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テオンが“愛と知恵の館”を出てしばらく歩いていると、タイミングよくルカスに遭遇した。両腕にどこかの高級娼婦を囲い、上機嫌で歩いている。
「おっ、テオンじゃないか。奇遇だな、なんて言っても俺はいつもこの辺りにいるからそうでもないか。だけどおまえがこの辺りにいることは珍しいな……ってどうした、なんだか暗いぞ」
「……マダムに断りに行ったんだが、最終的に十日以内が期日になった」
「待て待て待て。いろいろすっ飛ばし過ぎだ、よくわからん。う~ん、ああ、あそこに行こう」
そう言うとルカスは渋る高級娼婦たちを帰らせ、テオンを連れてできたばかりのサロンへ向かう。おしゃれな内装の店内は比較的若い年齢層が多く、食事やお酒が楽しめるだけでなく、カードゲームを楽しめる個室もある。
ルカスが慣れた雰囲気で店員に何やら告げると、食事ができる個室が用意された。
「ここなら話せるだろう。で、何があった?」
テオンはこれまでの経緯をルカスに話した。
クロエが気の毒になって会うのをやめたこと。
マダムジョスティーヌの後ろ盾も諦めたこと。
だけど、マダムに呼ばれて行ったところ、結局期日を早められ、それまでにクロエの純潔を奪わなければ他の男を向かわせると言われたこと。
話を聞いたルカスは首を傾げた。
「だけどさあ、なんだってマダムジョスティーヌはクロエちゃんの純潔を奪いたいんだ? おかしくないか? しかも期日があるなんて」
「……ああ。どうも百日毎に男に無理難題を吹っ掛けているのではなさそうだ。クロエが処女でいることに何か問題があるのかもしれない……」
クロエは十六歳の頃から言われ出したと言っていた。
「マダムの娘という肩書きがあるのに、未だ男性経験がないことが気に入らないとか? いや、だけどさあ、俺ら五十枚も金貨を積んでようやくクロエ・ガルシアの情報にたどり着いたじゃないか。そもそも娘がいることを秘匿していたようだし、それはそれで辻褄が合わないよな……」
「ああ……そのあたりのことは何度も考えたけど、結局答えは出ない。それよりも、あと十日しかない」
「テオン・フォンセカなら一日あれば十分だろう」
嫌味っぽくルカスが冷やかすが、テオンは前屈みで俯いたまま、両手で顔を覆う。
「もうやめようと思ったから、ずっと連絡してない。せっかく距離が縮まっていたのに……」
「いいじゃん、明日連絡してそのままどこかに連れ込んだら終わりじゃないか。何を悩んでる?」
「いや、それだとクロエが気の毒じゃないか」
ルカスは驚いた顔で、ぽつりと口にした。
「巨大迷路で済ませるおまえから気の毒なんて言葉が聞けるとはな……」
「いや……、そもそも今までの女たちとは違って」
「違って?」
居心地悪そうなテオンが視線を斜め下に向ける。
「ここ九十日近く、クロエとどう出会って接触するかを考えて、デートを重ねてきたんだ。……こんなに一人の女に時間と労力を使った記憶がないんだし、情が湧くのも当然じゃないか」
「……なんてことだ、『青き夜想曲の貴公子』がなあ……」
「冷やかすな。……そろそろ帰ろう。チェックと馬車の手配を頼んでくるよ」
テオンが出て行った扉を見つめ、ルカスはグラスに残っていたブランデーを煽って独り言ちた。
「テオンやテオン。いつからかクロエちゃんのことばっかり考えて、気になって仕方がない存在になっているんだろう? おまえは否定するだろうけど、世間一般ではそれが恋の始まりだって言われているんだぞ」
(約束の日まで残り十日)
「おっ、テオンじゃないか。奇遇だな、なんて言っても俺はいつもこの辺りにいるからそうでもないか。だけどおまえがこの辺りにいることは珍しいな……ってどうした、なんだか暗いぞ」
「……マダムに断りに行ったんだが、最終的に十日以内が期日になった」
「待て待て待て。いろいろすっ飛ばし過ぎだ、よくわからん。う~ん、ああ、あそこに行こう」
そう言うとルカスは渋る高級娼婦たちを帰らせ、テオンを連れてできたばかりのサロンへ向かう。おしゃれな内装の店内は比較的若い年齢層が多く、食事やお酒が楽しめるだけでなく、カードゲームを楽しめる個室もある。
ルカスが慣れた雰囲気で店員に何やら告げると、食事ができる個室が用意された。
「ここなら話せるだろう。で、何があった?」
テオンはこれまでの経緯をルカスに話した。
クロエが気の毒になって会うのをやめたこと。
マダムジョスティーヌの後ろ盾も諦めたこと。
だけど、マダムに呼ばれて行ったところ、結局期日を早められ、それまでにクロエの純潔を奪わなければ他の男を向かわせると言われたこと。
話を聞いたルカスは首を傾げた。
「だけどさあ、なんだってマダムジョスティーヌはクロエちゃんの純潔を奪いたいんだ? おかしくないか? しかも期日があるなんて」
「……ああ。どうも百日毎に男に無理難題を吹っ掛けているのではなさそうだ。クロエが処女でいることに何か問題があるのかもしれない……」
クロエは十六歳の頃から言われ出したと言っていた。
「マダムの娘という肩書きがあるのに、未だ男性経験がないことが気に入らないとか? いや、だけどさあ、俺ら五十枚も金貨を積んでようやくクロエ・ガルシアの情報にたどり着いたじゃないか。そもそも娘がいることを秘匿していたようだし、それはそれで辻褄が合わないよな……」
「ああ……そのあたりのことは何度も考えたけど、結局答えは出ない。それよりも、あと十日しかない」
「テオン・フォンセカなら一日あれば十分だろう」
嫌味っぽくルカスが冷やかすが、テオンは前屈みで俯いたまま、両手で顔を覆う。
「もうやめようと思ったから、ずっと連絡してない。せっかく距離が縮まっていたのに……」
「いいじゃん、明日連絡してそのままどこかに連れ込んだら終わりじゃないか。何を悩んでる?」
「いや、それだとクロエが気の毒じゃないか」
ルカスは驚いた顔で、ぽつりと口にした。
「巨大迷路で済ませるおまえから気の毒なんて言葉が聞けるとはな……」
「いや……、そもそも今までの女たちとは違って」
「違って?」
居心地悪そうなテオンが視線を斜め下に向ける。
「ここ九十日近く、クロエとどう出会って接触するかを考えて、デートを重ねてきたんだ。……こんなに一人の女に時間と労力を使った記憶がないんだし、情が湧くのも当然じゃないか」
「……なんてことだ、『青き夜想曲の貴公子』がなあ……」
「冷やかすな。……そろそろ帰ろう。チェックと馬車の手配を頼んでくるよ」
テオンが出て行った扉を見つめ、ルカスはグラスに残っていたブランデーを煽って独り言ちた。
「テオンやテオン。いつからかクロエちゃんのことばっかり考えて、気になって仕方がない存在になっているんだろう? おまえは否定するだろうけど、世間一般ではそれが恋の始まりだって言われているんだぞ」
(約束の日まで残り十日)
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