【完結】【R18】この国で一番美しい母が、地味で平凡な私の処女をこの国で最も美しい男に奪わせようとしているらしい

魯恒凛

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(はぁ、気持ち良すぎて失神するなんて……私って淫乱なのかしら……。ううん、きっとテオン様の手練手管がすごすぎるのね。愛人さんとめくるめく夜を過ごしてきたのは伊達じゃないってことか)

 二度目のおうちデートは気づいた時には服を着せられ、ベッドに横たわっていたクロエ。はっとして起きるとテーブルは既に片付けられ、テオンが洗い物をしようと腕まくりをしようとしている所だった。

 平謝りしたところでテオンにも謝られ、その日は解散に。

(……お詫びも兼ねて差し入れを作ったから、持って行ってみよう)

 次の日だと会い過ぎだろうか、二日後では頻繁過ぎだろうかと考えているうちに、デートから四日が経ってしまった。そろそろ行ってもいいだろうと向かった執務棟。

 忙しくて今週は会えないと聞いているし、まだ仕事をしているはず。片手で食べられるサンドイッチなら、夜食にもいいのではないかと用意してきた。
 そぉっとテオンのいる部署を探してみる。キョロキョロしながら向かった文書保管室は、扉が開け放たれていた。

 中を覗くと、テオンが机に向かって真剣な顔をしているが、他の文官は既に帰宅したか、席を立っているようだ。今がチャンスとばかりにテオンを小声で呼んでみる。

「テオン様、テオン様」

 ふっと顔を上げたテオンが入り口にいるクロエに気づき、席を立つ。

 入り口まで来たテオンは扉に手を掛けながらクロエの顔を覗き込んだ。

「どうした? ここまで来るなんて初めてじゃないか?」
「は、はい。あの、今週は忙しくてお会いできないと聞いたので、良かったら差し入れを……」
「ありがとう。来週は会えると思うから」
「はい」

 ちらっと室内を見たクロエは、ためらいがちにテオンを見上げた。

「あの……、もうすぐオラクルム神聖国から使節団が来るからお忙しいんですよね?」
「ん? ああ……そうだね」

 そういうと、テオンはふと手にしていた神聖国辞典をクロエに見せた。

「もしかしたら必要になるかもしれないから、神聖国辞典の写本を作らないといけないんだ。念のため準備をしないといけなくてね。地味な仕事だよ」
「……あの、私、手伝いますよ。備品管理課は定時に終わるので、時間あります」
「そう? それじゃあできたらよろしくね。今日は送れないから明るいうちに帰って」
「はい……ありがとうございます」

 帰っていくクロエの後姿を見送ると、テオンはため息をついた。

 死角になっていた応接セットから、ルカスがへえ、と笑い出す。

「おまえ、よく言うよ! 神聖国の使節団に写本なんて必要ないじゃないか。今どきみんな共通語を話せるぞ? なんでそんなウソついたんだよ」
「今週会えない理由にしたんだよ」
「今週は愛人と会うのか?」

 帰り支度をしながら、テオンがルカスの質問に答える。

「いや、レディたちとはしばらく会ってないな。会う度に体を求めていたら、それ目当てだと思われるだろう? 会えば触れたくなってしまうから、今週は会わない」
「……へ?」
「まあ、来週のためにも今週は自制ってことだな」
「テオン、おまえ今までそんなこと……、はあ、こういうことは意外と本人が気づいてないのか。まあ、いい。テオンだからいいや、なんとでもなる。じゃ、そろそろメシ食いに行こう」
「ああ」


 ◇ ◇ ◇


 翌日。

 仕事終わりに執務棟を尋ねたクロエだったが、テオンの姿はすでになく、他の文官たちもいない。

(お忙しいはずだし、どこかで会議をしているのかしら)

 昨日訪ねた時にテオンが座っていた机まで近づいてみる。整然とした机の隅に『神聖国辞典』が置かれている。その横に写本用の無地の綴り本。おそらく、ここに写本すればよいのだろう。何冊かあるし、一冊でも引き受けたらテオンが楽になるのではとクロエは考えた。

 だけど、テオンのいない文書保管課でクロエが作業をするのもおかしな話。写本用の綴り本を一冊手に取ってみたものの、ここにある『神聖国辞典』を持ち出していいのかわからない。

(『神聖国辞典』は確か流通していない貴重な本なのよね……。そうだ、図書館にもあるかもしれないわ。あそこなら遅くまで開館しているはず)

 クロエは執務棟を出ると、王城にある図書館に向かった。


 神聖国関連の書物があるコーナーで見つけた『神聖国辞典』。

「うそっ! 持ち出し禁止じゃないの!? はっ、大声で、す、すみません……」

 思わず出た言葉が尻つぼみになるなか、クロエは満面の笑みを浮かべていた。

『神聖国辞典』を借りて帰ったその日から、毎日備品管理の仕事が終わると自宅へ直行し、写本を続ける日々。睡眠時間を削り、休日も時間を忘れて書き込むこと、一週間。

 クロエは仕事を終えた後、再び文書管理課を訪ねていた。
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