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フローラとの生活
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「え? 女子寮にフローラとですか?」
フローラが生まれて3か月後。カルナは団長室に呼び出されていた。目の前にはセオドア団長と副団長のレオがいる。
「ああ。もしアクアリア王国が動いたら修道院では防げないだろう。第二騎士団の女子寮は女性騎士が住んでいるから安心じゃないか? 空き部屋も多いんだ。医療班にフローラを連れてっても構わないし、寮に住んでみたらどうだろう?」
「いいんですか? ありがとうございます……。騎士団の寮なら安心して暮らせます。よろしくお願いします」
「良かった。部屋はすぐ使えるようにしてある。ティモシー、修道院へ行ってシスターに話をつけてくれ。運ぶ荷物もあるだろうから、カルナと一緒にちょっと行ってきてほしい」
「かしこまりました。カルナ、行きましょう」
カルナたちが退出するのを見届け、セオドアとレオは安堵のため息をついた。
「ふぅ、カルナは入寮を断るかもと危惧していたが良かったな。まったく、何から何まで手配したくせに、ライオネル殿下も自分から言えばいいものの……。それにしても、殿下が言ってたウォルトン姉妹を探しているという者が気になるな」
「ええ。姉妹を探しているとなると辺境のケアード家か王族でしょうか? カルナの話だとエリス嬢の妊娠は修道院で発覚したそうなのでフローラのことは知らないはずですが……」
「フローラがエリス嬢の娘であることは隠した方がいいな……。2人の護衛とフローラの世話ができる者をライオネル殿下が手配済みだそうだ。しばらく様子を見よう」
◇◇◇
女子寮は男子寮の横に建てられているが規模は小さい。こじんまりとした3階建ての建物は無駄な飾り気のない素朴な外観だが、中に入ると落ち着いた赤茶色の絨毯や瓶に入った野花が温かく迎えてくれた。初めて来た場所なのに、ほっとする雰囲気だ。
カルナとフローラには、2階にある広めの部屋を割り当てられた。
寮を管理するヘレーネは最近雇われたばかりだそうで、若い頃は乳母をやっていた経験もあるとのこと。フローラのお世話を買って出てくれ、子育て経験がないカルナはほっとした。
それに、女性騎士たちと生活を共にできるのも心強い。困ったことはいつでも相談するようにみんなに声を掛けられ、たくさんの姉ができたような気分だ。
ヘレーネに案内された部屋はすぐに生活できるよう必要なものが全て揃っているだけでなく、ベビーベッドやおもちゃまで用意されていた。
「……ヘレーネさん、いろいろ揃えていただいたようですが、どなたにお礼をしたら良いのでしょうか」
「そんなこと、カルナさんは気にしなくて大丈夫ですよ。食事は隣にある男子寮の1階の食堂で、朝は6時から夜9時まで自由に食べられます。女子寮のキッチンは誰でも使えますが、ここの女性騎士たちはあんまり料理していません。使えるなら使って大丈夫ですよ」
とりあえず夕食までゆっくり過ごすように言われ、カルナは持ってきた荷物を整理することにした。
「フローラ、今日からここが私たちの家だよ。あれ……? クローゼットにも引き出しにもいろいろ入ってる……。フローラの服もいっぱいあるわ」
ベビー服からカルナの普段着、制服やタオル、化粧品まで、あらゆるものが揃っていた。いたせり尽くせりで恐縮するが、誰かが気を配ってくれたことに温かい気持ちにもなる。
(フローラを立派に育てて、仕事でちゃんと恩返ししていこう)
日中、仕事に行く時はフローラをヘレーネさんに預けることにした。
いつの間にか職場にはベビーベッドが用意されていたので、ヘレーネさんが休みの日だけ一緒に出勤する。
今日は一緒に出勤したが、フローラはぐずることがほとんどなく大人しく過ごしている。
新しく看護助手として入ったヒルダはカルナ付きとして、薬草のすり潰しや畑の手入れ、フローラの世話まで何から何まで手伝ってくれた。
グレーの髪に水色の瞳が一見冷たく見えるが、かわいいものが大好きなクールビューティーな女性だ。
「フローラちゃーん、ミルクの時間ですよ~。ヒルダお姉さまが飲ませてあげますからね~」
「おい、ヒルダ。お前はカルナに薬草のすり潰しを指示されてただろう。俺がやる」
「いや、待て。俺は娘がいるミルク飲ませのプロだ。俺に任せなさい」
初めはおっかなびっくりだった騎士たちも、フローラの首が座り、ほとんど泣かないことがわかると皆で可愛がってくれるようになった。大男に囲まれてもフローラは怖がることなくニコニコと笑っている。愛嬌がよく、このままだと人見知りをすることもなさそうだ。
その第二騎士団の騎士たちはカルナたちのサポートもあり、以前比べて怪我が格段に少なくなった。体が強くなったことで疲れにくくなり、訓練の精度が上がって更に強くなる良い循環が生まれていた。
定期的に行われる第一騎士団との対抗戦では常に負けていたのに、とうとう団体戦で勝利をもぎ取った。小さな頃から剣術を学べる環境にあった第一騎士団に比べ、第二騎士団は平民が多く自己流で磨いてきた者も少なくない。
第一騎士団の圧勝が常だった伝統を打ち破り、積み重ねてきた努力が実を結んだことは自信となった。
この頃になると両団の幹部たちは、カルナが来てから第二騎士団が強化されたことに気づいていた。
フローラが生まれて3か月後。カルナは団長室に呼び出されていた。目の前にはセオドア団長と副団長のレオがいる。
「ああ。もしアクアリア王国が動いたら修道院では防げないだろう。第二騎士団の女子寮は女性騎士が住んでいるから安心じゃないか? 空き部屋も多いんだ。医療班にフローラを連れてっても構わないし、寮に住んでみたらどうだろう?」
「いいんですか? ありがとうございます……。騎士団の寮なら安心して暮らせます。よろしくお願いします」
「良かった。部屋はすぐ使えるようにしてある。ティモシー、修道院へ行ってシスターに話をつけてくれ。運ぶ荷物もあるだろうから、カルナと一緒にちょっと行ってきてほしい」
「かしこまりました。カルナ、行きましょう」
カルナたちが退出するのを見届け、セオドアとレオは安堵のため息をついた。
「ふぅ、カルナは入寮を断るかもと危惧していたが良かったな。まったく、何から何まで手配したくせに、ライオネル殿下も自分から言えばいいものの……。それにしても、殿下が言ってたウォルトン姉妹を探しているという者が気になるな」
「ええ。姉妹を探しているとなると辺境のケアード家か王族でしょうか? カルナの話だとエリス嬢の妊娠は修道院で発覚したそうなのでフローラのことは知らないはずですが……」
「フローラがエリス嬢の娘であることは隠した方がいいな……。2人の護衛とフローラの世話ができる者をライオネル殿下が手配済みだそうだ。しばらく様子を見よう」
◇◇◇
女子寮は男子寮の横に建てられているが規模は小さい。こじんまりとした3階建ての建物は無駄な飾り気のない素朴な外観だが、中に入ると落ち着いた赤茶色の絨毯や瓶に入った野花が温かく迎えてくれた。初めて来た場所なのに、ほっとする雰囲気だ。
カルナとフローラには、2階にある広めの部屋を割り当てられた。
寮を管理するヘレーネは最近雇われたばかりだそうで、若い頃は乳母をやっていた経験もあるとのこと。フローラのお世話を買って出てくれ、子育て経験がないカルナはほっとした。
それに、女性騎士たちと生活を共にできるのも心強い。困ったことはいつでも相談するようにみんなに声を掛けられ、たくさんの姉ができたような気分だ。
ヘレーネに案内された部屋はすぐに生活できるよう必要なものが全て揃っているだけでなく、ベビーベッドやおもちゃまで用意されていた。
「……ヘレーネさん、いろいろ揃えていただいたようですが、どなたにお礼をしたら良いのでしょうか」
「そんなこと、カルナさんは気にしなくて大丈夫ですよ。食事は隣にある男子寮の1階の食堂で、朝は6時から夜9時まで自由に食べられます。女子寮のキッチンは誰でも使えますが、ここの女性騎士たちはあんまり料理していません。使えるなら使って大丈夫ですよ」
とりあえず夕食までゆっくり過ごすように言われ、カルナは持ってきた荷物を整理することにした。
「フローラ、今日からここが私たちの家だよ。あれ……? クローゼットにも引き出しにもいろいろ入ってる……。フローラの服もいっぱいあるわ」
ベビー服からカルナの普段着、制服やタオル、化粧品まで、あらゆるものが揃っていた。いたせり尽くせりで恐縮するが、誰かが気を配ってくれたことに温かい気持ちにもなる。
(フローラを立派に育てて、仕事でちゃんと恩返ししていこう)
日中、仕事に行く時はフローラをヘレーネさんに預けることにした。
いつの間にか職場にはベビーベッドが用意されていたので、ヘレーネさんが休みの日だけ一緒に出勤する。
今日は一緒に出勤したが、フローラはぐずることがほとんどなく大人しく過ごしている。
新しく看護助手として入ったヒルダはカルナ付きとして、薬草のすり潰しや畑の手入れ、フローラの世話まで何から何まで手伝ってくれた。
グレーの髪に水色の瞳が一見冷たく見えるが、かわいいものが大好きなクールビューティーな女性だ。
「フローラちゃーん、ミルクの時間ですよ~。ヒルダお姉さまが飲ませてあげますからね~」
「おい、ヒルダ。お前はカルナに薬草のすり潰しを指示されてただろう。俺がやる」
「いや、待て。俺は娘がいるミルク飲ませのプロだ。俺に任せなさい」
初めはおっかなびっくりだった騎士たちも、フローラの首が座り、ほとんど泣かないことがわかると皆で可愛がってくれるようになった。大男に囲まれてもフローラは怖がることなくニコニコと笑っている。愛嬌がよく、このままだと人見知りをすることもなさそうだ。
その第二騎士団の騎士たちはカルナたちのサポートもあり、以前比べて怪我が格段に少なくなった。体が強くなったことで疲れにくくなり、訓練の精度が上がって更に強くなる良い循環が生まれていた。
定期的に行われる第一騎士団との対抗戦では常に負けていたのに、とうとう団体戦で勝利をもぎ取った。小さな頃から剣術を学べる環境にあった第一騎士団に比べ、第二騎士団は平民が多く自己流で磨いてきた者も少なくない。
第一騎士団の圧勝が常だった伝統を打ち破り、積み重ねてきた努力が実を結んだことは自信となった。
この頃になると両団の幹部たちは、カルナが来てから第二騎士団が強化されたことに気づいていた。
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