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ただひたすら剣を振る、賑やかな朝のひと時を過ごす。(1)
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まもなく太陽が昇る。
寝静まった世界に暖かい陽光が降り注ぐ。
「ふんッ、ふんッッ」
一日のはじまりを肌で感じながら、俺は今日も剣を振っていた。
「ていッ、やあッッ」
隣にもう一人、素振りをしている者がいる。
金髪縦ロールが特徴的な居候仲間――リリアン・ローズブラッドだ。
「ふッ、ふんんッ」
「はッ、えいッッ」
彼女がジェシカさんの屋敷に引っ越してきて、今日でちょうど十日目になる。
最初こそリリアンとの共同生活に戸惑い、ソワソワして眠れない日が続いたが、それも四日目には落ち着いた。
「――よし。リリアン、最後に軽く手合わせして終わろう」
長剣を腰におさめ、リリアンに声をかける。
「はあッ……え? あら、もうこんな時間なのね」
中庭の噴水時計を見上げて、リリアンは「ふぅ」と息を吐いた。
「今日は月曜日だ。学院へ行く準備もしなければいけないし、朝稽古の仕上げに入るぞ」
「わかったわ」
俺たちは三メートルほど離れ、真正面から向かい合う。
そして互いに一礼し、正眼に剣を構えた。
俺は慣れ親しんだ道着姿だが、リリアンは白のブラウスに黒のスラックスというシンプルな装いで、ロングブーツを履いている。動きやすそうだった。
と――そこへ、
「やあ、若人たち。朝早くから精が出るね。感心感心」
玄関先からジェシカさんが声をかけてきた。手には朝刊が握られている。
まだ寝間着姿だ。今日は早く出勤しなくてもいい日なんだな。
「っ!? ちょっ、ちょっと学院長先生! 胸元がはだけていますよ!」
目を見開いたリリアンが、慌てて「破廉恥ですわ!」と駆けていく。
「むっ? こらこらリリアン君、家で学院長はやめてくれと言っているだろう?」
「わ、わかりましたから、とにかく前を隠してくださいませ! ギルバートの前で無防備すぎますわよ!」
俺は構えを解き、大きく息を吐いた。……また集中し直さないとな。
一緒に生活していて気づいたのだが、リリアンは驚いた時にちょいちょい育ちのいい口調が出る。
お嬢様っぽくて俺は好きなんだけど、何故かそれを直そうとしているんだよな。何か理由があるんだろうが、もったいない気もする。
「……しかし、賑やかになったなぁ」
二人のやり取りを背中で聞きつつ、俺は剣を肩に乗せて空を仰ぐ。
うん。今日もいい天気になりそうだ。
◆◆◆
「きゃあああぁぁぁぁっ!?!?」
自室に戻り制服に着替えていると、一階からリリアンの悲鳴が聞こえてきた。おそらく風呂場の方からだ。
俺は慌てて部屋を飛び出し、彼女のもとへ急ぐ。
「どうした、何かあったのか?」
「ギルバート助けて!」
「ッ――!?!?」
脱衣所に入った瞬間、素っ裸のリリアンに抱き着かれた。
俺は咄嗟に籠からバスタオルを手繰り寄せ、それを彼女に渡す。
リリアンは「あ、ありがと」と受け取り、そそくさとバスタオルを体に巻いた。
「……で、どうした?」
できるだけ彼女の方を見ないように、平静を装いつつ問いかける。
「お湯が冷たいのよ! し、心臓が止まるかと思ったわ……くしゅんっ」
紅い瞳を涙で潤ませながら、リリアンはガクガク震えている。
「……あー。そういうことか」
俺は浴槽に近づいて手を突っ込む。うん。完全に水だ。
「今日はリリアンがお湯を張ったのか?」
「え、ええ。レイネは朝食の準備で忙しそうだったから、見様見真似で挑戦してみたの」
レイネさんはリリアン付きの専属メイドさんだ。
ローズブラッドの実家がここから徒歩五分の距離にあるので、彼女は毎日お世話をしにやってくる。同じ貴族街だから近いんだよな。
「……その心意気は認めるが、こういう時は俺を頼れ。わからないことは恥ずかしいことではないぞ」
しかもレイネさんはリリアンのお世話だけでなく、屋敷の家事全般を一手に引き受けてくれているので、俺としても負担が減って非常に助かっている。
食事は俺と日替わりで担当しており、レイネさんは得意な洋食をつくってくれる。メイドさん凄いぞ。どれもこれも絶品なんだ。
っと。今はそれより――
「ここに二つの蛇口があるだろ?」
青と赤の蛇口を指差しながら、振り向いてリリアンを見る。
「あるわね」
「お前さ、今日はこっちの青い蛇口を使ったんじゃないか? 手前のやつ」
「っ! よくわかったわね」
「やっぱりな」
一瞬、魔石が埋め込まれている蛇口が壊れたことを疑った。
しかし、リリアンが大事に育てられた名家の箱入り娘だということを知っていたので、単純に捻る蛇口を間違えたのではと思ったわけだ。
「世間一般的に"青は水"、"赤はお湯"なんだよ。だからリリアンは浴槽いっぱいに水をためてしまったんだ」
「そうなのね。手前にあったから青いのを捻ってしまったわ」
「これは一般常識だから今のうちに覚えておいて損はないぞ」
「勉強になるわね。ありがとうギルバート」
いい笑顔だった。思わず目を奪われたが、すぐに我に返って顔を背ける。
バスタオルを巻いてはいるものの、リリアンは今とても煽情的な姿をしていた。俺には刺激が強すぎる。
「まあ今日のところはシャワーで我慢してくれ」
「わかったわ」
それだけ言って逃げるように浴室を後にした。
着替え途中だったので再び二階の自室に戻る。
「……でも、これ火属性魔法でどうにか温められないかしら」
最後、なんか恐ろしいことを呟いていた気もするが、リリアンは俺と違って魔法の扱いに長けているので大丈夫だろう。……たぶん。
寝静まった世界に暖かい陽光が降り注ぐ。
「ふんッ、ふんッッ」
一日のはじまりを肌で感じながら、俺は今日も剣を振っていた。
「ていッ、やあッッ」
隣にもう一人、素振りをしている者がいる。
金髪縦ロールが特徴的な居候仲間――リリアン・ローズブラッドだ。
「ふッ、ふんんッ」
「はッ、えいッッ」
彼女がジェシカさんの屋敷に引っ越してきて、今日でちょうど十日目になる。
最初こそリリアンとの共同生活に戸惑い、ソワソワして眠れない日が続いたが、それも四日目には落ち着いた。
「――よし。リリアン、最後に軽く手合わせして終わろう」
長剣を腰におさめ、リリアンに声をかける。
「はあッ……え? あら、もうこんな時間なのね」
中庭の噴水時計を見上げて、リリアンは「ふぅ」と息を吐いた。
「今日は月曜日だ。学院へ行く準備もしなければいけないし、朝稽古の仕上げに入るぞ」
「わかったわ」
俺たちは三メートルほど離れ、真正面から向かい合う。
そして互いに一礼し、正眼に剣を構えた。
俺は慣れ親しんだ道着姿だが、リリアンは白のブラウスに黒のスラックスというシンプルな装いで、ロングブーツを履いている。動きやすそうだった。
と――そこへ、
「やあ、若人たち。朝早くから精が出るね。感心感心」
玄関先からジェシカさんが声をかけてきた。手には朝刊が握られている。
まだ寝間着姿だ。今日は早く出勤しなくてもいい日なんだな。
「っ!? ちょっ、ちょっと学院長先生! 胸元がはだけていますよ!」
目を見開いたリリアンが、慌てて「破廉恥ですわ!」と駆けていく。
「むっ? こらこらリリアン君、家で学院長はやめてくれと言っているだろう?」
「わ、わかりましたから、とにかく前を隠してくださいませ! ギルバートの前で無防備すぎますわよ!」
俺は構えを解き、大きく息を吐いた。……また集中し直さないとな。
一緒に生活していて気づいたのだが、リリアンは驚いた時にちょいちょい育ちのいい口調が出る。
お嬢様っぽくて俺は好きなんだけど、何故かそれを直そうとしているんだよな。何か理由があるんだろうが、もったいない気もする。
「……しかし、賑やかになったなぁ」
二人のやり取りを背中で聞きつつ、俺は剣を肩に乗せて空を仰ぐ。
うん。今日もいい天気になりそうだ。
◆◆◆
「きゃあああぁぁぁぁっ!?!?」
自室に戻り制服に着替えていると、一階からリリアンの悲鳴が聞こえてきた。おそらく風呂場の方からだ。
俺は慌てて部屋を飛び出し、彼女のもとへ急ぐ。
「どうした、何かあったのか?」
「ギルバート助けて!」
「ッ――!?!?」
脱衣所に入った瞬間、素っ裸のリリアンに抱き着かれた。
俺は咄嗟に籠からバスタオルを手繰り寄せ、それを彼女に渡す。
リリアンは「あ、ありがと」と受け取り、そそくさとバスタオルを体に巻いた。
「……で、どうした?」
できるだけ彼女の方を見ないように、平静を装いつつ問いかける。
「お湯が冷たいのよ! し、心臓が止まるかと思ったわ……くしゅんっ」
紅い瞳を涙で潤ませながら、リリアンはガクガク震えている。
「……あー。そういうことか」
俺は浴槽に近づいて手を突っ込む。うん。完全に水だ。
「今日はリリアンがお湯を張ったのか?」
「え、ええ。レイネは朝食の準備で忙しそうだったから、見様見真似で挑戦してみたの」
レイネさんはリリアン付きの専属メイドさんだ。
ローズブラッドの実家がここから徒歩五分の距離にあるので、彼女は毎日お世話をしにやってくる。同じ貴族街だから近いんだよな。
「……その心意気は認めるが、こういう時は俺を頼れ。わからないことは恥ずかしいことではないぞ」
しかもレイネさんはリリアンのお世話だけでなく、屋敷の家事全般を一手に引き受けてくれているので、俺としても負担が減って非常に助かっている。
食事は俺と日替わりで担当しており、レイネさんは得意な洋食をつくってくれる。メイドさん凄いぞ。どれもこれも絶品なんだ。
っと。今はそれより――
「ここに二つの蛇口があるだろ?」
青と赤の蛇口を指差しながら、振り向いてリリアンを見る。
「あるわね」
「お前さ、今日はこっちの青い蛇口を使ったんじゃないか? 手前のやつ」
「っ! よくわかったわね」
「やっぱりな」
一瞬、魔石が埋め込まれている蛇口が壊れたことを疑った。
しかし、リリアンが大事に育てられた名家の箱入り娘だということを知っていたので、単純に捻る蛇口を間違えたのではと思ったわけだ。
「世間一般的に"青は水"、"赤はお湯"なんだよ。だからリリアンは浴槽いっぱいに水をためてしまったんだ」
「そうなのね。手前にあったから青いのを捻ってしまったわ」
「これは一般常識だから今のうちに覚えておいて損はないぞ」
「勉強になるわね。ありがとうギルバート」
いい笑顔だった。思わず目を奪われたが、すぐに我に返って顔を背ける。
バスタオルを巻いてはいるものの、リリアンは今とても煽情的な姿をしていた。俺には刺激が強すぎる。
「まあ今日のところはシャワーで我慢してくれ」
「わかったわ」
それだけ言って逃げるように浴室を後にした。
着替え途中だったので再び二階の自室に戻る。
「……でも、これ火属性魔法でどうにか温められないかしら」
最後、なんか恐ろしいことを呟いていた気もするが、リリアンは俺と違って魔法の扱いに長けているので大丈夫だろう。……たぶん。
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