35 / 154
第35話 手を伸ばせば届く距離
しおりを挟む
城島さんと過ごしても泊まることはなく、必ず家に帰った。
外泊するならどこに泊まるのか、家に連絡しなきゃならなかったし。
中田あたりに頼めば全然大丈夫そうだったけど。
それよりも、バイトバイトで断るオレにシビレを切らせたのか、母ちゃんの手料理が恋しくなったのか、ここのところ、デートやバイト帰りに灰谷が押しかけて来るようになった。
バイトのシフトがいっしょの前の日なんかは特に。
迎えに来るの、めんどくせーとか言って。
そして泊まっていく。
まるで夏休み前みたいに。
嬉しくないと言えばウソになる。
灰谷の訪問を母ちゃんは喜んで夜食だと言ってはあれこれ作って食べさせようとする。
その日も夜食攻撃が落ち着いて、オレの部屋でゲームなんかして、で、明日もバイトだしもう寝ようぜってことになり……。
毎回「一緒のベッドでいいぜ」と、灰谷は言うけれど。
「灰谷デカくて窮屈だから」とベッドの脇に布団を敷いた。
灰谷がよくても、こっちが困る。
「なんか真島ともあんま遊んでねえな~」
布団の上で長い手足を伸ばして灰谷が言う。
「だからってあんま遅くに押しかけて来んなよ」
「そうでもしねえと遊べねえじゃん」
「アスミルクと遊べ」
「アスミルクやめろ」
灰谷はオレたちが明日美ちゃんの事をアスミルクと言うと必ず律儀にツッコミを入れる。
「つうか会ってるよ、明日美ちゃんとは」
そうか。会ってるんだ。
……つうか、いま灰谷、明日美ちゃんって言ったか?
高梨さんって言ってたのに?
まあオレは明日美ちゃんって呼んでたけど。
でも……呼び名が変わるって……。
「はあ~」
「なんだよ。なんのため息だよそれ」
あ、モレちゃってたか。
「なんでもねえよ。ところでその後、どうなのストーカーもどき」
「ん、今のところ大丈夫みたい。ただ明日美ちゃんはな。昼間はいいけど夜が。まだ一人になるのがちょっと怖いみたいだな」
「ふ~ん。カワイイと大変だよな」
「ん~。つうかオマエは?」
「何?」
「バイト少しは余裕出てきただろ。多田さんも帰ってきたし。それなのにいなかったり、帰るの遅かったりしてんじゃん」
「ああ~」
「今日だってそうじゃねえの。オレ、来る前にこれでもちゃんと電話したんだぜ。電源切れてるし。デートだろ?」
「ちげえよ。充電切れただけだし」
城島さんと会ってる時はスマホの電源を落とすようにしている。
オレだけが誰かとつながっているのが、何もかも捨てた城島さんに悪いような気がして。
「んじゃ、どこ行ってんだよ」
「どこだっていいだろ。オレの母ちゃんか」
「節子じゃねえわ」
「知ってるわ」
「怪しいなオマエ」
「怪しくねえわ」
「……まあいいけどさ」
少しスネた様な声。
ヤキモチ?……じゃねえか。
こうやってうちにまた来るようになったのも、ただ単に明日美ちゃんと落ち着いてきたって事だろうしな。
灰谷とオレの部屋で二人きり。
手を伸ばせば届くところにいる。
落ち着かねえ。
♪~
灰谷のスマホから通知音。
「何?明日美ちゃん?」
「ん~」
「毎日来んの?おやすみLINE」
「ん~まあ」
「おはようも?」
「ん~。めんどくせえけどな」
おはようからおやすみまで。
一日の始まりと一日の終りに言葉を交わす。
いいな。
なんか……いいな。
恋人同士っていいな。
はあ~。
遠いなあ。
カラダの距離は近いのに遠いよ。
外泊するならどこに泊まるのか、家に連絡しなきゃならなかったし。
中田あたりに頼めば全然大丈夫そうだったけど。
それよりも、バイトバイトで断るオレにシビレを切らせたのか、母ちゃんの手料理が恋しくなったのか、ここのところ、デートやバイト帰りに灰谷が押しかけて来るようになった。
バイトのシフトがいっしょの前の日なんかは特に。
迎えに来るの、めんどくせーとか言って。
そして泊まっていく。
まるで夏休み前みたいに。
嬉しくないと言えばウソになる。
灰谷の訪問を母ちゃんは喜んで夜食だと言ってはあれこれ作って食べさせようとする。
その日も夜食攻撃が落ち着いて、オレの部屋でゲームなんかして、で、明日もバイトだしもう寝ようぜってことになり……。
毎回「一緒のベッドでいいぜ」と、灰谷は言うけれど。
「灰谷デカくて窮屈だから」とベッドの脇に布団を敷いた。
灰谷がよくても、こっちが困る。
「なんか真島ともあんま遊んでねえな~」
布団の上で長い手足を伸ばして灰谷が言う。
「だからってあんま遅くに押しかけて来んなよ」
「そうでもしねえと遊べねえじゃん」
「アスミルクと遊べ」
「アスミルクやめろ」
灰谷はオレたちが明日美ちゃんの事をアスミルクと言うと必ず律儀にツッコミを入れる。
「つうか会ってるよ、明日美ちゃんとは」
そうか。会ってるんだ。
……つうか、いま灰谷、明日美ちゃんって言ったか?
高梨さんって言ってたのに?
まあオレは明日美ちゃんって呼んでたけど。
でも……呼び名が変わるって……。
「はあ~」
「なんだよ。なんのため息だよそれ」
あ、モレちゃってたか。
「なんでもねえよ。ところでその後、どうなのストーカーもどき」
「ん、今のところ大丈夫みたい。ただ明日美ちゃんはな。昼間はいいけど夜が。まだ一人になるのがちょっと怖いみたいだな」
「ふ~ん。カワイイと大変だよな」
「ん~。つうかオマエは?」
「何?」
「バイト少しは余裕出てきただろ。多田さんも帰ってきたし。それなのにいなかったり、帰るの遅かったりしてんじゃん」
「ああ~」
「今日だってそうじゃねえの。オレ、来る前にこれでもちゃんと電話したんだぜ。電源切れてるし。デートだろ?」
「ちげえよ。充電切れただけだし」
城島さんと会ってる時はスマホの電源を落とすようにしている。
オレだけが誰かとつながっているのが、何もかも捨てた城島さんに悪いような気がして。
「んじゃ、どこ行ってんだよ」
「どこだっていいだろ。オレの母ちゃんか」
「節子じゃねえわ」
「知ってるわ」
「怪しいなオマエ」
「怪しくねえわ」
「……まあいいけどさ」
少しスネた様な声。
ヤキモチ?……じゃねえか。
こうやってうちにまた来るようになったのも、ただ単に明日美ちゃんと落ち着いてきたって事だろうしな。
灰谷とオレの部屋で二人きり。
手を伸ばせば届くところにいる。
落ち着かねえ。
♪~
灰谷のスマホから通知音。
「何?明日美ちゃん?」
「ん~」
「毎日来んの?おやすみLINE」
「ん~まあ」
「おはようも?」
「ん~。めんどくせえけどな」
おはようからおやすみまで。
一日の始まりと一日の終りに言葉を交わす。
いいな。
なんか……いいな。
恋人同士っていいな。
はあ~。
遠いなあ。
カラダの距離は近いのに遠いよ。
0
★『アキノワルツ ~親友へ決死の告白をした高校生男子・真島くんのその後~
『ナツノヒカリ』続編です。
★〈はじめて〉の話。~片思いしていた同級生が深夜に訪ねてきた、からはじまる初体験の話~
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる