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第21話 このままでいいのに
しおりを挟むん?目が覚めたら、目の前に灰谷の顔があった。
何何?
あ……あのまま寝ちゃったのか、オレ。
で、灰谷もなぜか隣りで寝た……と。
つうか灰谷、オマエ、ヨダレ。
オレのシーツにヨダレが。
まあしょうがないか。ガキの頃からだから。
ティッシュで灰谷の口元を拭う。
口開けて寝るからだよ。
指でキュッと口を閉じさせる。
ングッと言って閉まったが、しばらくするとまたパカリと開いた。
ククク、アホヅラ。
黙ってりゃカッコイイのに。ウケる。
明日美ちゃんに嫌われるんじゃねえの。
……つうか嫌われちゃえばいいのに。
灰谷。灰谷。
オレ、昨日さ、男とヤったよ。
んでさ、オレ、ケツに挿れられたの。
ケツはやっぱ痛かったけどさ。
その人、いい人でさ、すんげえ丁寧にゆっくり優しくしてくれた。
で、何度もピューピューイカされた。
ウケんだろ?
その人が言ったんだ。
『これはただのセックスで、それ以上でもないし、それ以下でもない』って。
ホント、そうだったよ。
愛も情もないセックスは……ただの性欲処理だ。
灰谷の安らかな寝息。
灰谷……もしオレが女だったら……マコだったらさ、オマエといっしょにいつまでもいられたのかな。
結婚して毎日こうやって同じベッドで一緒に眠ってさ。
子供作ってジジイババアになって、死ぬまで一緒にいられたのかな。
でも……。
違うだろ、オレたちは男と男じゃないとダメだろ。
眠る灰谷の顔を見ていたら気持ちがこみ上げた。
これは……この気持ちはなんて言うんだろう。
愛しい?
せつない?
キスしたい?
オレ、いつまで耐えられるかな。
いつまで隠しておけるかな。
そう思ったら人生って長えよな。
うんざりするほど長えわ。
灰谷。
灰谷。
灰谷。
その時、まるでオレの声に応えるように灰谷がパチリと目を開けた。
オレたちはしばらく見つめ合う。
灰谷の口が言葉をカタチ作る。
何?
「しゅ・く」
「しゅく?」
「祝・脱童貞!イエイ」
と、灰谷は両手を挙げた。
!!
なんで知ってんの。
え?オレ?
いやオマエ?
ハイタッチなんかするか。
「イエイっ、イエイ?ふがっ。何すんだオマエ」
灰谷の鼻の穴に人差し指と中指を突っこんだ。
「イエイじゃねえよ、バカ、ヨダレ」
「あ?ああ、悪い」
灰谷が口元を手でぬぐう。
「明日美にも嫌われちゃうんじゃねえの」
「明日美、言うな。明日も美しいと書いて明日美ちゃん」
「アスミルク」
「ん?」
「巨乳から乳ピューピュー」
「出るか!」
「で、どうよ。乳やっぱデケエの?」
オレはブッコんでみた。
「そりゃオマエ」
灰谷は胸をつかんで揉む手つきをする。
「やっらしっ」
オレは右手の中指を上に突き上げてから起き上がる。
つうか灰谷もやっぱヤったんだ……。
ベッドから降りて新しいTシャツを頭からかぶる。
灰谷は起き上がって大きく伸びをするとニヤニヤしながらオレの首の後ろをツンツンとつつく。
「こんなことするなんて、年上だろ」
「は?」
「腹減った、メシ食おうぜ」
あくびしながら灰谷が部屋を出て行く。
こんなことってなんだよ。
首の後ろ?
スマホのカメラで必死に手を伸ばして自撮りして見てみれば、首の後ろに薄ピンクのうっ血した痕。
キスマーク!
全然き気がつかなかった。
なんでまたキスマークなんて……。
しかし男だとバレてないのが救いだな。
つうか、もうカミングアウトしちまうか。
オレ、男ともヤれるって。
それもいいかもな。
灰谷は変わらない気がする。
でも変わったら……今までみたいじゃなくなったら。
つうか、どっちにしろ、遅かれ早かれ、今までみたいじゃいられないよな。
きっともう十年もしないうちにオレたちの間には、仕事とか、彼女とか、妻とか、子供とか。
そんなのが、はさまってくるんだろうしな。
居間に降りていくと、灰谷はサンドイッチを食べながらテレビを見ていた。
オレの好きなミニゴールドスナックとマヨコーンパンがある。
灰谷が淹れておいてくれたコーヒーといっしょに食べる。
「あ、昨日オマエ本当に大丈夫だったの?」
「何が?」
「ゲーセン行ったらさ、高梨さんが具合悪そうに歩いてる真島を見かけたって言うからオレ追っかけたんだけど。見つからなかったからさ」
それでオレが家にいないのがわかったのか……って。
え?オレのこと探してくれたの?
んじゃあもしかして灰谷がオレのこと見つけてくれてたら、オレはあのおっさんとヤらなかったし、灰谷も明日美ちゃんとヤらなかったってこと?
その可能性があったってこと?
なんだそれ。
オレ……。
「まあ大丈夫だったんならいいけど。返信くらいよこせよ。気になるじゃん」
「うん。まあちょっと……取りこんでて」
灰谷はオレの顔を見つめた。
「で?」
「何?」
「どんな子?」
「……言わねえ」
言えるわけもない。男だなんて。
「そうか。やっぱヤったんだな」
「オマエもじゃん」
「まあな」
灰谷が両手を上げる。
「祝・脱童……」
「ハイタッチなんてやんねえ」
オレは素早くツッコんだ。
「だな」
灰谷は大人しく手を下げて、それ以上聞かなかった。
オレも聞かなかった。聞きたくもないし。
「あ~午後からのバイト、サボリてえ」
「代わんねえぞ。アスミルクと二人で働け」
「アスミルク言うな」
ふわあ~。
灰谷はまだ眠そうにあくびをした。
いままでみたいじゃいられないのかなあ。
いつまでもいつまでも。
灰谷がオレのほうを見てくれなくても構わない。
それ以上なんて望まない。
ただ隣りにいたい。
そばにいて同じものを見ていたい。
いままでみたいに。
このままでいいのに。
このままで。
世界なんてこのまま止まっちまえばいいのに。
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