【完結】【R18】この国で一番美しい母が、地味で平凡な私の処女をこの国で最も美しい男に奪わせようとしているらしい

魯恒凛

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 パソコン機器の修理や取扱を行うコールセンターでの仕事も、入社三年目を越えて、だいぶ板についた接客と対応をできるようになっていたころから、比例するようにして人付き合いが億劫になっていた。

 だからこそ、恋愛に興味が湧かない。人付き合いの極みである恋愛は、穏やかでい続けたいプライベートを消耗する。

(だって、毎日面倒くさい人とかかわっているんだから。そりゃ、人嫌いにもなるさ……)

 毎日かかってくる大量のクレームやとんちんかんな質問に、腹を立てることすらなくなってきていたのだが、どこかでうっぷんは溜まっていた。

 すでに入社六年目、二十八というお年頃。仕事を頑張るためにそれらを発散させる手段が、一人酒をお気に入りの居酒屋で飲むという、何とも色気のない行動になってしまったのは、万葉かずはが根っからの日本酒好きだったからだ。

 黒色の御影石を基調とした壁がオシャレな雰囲気の、女性一人で入ってもカウンターでゆっくり落ち着いてお酒を飲める店が、万葉のお気に入りの居酒屋だった。

 行きつけとなったその居酒屋で、万葉は三年も前からずっと毎週二回、一人酒を楽しんでいる。必ず月曜日と木曜に行く居酒屋に、今日もラスト一日の金曜日を迎え撃つ準備のために向かった。

「お疲れ様でーす!」

「お。恵ちゃんは、今日は一人酒の息抜きタイムの日かな?」

 隣の席で伸びをしていた、元夜の蝶であった先輩、長谷部桃花はせべももかが話しかけてきて、万葉はにこにこしながら頷いた。

「最近ではお一人様女子という言葉があるらしいの。一人酒じゃ色気ないけど、お一人様と言えば聞こえがいいとテレビで言ってたから」

「って言っても、やってることは同じだろう」

 丸めた資料で頭をぽこんと叩かれて、万葉が振り返ると同期でチューターの新海成史しんかいなりふみが、口をへの字に曲げていた。

「結局は日本酒酒浸り、乙女系マスターに愚痴を聞いてもらうという、酔っぱらいの極み。色気もへったくれもないだろ」

「大きなお世話よ、新海。色気なくても生きて行けるし。成績だって先月は悪くなかったんだし」

 それだけどな、と新海が丸めていた資料を広げた。

「見ろよ。また遠藤に抜かれるぞ?」

 広げられた資料を桃花とともにのぞき込むと、今月の中間報告が上がってきていた。桃花が「わーお」と声を上げる。

 そこには、万葉の後輩である遠藤が、僅差で万葉の成績を抜いている。月初の時点では万葉の方に軍配が上がっていたのだが、現時点では遠藤がリードをしていた。そして、こうなってくると、遠藤がいつも大手で勝ち逃げなのを、万葉も知っていた。

「こうなってくると、また恵ちゃん二位キープじゃない?」

「そーゆーフラグだよな、これは。いつものパターンってやつ。新年一発目は良かったんだ、続けて今月も抜いとかないと、さすがに先輩の威厳もかすむぞ?」

 二人に言われて、万葉はあからさまにむっとして口を尖らせた。

「だって仕方ないじゃん、遠藤の方が明らかにクレーム少ないし」

 万葉は成績がプリントアウトされた資料を見て、大きく落胆した。

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