街ブラブラしてさ」
「そうそう」
「腹減った~って吉牛食って」
「おう。マックじゃなくて吉牛のカウンターで食べてみようぜっつって」
「卵もつけちゃおうぜ、みたいな」
「そうそう」


次々と記憶が蘇ってきた。

「で、ゲーセンで高校生にカツアゲされそうになったじゃん」
「ああ。あれはビビった。今だったら灰谷の方がデカイからなんてことないんだろうけど。中坊にはさ~」
「オレらすんげえ速かったよな、逃げ足」
「おお。心臓バクバク。で、逃げ切って笑ったよな」
「ああ。あれなんなの。なんか爆笑したな、二人で」
「おう。恐怖も度をこえるとウケるのな」
「あったあった」

オレたちは思い出して笑った。

「あのあとカツアゲ高校生ず~っとゲーセンにいるからチャリに近づけなくて全然帰れなかったな」
「おう。やっといなくなったと思ったらもう夕方、つうか夜で。帰り道でケンカしたじゃん」
「そうだっけ」
「そうだよ灰谷すんげえ機嫌悪くなってさ」
「だったかな~。オレの中では楽しいで終わってんだけど」
「記憶力ねえなあ」
「なんかさ、こないだ自転車漕いでたら急に思い出してさ。あの頃は楽しかったなってさ」
「ああ。だな」


あの時はあれが永遠に続くもんだと、いや、そんなことさえ考えもしなかった。
未来も過去もなくて「今」しかなかった。
「今」を生きていた。

「今」を生きているはずのオレは、いつの間にか、過去を懐かしむことを知り、起こりうるかもしれない未来を想像して怖がっている。
いつから「今」以外に縛られるようになったんだろう。



城島さんの姿が浮かんだ。
過去を断ち切って「今」を生きる。
一番大事なものだけをつかんで。

いや、ある意味一番過去に縛られているとも言えるか?
縛られたいのかもしれない。



「明日美ちゃん、どうよ」

オレは一番聞きたかったことを灰谷にストレートに聞いてみた。

「どうって?」
「いや、彼女ってどうかなと思ってさ」
「めずらしいな、真島がそんなこと聞くの」
「で、どうよ」

灰谷は腕を組んで天井を見つめた。

「ん~カワイイよ。なんか一生懸命で。オレといると嬉しそうだし」
「で、灰谷オマエは、どうよ」
「オレ?んあ~。ん~、まあ、そうだな、ぶっちゃけ時々めんどくせえ。女って何考えてるかよくわかんねえし。それが面白いのかもしんないけど。中田とかよくやってるよ。中学からだろ」

オレが聞きたいのはそんなことじゃない。


「で……あっちはどうよ」
「あっち?」
「セックス」
「ああ……いいよ。慣れてきたし。気持いいし」

やっぱヤってんだ。まあ当然だな。

「ふうん」
「オマエは?本当はいるんだろ」

なんでわかるんだ。

「正直に言えよ。オレも言ったんだから」
「……いる」
「どうよ」
「いいよ。あっちがうまいし」
「年上?」
「うん」
「どこで知り合ったんだよ」
「コンビニ」
「バイト先の?」
「いや、ちがう」
「ナンパか?」
「みたいなもん?」
「もしかしてオマエがしたの?」
「まさか。されたようなもん……かな」
「ふうん」

オレたちはしばらく黙っていた。
お互いにいろいろ想像していたんだろう。


「いい女?」

しばらくしてポツリと灰谷が言った。


「うん。やさしい人だよ」

オレは答えた。

……女じゃないけど。


「へえ~。オマエとこういう話したの初めてじゃねえ」
「そうだな」
「今度オレに見せろよ、その人」
「やだ」
「なんでだよ」
「見せるようなもんじゃないし」
「なんだよその言い方。相手に失礼じゃん」
「いや、その……セフレみたいなもんだから」
「……そっか」

灰谷はしばらく黙っていた。

「……つうかオマエ、本当に好きなやつとしか付き合わないとか言ってなかったっけ」
「付き合いたいって言ったの。付き合えないんだからしょうがねえだろ」
「何、真島、オマエ好きなやつ、いんの?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕は何度でも君に恋をする

すずなりたま
BL
由緒正しき老舗ホテル冷泉リゾートの御曹司・冷泉更(れいぜいさら)はある日突然、父に我が冷泉リゾートが倒産したと聞かされた。 窮地の父と更を助けてくれたのは、古くから付き合いのある万里小路(までのこうじ)家だった。 しかし助けるにあたり、更を万里小路家の三男の嫁に欲しいという条件を出され、更は一人で万里小路邸に赴くが……。 初恋の君と再会し、再び愛を紡ぐほのぼのラブコメディ。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

処理中です...