【完結】【R18】この国で一番美しい母が、地味で平凡な私の処女をこの国で最も美しい男に奪わせようとしているらしい

魯恒凛

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 それから一年後の王城勤め最後の日。

 クロエは備品管理課の先輩たちに送迎会を開かれていた。場所は王城からも近い、商店街にある酒場だ。

「それにしても、クロエかわいくなったわ~」
「あ、ありがとうございます」

 はにかむクロエはベビーブルーとオフホワイトの清楚なワンピースを着ている。ハーフアップにした髪には精巧な銀細工が飾られ、どこかのお嬢様のような上品な雰囲気が漂う。

「一年前までおさげ髪に黒ぶち眼鏡をかけていた、垢抜けない女官だったのにねえ。あの眼鏡、伊達だったんだって? 馴染み過ぎててわからなかったわ」
「うんうん。クロエって田舎から出てきた女の子って感じだったわよね。誰がどう見ても処女だったし」
「せ、先輩、」

 周囲に聞こえないかとクロエがあたふたする。饒舌な先輩の口を閉じようとするが既にアルコールが回っている様子。滑らかな舌が止まらず、クロエはおろおろしていた。

「ほんと。それが今や見てよ、この外見。透明感のある肌にちょっと垂れ目のアンバーの小さな瞳。小さな鼻に小さなおちょぼ口。庇護欲そそる小動物系女子に大変身よ」
「先輩、何気に褒めてませんよね?」

 ジト目で見る本人を無視し、この一年の間のクロエの変化に皆が盛り上がる。

「それよ、それ。まあ、元々構いたくなるタイプではあったんだけどさあ、決して美人ってわけじゃないのに、こう、触れたくなるっていうの? 膝にのせたくなるっていうか……」
「な、なんで膝にのせるんですか!」
「そういうところよ。初心だからついつい揶揄いたくなっちゃうのよね~」

 おちょぼ口をきゅっと尖らせて、斜め下を見ながらクロエが反論する。

「わ、私、……もう、シちゃってるんで、初心なんかじゃないです」
「そんなに真っ赤な顔して、それ言うの?」

 先輩がローズマリーとオリーブオイルのラムラックを取り分けながらクロエを揶揄う。

「それにしても、『青き夜想曲の貴公子』をまさかクロエが落とすなんてねえ。人生って何があるかわからないわ」
「ほんと! 婚約が発表されてもうすぐ半年だったわよね? お互いの両親に合わせるのって気まずくなかった? 私、もうすぐ彼の母国に行って家族に会うんだけど大丈夫かなあ」
「ああ、魔道具課のアリスタ・レッドウッドだったっけ? 警報鳥が縁になるっていうのもすごいわよね~」

 追加ワードの設定に出向いた魔道具課で運命の出会いを果たした二人。お互いドストライクの容姿だったのだとか。

「クロエはお父様がこちらにいらしたんだった?」
「はい、母を迎えに来た時にテオン様ともお会いになられて……」
「クロエのお母様がマダムジョスティーヌだったことにも驚いたけど、お父様はオラクルム神聖国の宰相に就かれたんでしょう? クロエってば貴族のご令嬢だったのね」

 イサク・ガルシアは側近を務めていた王弟が王位に就いたことで、宰相を務めることになったのだ。
 ガルシア伯爵家は侯爵家に、クロエも自動的に侯爵令嬢の肩書を得てしまった。

「だけど、侯爵令嬢の肩書もすぐになくなっちゃうわね。テオン様と結婚したら令嬢じゃなくなっちゃうもの」
「ああ。小侯爵夫人になるんだものね。テオン様が婿入りされるんでしょう?」
「はい。テオン様は三男なので婿入りしてくださることになりました」

 宰相補佐としてその手腕を振るうことが期待されているテオン。元々優秀であることはここヴェルシャンティール王国でも周知されていたのだ。

 その姿を想像して、皆がごくりと喉を鳴らす。

「冷ややかな美貌の鬼畜宰相補佐とかエロくない?」
「眼鏡かけてぐいぐい言葉責めしてほしいわ」
「詰りながら優しい手つきとか最高よね」
「せ、先輩!」

 真っ赤になるクロエだったが、内心で思っていた。

(や、やばい、眼鏡をかける鬼畜なテオン様なんてイメージぴったりすぎる)

「そういえば、ルイジアナ王女殿下の話、聞いた?」
「あのユリシーズ・バーニーと婚約したんでしょう!? 驚いたわ……」
「ルイジアナ殿下、何だかんだで処女だったらしいんだけど。バーニー卿の毒牙にかかって、ドはまりしちゃったんだとか……」

「「「……」」」

「まあ、なんというか……。お互いにそれでいいなら良かったわよね。ね、クロエ」
「は、はい……」

 その時、わっという歓声が上がった。
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