ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせる高校生男子・真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

文字の大きさ
上 下
26 / 154

第26話 再会

しおりを挟む
コンビニに行くと言って家を出た。

佐藤や中田の家に遊びに行くには時間が遅いし、もちろん灰谷のところにも行けない。
結局行くところなんてなくてコンビニへ。
雑誌をダラダラ立ち読みして、それにも飽きたんでお菓子とジュース買って。
ぶらぶら家まで帰ろう。

ふとあのコンビニ近くの公園に足を向けた。
この間、オレの処女を奪ってくれたおっさんと酒飲んだベンチ。
なんとなく……。

で……いた。


「よお」

オレの顔を見ると男は笑顔で手を挙げた。
この時間だからかスーツ姿じゃなくて、Tシャツにジャージでサンダル履き。
手には缶ビール。
コンビニのビニール袋を持っている。
近所にふらりと買い物に来たみたいな姿だ。
ただ、この間会った時より痩せてやつれたように見えた。


「こんばんは」
「こんばんは。ハハ、他人行儀だな。まあ他人か。座れば。あ、飲む?」
「いいえ」

オレは隣りに座る。
男はビールをグビリと飲んでから言った。

「この間大丈夫だった?カラダ」
「はい」
「そう。気になってたんだ」

オレばっか何度もイカせてもらっちゃって気持ちよかったです……とは言えるわけもなく。

「あの……」
「うん?」
「キスマーク」

と、この間灰谷にバッチリ見られた首の後ろを指差す。

「ここに付けました?」
「あ、ごめん。君がカワイくて……つい」

カワイイ!?

「……カワイくねえし」
「カワイかったよ」

う~。

「一応、服着てれば見えないところに付けたつもりだったんだけど。よく気づいたね」

いや気づいたのオレじゃないけど。

「もしかして誰かに見られた?」

一番見られたくないやつに見られた。

「……」
「そっか。ごめんね」
「いや、まあ……もともとオレが頼んだんだし」
「あ、これ、あげる」

男はコンビニのビニール袋から棒つきのキャンディーを出した。

「メロンソーダ味ってのがそそるよね」

メロンソーダか。
ペロペロ、男と並んでキャンディーをなめる。

ガキの頃、灰谷とよくなめたな。
安っぽいメロン香料の味。
ガリガリと噛んで、最後に紙の棒が残る。
ガジガジとしがんでチュウチュウと吸う。

思い出もしゃぶり尽くせばいつかは味もしなくなっちゃうのかな。
アップデートされない記憶はいつかどこか遠くへ。
したら、灰谷のこと忘れられるのかな。
こんな風にいつもいつも何かにつけて思い出したりしなくなるのかな。

かなかなかな。

かな……ばっか。



「うち……来る?」
「え?」
「まあ、よかったらだけど」

そう言うと男はグビグビグビとビールを飲み干してグシャリと缶をつぶした。

どうしたもんかな、と思っていたら、男は立ち上がった。

「行こっか」

男はゆるく笑った。

まあ、いっか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...