【完結】【R18】この国で一番美しい母が、地味で平凡な私の処女をこの国で最も美しい男に奪わせようとしているらしい

魯恒凛

文字の大きさ
上 下
26 / 50

26.

しおりを挟む
 その日の夜、ルカスの屋敷ではルカスとテオンがワインを楽しんでいた。

 ルカスはチラチラと幼馴染みの顔色を窺いながら、アンティパストを口に運ぶ。

「ルカス、何か言いたいことでも?」
「……クロエちゃん」
「クロエが何?」

 その言葉を聞き、ルカスは眉を上げ興味深そうにテオンに尋ねる。

「絶世の美女マダムジョスティーヌに俺は会ったことがないけどさ、なんていうか……。クロエちゃんって、なんか印象に残らないよね。普通過ぎるのかな」

 国一番の美人の娘。それがクロエ・ガルシアなわけだが、確かに全く似ていない。強いて似ている箇所を探すなら、金色がかったアンバーの瞳くらいだろうか。顔の造りはどのパーツも小さめだし、スタイルだってメリハリのある体型ではなく、ふわふわとしている。

 華奢な儚い美女というわけでもなく健康的。だからと言って運動神経もない。そして食欲は旺盛。そう考えるとクロエの女性としての長所はどこなのだろう、とテオンは眉根を寄せる。

「……なあ、テオン。おまえ、クロエちゃんの純潔をもらった後、どうすんの? 用は済んだからじゃあサヨウナラって、ちょっとひどくないか?」
「男と女なんてそんなもんだろう。それにこれは目的のためだ」

(そういえば、クロエは母親と連絡を取っていないと言っていたし、マダムジョスティーヌとはあまり仲が良いとはいえないようだ。それこそ、比較されるのを嫌がって家を出たんだろうか)

 それにしても、テオンだって娘と付き合った後にその母親が後ろ盾になるなんて、さすがに悪い噂が流れてもおかしくない。

 だけど、そもそもテオンとクロエとの噂が立たないから、実のところ問題にすらならないだろう。

 あれだけ堂々とクロエを誘っているし、一緒にいる姿だって目撃されているのに、全く噂が流れないのだ。

 誰もかれも、テオンとクロエが本気で付き合っているとは思っておらず、王城内で一緒にいてもなぜかクロエは部下だと思われている。しかも、クロエに至っては周囲に顔すらも覚えられていない。

「クロエは影が薄すぎるな……」
「おまえの隣にいたら大抵そうなるさ。俺を見ろよ。こんだけ派手な赤い髪をしているからなんとか認識してもらってるんだぞ? だから俺が唯一の親友としておまえのそばに残れたんじゃないか」
「よく言うよ。おまえの存在が俺で霞むわけがない」

 国内屈指の資産家であるヴァンターブルック侯爵家の三男で、王太子の複数名いる執務官のひとり。上からの覚えも良く出世街道まっしぐら。顔ヨシ、性格ヨシ、家柄ヨシの全てを兼ね揃えている男だ。

 テオンから見れば国一番の美男子の称号を与えられるより、よほどルカスが羨ましい。

「なあテオン。おまえはクロエちゃんのこと、本当はどう思ってんの?」
「クロエ? そうだな……おどおどしていて自分に自信がなくて、……流されやすい女?」

 ルカスはそうじゃなくて、と呆れる。

「クロエちゃんの性格じゃなくてさ、おまえがどう思っているのかってことだよ。好きなの? 嫌いなの? なんとも思っていないのかって聞いてるんだよ」
「好きか嫌いかで言ったら、嫌いではない。人畜無害だからな」
「確かに。話を聞く限り、クロエちゃんは無害だな。控えめで常識があって、初心で……。じゃあ冷たいテオンに捨てられたクロエちゃんは、俺が慰めてあげるしかないか」
「は?」

 テオンは楽しそうに考え込む幼馴染みの顔をじっと見つめる。

「裏表のある女やヴァンターブルック目当ての女、王太子と繋がりを持ちたくて近寄ってくる女とか、もううんざりなんだよ。その点、クロエちゃんは今どき珍しいくらい初心。いないよ、そんな純情な子。癒し系だな」

 いつものクールな顔を崩さないテオンにルカスがにっこり笑う。

「だから、クロエちゃんの処女をもらってバイバイしたら、そのあと俺が誘っても問題ないよな?」
「問題ないというか……」
「傷心のクロエちゃんを慰める役は俺に任せてくれ。だからテオン。早く済ませてとっととマダムの元へ行け」
「……」

(クロエは確かにいい子だ。だけど、俺はこれからの人生をマダムにかけて出世してやる。リミットまで五十日を切ったし、そろそろ本気を出さないとな)

 今までもたくさんの女を相手にしてきた。だけど心よりも体メインでの付き合いをしてきたから、後腐れももめ事もなかった。ひどく縋られることもなく、断ればただ惜しまれるだけだった。

 だけど、クロエには恋心を利用している自覚はある。

 だからだろうか。

(罪悪感ってやつか……胸がチクっとするし、すっきりしない。ルカスのやつ、冗談なのかわかりづらいが……まあ、ああ言ってるが、クロエを相手にすることはないだろう)

 今までにいなかったタイプのクロエが気にならないかといえば嘘になるが、かと言って恋愛対象になるほど何かに惹かれるわけでもない。

 マダムジョスティーヌの条件がなければ近づくこともなかっただろう。

(きっと、柄にもなくいつもとは違って優男な対応をしているせいだ)

 苦労してクロエに合わせているから、彼女が気になるのだと、テオンは自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

癒しの花嫁は幼馴染の冷徹宰相の執愛を知る

はるみさ
恋愛
伯爵令嬢のメロディアは、公爵で若き宰相のアヴィスへ嫁ぐことになる。幼い頃から婚約者と決まっていた、いわば幼馴染の二人だったが、彼が公爵家を継いでからは多忙ゆえにまともに会うこともできなくなっていた。しかし、王太子が結婚したことで幼い頃からの予定通り二人は結婚することになる。 久しぶりの再会も結婚式も全く嬉しそうではないアヴィスにメロディアは悲しくなるが、初恋を遂げることができた初夜、感極まったメロディアがある奇跡を起こして……?! 幼馴染に初恋一途なメロディアとアヴィスの初恋じれキュンストーリー♪ ※完結まで毎日6話配信予定です。 ※期間限定での公開となります。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...