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それから一年後の王城勤め最後の日。
クロエは備品管理課の先輩たちに送迎会を開かれていた。場所は王城からも近い、商店街にある酒場だ。
「それにしても、クロエかわいくなったわ~」
「あ、ありがとうございます」
はにかむクロエはベビーブルーとオフホワイトの清楚なワンピースを着ている。ハーフアップにした髪には精巧な銀細工が飾られ、どこかのお嬢様のような上品な雰囲気が漂う。
「一年前までおさげ髪に黒ぶち眼鏡をかけていた、垢抜けない女官だったのにねえ。あの眼鏡、伊達だったんだって? 馴染み過ぎててわからなかったわ」
「うんうん。クロエって田舎から出てきた女の子って感じだったわよね。誰がどう見ても処女だったし」
「せ、先輩、」
周囲に聞こえないかとクロエがあたふたする。饒舌な先輩の口を閉じようとするが既にアルコールが回っている様子。滑らかな舌が止まらず、クロエはおろおろしていた。
「ほんと。それが今や見てよ、この外見。透明感のある肌にちょっと垂れ目のアンバーの小さな瞳。小さな鼻に小さなおちょぼ口。庇護欲そそる小動物系女子に大変身よ」
「先輩、何気に褒めてませんよね?」
ジト目で見る本人を無視し、この一年の間のクロエの変化に皆が盛り上がる。
「それよ、それ。まあ、元々構いたくなるタイプではあったんだけどさあ、決して美人ってわけじゃないのに、こう、触れたくなるっていうの? 膝にのせたくなるっていうか……」
「な、なんで膝にのせるんですか!」
「そういうところよ。初心だからついつい揶揄いたくなっちゃうのよね~」
おちょぼ口をきゅっと尖らせて、斜め下を見ながらクロエが反論する。
「わ、私、……もう、シちゃってるんで、初心なんかじゃないです」
「そんなに真っ赤な顔して、それ言うの?」
先輩がローズマリーとオリーブオイルのラムラックを取り分けながらクロエを揶揄う。
「それにしても、『青き夜想曲の貴公子』をまさかクロエが落とすなんてねえ。人生って何があるかわからないわ」
「ほんと! 婚約が発表されてもうすぐ半年だったわよね? お互いの両親に合わせるのって気まずくなかった? 私、もうすぐ彼の母国に行って家族に会うんだけど大丈夫かなあ」
「ああ、魔道具課のアリスタ・レッドウッドだったっけ? 警報鳥が縁になるっていうのもすごいわよね~」
追加ワードの設定に出向いた魔道具課で運命の出会いを果たした二人。お互いドストライクの容姿だったのだとか。
「クロエはお父様がこちらにいらしたんだった?」
「はい、母を迎えに来た時にテオン様ともお会いになられて……」
「クロエのお母様がマダムジョスティーヌだったことにも驚いたけど、お父様はオラクルム神聖国の宰相に就かれたんでしょう? クロエってば貴族のご令嬢だったのね」
イサク・ガルシアは側近を務めていた王弟が王位に就いたことで、宰相を務めることになったのだ。
ガルシア伯爵家は侯爵家に、クロエも自動的に侯爵令嬢の肩書を得てしまった。
「だけど、侯爵令嬢の肩書もすぐになくなっちゃうわね。テオン様と結婚したら令嬢じゃなくなっちゃうもの」
「ああ。小侯爵夫人になるんだものね。テオン様が婿入りされるんでしょう?」
「はい。テオン様は三男なので婿入りしてくださることになりました」
宰相補佐としてその手腕を振るうことが期待されているテオン。元々優秀であることはここヴェルシャンティール王国でも周知されていたのだ。
その姿を想像して、皆がごくりと喉を鳴らす。
「冷ややかな美貌の鬼畜宰相補佐とかエロくない?」
「眼鏡かけてぐいぐい言葉責めしてほしいわ」
「詰りながら優しい手つきとか最高よね」
「せ、先輩!」
真っ赤になるクロエだったが、内心で思っていた。
(や、やばい、眼鏡をかける鬼畜なテオン様なんてイメージぴったりすぎる)
「そういえば、ルイジアナ王女殿下の話、聞いた?」
「あのユリシーズ・バーニーと婚約したんでしょう!? 驚いたわ……」
「ルイジアナ殿下、何だかんだで処女だったらしいんだけど。バーニー卿の毒牙にかかって、ドはまりしちゃったんだとか……」
「「「……」」」
「まあ、なんというか……。お互いにそれでいいなら良かったわよね。ね、クロエ」
「は、はい……」
その時、わっという歓声が上がった。
クロエは備品管理課の先輩たちに送迎会を開かれていた。場所は王城からも近い、商店街にある酒場だ。
「それにしても、クロエかわいくなったわ~」
「あ、ありがとうございます」
はにかむクロエはベビーブルーとオフホワイトの清楚なワンピースを着ている。ハーフアップにした髪には精巧な銀細工が飾られ、どこかのお嬢様のような上品な雰囲気が漂う。
「一年前までおさげ髪に黒ぶち眼鏡をかけていた、垢抜けない女官だったのにねえ。あの眼鏡、伊達だったんだって? 馴染み過ぎててわからなかったわ」
「うんうん。クロエって田舎から出てきた女の子って感じだったわよね。誰がどう見ても処女だったし」
「せ、先輩、」
周囲に聞こえないかとクロエがあたふたする。饒舌な先輩の口を閉じようとするが既にアルコールが回っている様子。滑らかな舌が止まらず、クロエはおろおろしていた。
「ほんと。それが今や見てよ、この外見。透明感のある肌にちょっと垂れ目のアンバーの小さな瞳。小さな鼻に小さなおちょぼ口。庇護欲そそる小動物系女子に大変身よ」
「先輩、何気に褒めてませんよね?」
ジト目で見る本人を無視し、この一年の間のクロエの変化に皆が盛り上がる。
「それよ、それ。まあ、元々構いたくなるタイプではあったんだけどさあ、決して美人ってわけじゃないのに、こう、触れたくなるっていうの? 膝にのせたくなるっていうか……」
「な、なんで膝にのせるんですか!」
「そういうところよ。初心だからついつい揶揄いたくなっちゃうのよね~」
おちょぼ口をきゅっと尖らせて、斜め下を見ながらクロエが反論する。
「わ、私、……もう、シちゃってるんで、初心なんかじゃないです」
「そんなに真っ赤な顔して、それ言うの?」
先輩がローズマリーとオリーブオイルのラムラックを取り分けながらクロエを揶揄う。
「それにしても、『青き夜想曲の貴公子』をまさかクロエが落とすなんてねえ。人生って何があるかわからないわ」
「ほんと! 婚約が発表されてもうすぐ半年だったわよね? お互いの両親に合わせるのって気まずくなかった? 私、もうすぐ彼の母国に行って家族に会うんだけど大丈夫かなあ」
「ああ、魔道具課のアリスタ・レッドウッドだったっけ? 警報鳥が縁になるっていうのもすごいわよね~」
追加ワードの設定に出向いた魔道具課で運命の出会いを果たした二人。お互いドストライクの容姿だったのだとか。
「クロエはお父様がこちらにいらしたんだった?」
「はい、母を迎えに来た時にテオン様ともお会いになられて……」
「クロエのお母様がマダムジョスティーヌだったことにも驚いたけど、お父様はオラクルム神聖国の宰相に就かれたんでしょう? クロエってば貴族のご令嬢だったのね」
イサク・ガルシアは側近を務めていた王弟が王位に就いたことで、宰相を務めることになったのだ。
ガルシア伯爵家は侯爵家に、クロエも自動的に侯爵令嬢の肩書を得てしまった。
「だけど、侯爵令嬢の肩書もすぐになくなっちゃうわね。テオン様と結婚したら令嬢じゃなくなっちゃうもの」
「ああ。小侯爵夫人になるんだものね。テオン様が婿入りされるんでしょう?」
「はい。テオン様は三男なので婿入りしてくださることになりました」
宰相補佐としてその手腕を振るうことが期待されているテオン。元々優秀であることはここヴェルシャンティール王国でも周知されていたのだ。
その姿を想像して、皆がごくりと喉を鳴らす。
「冷ややかな美貌の鬼畜宰相補佐とかエロくない?」
「眼鏡かけてぐいぐい言葉責めしてほしいわ」
「詰りながら優しい手つきとか最高よね」
「せ、先輩!」
真っ赤になるクロエだったが、内心で思っていた。
(や、やばい、眼鏡をかける鬼畜なテオン様なんてイメージぴったりすぎる)
「そういえば、ルイジアナ王女殿下の話、聞いた?」
「あのユリシーズ・バーニーと婚約したんでしょう!? 驚いたわ……」
「ルイジアナ殿下、何だかんだで処女だったらしいんだけど。バーニー卿の毒牙にかかって、ドはまりしちゃったんだとか……」
「「「……」」」
「まあ、なんというか……。お互いにそれでいいなら良かったわよね。ね、クロエ」
「は、はい……」
その時、わっという歓声が上がった。
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