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第17話 帰りたくない

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真島が出てしばらくのち、ゲームセンターには灰谷と明日美の姿があった。

待ち合わせて食事をし、あちこち店をひやかした後、「いつも灰谷くんが遊んでる所に行ってみたい」と明日美が言ったからだった。

女の子連れてゲーセンとかどうなんだろう?と灰谷は思ったが、明日美は行きたがった。

クレーンゲームで明日美が好きだというキャラクターの大きなぬいぐるみをとってやると「灰谷くん、すごーい」と大喜びする。

太鼓を叩いたり、対戦ゲームをしたり。
明日美はニコニコと楽しそうだった。
何よりそんなに話さなくていいのが助かる、と灰谷は思った。


「灰谷くん、ちょっとお手洗いに行ってくる」
「うん」

灰谷はスマホを取り出し、LINEのアプリを開いた。
真島・佐藤・中田とのグループLINE。

佐藤「真島、ワリぃ!」 17:28
真島「いいよオマエ食べ過ぎ。薬飲めよ」 17:29
佐藤「おう。ありがとうダーリン。オレを愛さないで!」 17:29
真島「愛せない愛さない」 17:30
佐藤「愛せよ~」 17:30

とのやりとりがある。


ん?佐藤行ってねえの真島んち。
じゃああいつ今日一人じゃん……。

時刻は午後九時半だった。

そろそろ高梨さんを送って行って、帰りに真島んちに寄ってみるか。
最近なんだか微妙に元気ねえしな、あいつ。

灰谷がそう考えていたところに明日美が帰ってきた。


「灰谷くん。さっき真島くんがいたよ」
「え?真島?」
「うん。それがね、なんか具合悪そうにフラフラ歩いてたんだけど」
「それ、ホントに真島だった?」
「たぶん」
「どこ?」
「え?」
「どこで見た?どっち行った?」
「前の通りをタクシー乗り場のほうに……」
「ごめん、ちょっと待ってて」
「え?灰谷くん……」


灰谷はゲームセンターを飛び出した。
とりあえずタクシー乗り場まで走って来たものの真島の姿は見つからなかった。

真島に電話をかけてみる。
呼び出し音はするが……出ない。
留守電になってしまった。

あいつ何してんだ。大丈夫か。

その後も周囲を走り回ったが結局、真島は見つからなかった。
気がつけば結構な時間が経っていて、ゲームセンターに明日美を一人で置いてきたことを思い出した。

ヤバッ。高梨さん一人だ。





「いいじゃん、いっしょに遊ぼうよ。一人でしょ?」
「違います」
「カワイイね~」

灰谷がゲームセンターに戻ると明日美がチャラそうな男二人にまとわりつかれていた。
とってやった大きなぬいぐるみを抱えて、動けずにいるようだ。

灰谷は佐藤から「オマエ、その顔まるで殺し屋。コエ~」と言われたことのある無表情を作り、ゆっくりと近づいた。

「灰谷くん!」

灰谷に気がついた明日美が名を呼んだ。

「あれ~彼氏来たじゃん。じゃあまたね~」
「なんだよ男連れかよ」

佐藤の言う殺し屋顔に恐れをなしたのか男たちが逃げるように離れていく。


「灰谷くん」

明日美が飛びついて来た。

「ごめん。怖かったよね」

灰谷は明日美の頭を撫でた。

「うん」
「ごめんね」

あんなことがあった後なのによりによってこんな所に一人にするとか、オレ、ダメだな。

明日美の手を引き、ゲームセンターを出て近くのファストフード店に入った。

灰谷は経験上、頭を撫でる事、甘いものを食べさせる事が女の子を落ち着かせるにはかなり有効だと知っていた。


「はいアイスティー。それと、アップルパイ」
「ありがとう」

明日美が微笑んだ。

「灰谷くん、半分食べて。こんな時間に食べたら太っちゃう」
「いいよ。もうちょっと太ってもいいんじゃない高梨さん」
「そんなことないよ。脱いだらスゴイんだから」
「脱いだらスゴイんだ」
「え?」

灰谷が見つめると明日美が真っ赤になった。

「灰谷くんってこんなこと言うんだ」
「高梨さんが言ったことをくり返しただけだよ」
「イジワル」
「フッ」

ベタな恋人同士みたいな会話をしている自分に気がついて、ついつい灰谷の頬がゆるんだ。

「笑わないで」
「笑ってないよ」
「笑った」
「ごめん」
「謝らなくても」
「いいから、熱いうちに食べな」
「うん」

明日美が嬉しそうにアップルパイにかじりつく。

「ウマイ?」
「うん」

さっきまであんなに怖がっていたのに甘いものに夢中になっている。
カワイイな。
灰谷は思った。

「そんなに見ないで食べてるとこ。恥ずかしい」
「そう?」

灰谷はじっと見つめた。

明日美は頬を赤くした。

「……真島くん、みつかった?」
「あ~いや、つかまんなかった。ちょっとごめん」


灰谷はスマホを取り出し、LINEを確認する。

『大丈夫か』と真島に向けて打ったメッセージに既読はついていなかった。


「ごめん高梨さん。もう送ってくから、食べ終わったら今日はこれで……」
「真島くんの事、気になる?」
「え?いやまあ電話にも出ないし」


明日美は食べるのをやめて、うつむいた。

「灰谷くん、あたしのことそんなに好きじゃないよね」
「え?」
「真島くん見かけたって聞いただけであたしのこと置いてっちゃうし」
「……」
「あたしといても真島くんといる時みたいに全然楽しそうじゃないし」
「……」

灰谷にはうまく返事ができなかった。

「黙っちゃうんだ。ひどいよ。だったら付き合ってくれるなんて言わなきゃよかったじゃない。こんなに好きにさせといてひどいよ」

明日美の目から涙があふれた。
灰谷はビックリして、手を伸ばし明日美の頭を撫でた。

「ごめん。悪かった。ごめん」
「心配なの。あたしといてもつまんないんじゃないかって。いつ、もう会うのやめようって言われるかって」
「そんなこと言わないよ」

灰谷は手を伸ばしテーブルの上の明日美の手を上からそっと包みこんだ。


明日美が小さな声で言った。

「……たくない」
「え?」
「今日……帰りたくない」
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