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 翌日。出勤したテオンの机の上に、一通の手紙とサンドイッチが置かれていた。

 今までも数多の手紙を送られてきたテオンである。普段なら読まずに捨てるし、口にするなんてもってのほか。一服盛られている可能性がある。

 けれど、手紙と一緒に置かれているサンドイッチには既視感があった。チキンやハムチーズが挟んであるサンドイッチはともかく、バナナとベーコンを一緒に挟むのは、クロエぐらいだろう。

「……クロエがここまで来たのか? いや、誰かに頼んだ可能性もあるのか……」

 バスケットに添えられた手紙には、見覚えのある几帳面な文字が書かれていた。


 ──四日後の幻影の日、夕六ツの時刻に家でお待ちしています クロエ──


(四日後なら残り五日で何とか間に合うな……。マーティンとかいうやつが出てこないように、何としてでも俺が……)


 ◇ ◇ ◇


 迎えた幻影の日、テオンはヒヤシンスの花束とワインを手土産にクロエの家を訪れた。

「クロエ、来たよ」
「……テオン様。どうぞ」
「……」

 会う度にメイクが上達し、ヘアアレンジもうまくなっていたクロエ。

 少し手の込んだハーフアップや編み込みが上品で好ましかったのだが、今日は珍しく下ろしている。つるんとした肌に施された控えめなメイク。

 少しだけ足した眉や薄く色づいた頬、血色の良い唇のどれをとっても好ましいとテオンは思ったのだが、いたくクロエは緊張している様子。

 相変わらず、自分に自信がなくて不安なのかと目を細めた時、テオンは部屋の違和感に気づいた。いつもはたくさんの料理が並べられているテーブルに、今日は何も置かれていない。

 そういえば、来るたびにおいしい匂いがしていたのに、今日は料理の匂いがなにもしないではないか。つまり、クロエは料理を作っていないのだ。

「あ……、クロエ。どこか食事をしに行こうか? 東区域にいいお店があるから馬車で行くのもいいし、遠くまで行くのが嫌ならこの辺りで適当に入ってみてもいいね」
「テオン様、……こちらへ」

 ガチガチに緊張したクロエはテオンの袖口を掴むと引っ張り、リビングの横にある寝室へと誘い込んだ。

 前回、気をやったクロエを寝かせたから初めて入ったわけではないが、随分と雰囲気が違う。

 清潔で居心地の良いイメージだったクロエの寝室は、しっかりとカーテンを締められ薄暗く、頼りないランプの灯りがサイドチェストに置かれているだけ。

 クロエは掴んでいたテオンの袖口から手を離すと振り返り、テオンを見上げた。

「……テオン様、……わ、私の純潔をもらってください」

 テオンはまさかクロエから切り出されるとは思わなかったが、本人がそう言ってくれるのならと少しだけ安心した。どんな心境の変化があったのかわからないが、前回気をやったことを気にしているのだろうか。

 それとも、そろそろ母が望むように純潔を捨てて仲直りをしたいのかもしれないし、性にオープンなこの国だ。年齢的にも周囲の話を聞いて好奇心が湧いたのかもしれない。

 いずれにせよ、これで、クロエが意に介さぬ相手に純潔を奪われる心配はない。

「クロエ……、いいの?」

 コクリと頷いたクロエの顔を優しく両手で包み、テオンは上を向かせた。

「……優しくする。何も考えずに、気持ち良くなって」

 目を瞑るクロエの顔にちゅ…ちゅ…とキスの嵐を降らせる。おでこやまぶた、鼻先、頬……そして唇に何度もキスを落とし、わずかに開いた隙間から舌を差し込んだ。

 されるがままのクロエの口腔を丁寧になぞり、歯列から歯の裏まで余すところなく舌を這う。中央で大人しくしている舌をじゅるっと吸うと、クロエも応えるように舌を絡めてきた。

 くちゅくちゅという水音の合間に、クロエの苦し気な吐息が漏れる。

「ふっ……んっ、……あふっ、……んぅ、」

 テオンはワンピースの背中側にある釦をプチプチと外すと、深い口づけをしながら床にすとんと落とした。コルセットの紐を解き、シュミーズ姿のクロエともつれあうようにベッドへ倒れ込む。

仰向けに横たわるクロエを跨ぐと、唇から首へとキスを降らせ、テオンはシュミーズの上から胸をやわやわと揉んだ。
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