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舞台メイクでもあそこまではやらない派手な青いアイシャドウに濃いピンクのチーク。厚い唇に憧れているのか、やり過ぎたオーバーリップはまるで腫れ上がっているかのようだ。
どこで買ったのか不思議なほどダサいパープルのワンピースは、売った店員の悪意もあったように思う。そもそもクロエに似合わない上、サイズだって異なる。完全に、馬鹿にされていたのだろう。
連れて歩くにしても、これではただでさえ注目を集めるというのに、悪意ある中傷に晒されることは火を見るよりも明らかだ。
だが、どこに手をつければ見られるようになるのか。
テオンでは手に負えないレベルだった。
(……どうしたらいいんだ? 俺では修正不可能だ……。これはもう、アレクサンドラに任せよう)
フォルセカ家御用達ブティック『オーロラ・グローブ・アパレル』を経営するアレクサンドラ──元アレックスとは付き合いが長い。
学園の騎士科で同期だったアレックスは、テオンが騎士科から文官科へ転科した後疎遠になっていたが、文官として働くようになった後に偶然再会した。
アレクサンドラになった彼女は卓越したセンスがありながらもうまくいっていなかったが、テオンのアドバイスと人脈の紹介で活路を見出したのだ。その後、二度の引越しを行い、その度に店舗を拡大。今では顧客だけで滞りなく運営できているらしい。
そんなアレクサンドラに丸投げした間、テオンはクロエのことを考えていた。
(あのまま家に連れ込むのもアリだったか。似合っていないとあのどぎついパープルのワンピースを脱がせて……メイクを落としてやるからと、一緒に裸で湯に浸かれば任務完了だったな)
だけど。
思い浮かぶのは待ち合わせ場所で、針のむしろのような視線を浴びていたクロエの姿だ。
(……さすがにかわいそうだったな。あんなに注目を浴びたことはなかっただろうに)
多くの人の視線に晒されるのは心地が良いものではない。心が消耗するし、そこに悪意が込められていれば、まるでチーズを下ろすかのように心が表面から削られていく。
だから、まずは着替えをさせるべきだと思ったのだ。
(……まあ、利用させてもらおうと思っているんだし、このくらいは、……な)
ところがどうだ。一時間後に連れてこられたクロエはまるで別人だ。
ダサい田舎娘から、素朴で癒し系の少女に変身を遂げている。おおむね気が強く、自分に自信がある女性しか抱いていないテオンにとって、未知の世界の生物である。
とりあえず、少しずつ距離を縮めようとさりげないボディタッチを試したものの、いちいち反応が初心で楽しい。
口元についたクリームをなめれば卒倒しそうなほど顔を赤らめ、肩を抱いただけで小さな目を見開いて真っ赤。
(処女なのは知っているけど、男に触れられるのも初めてだったんだろうか)
「……くくっ」
「おい、テオン! 一人で思い出し笑いするな」
「ん? あ、あぁ、すまん」
(面白過ぎて、ちょっかいを出してしまった)
なんだかんだ楽しかったと、テオンは自分でも意外に思う。
「テオン、おまえ無駄に能力を発揮してるよな。緻密な計画に基づく丁寧な調査に労力まで惜しまず……仕事よりも本気でやってないか? で? これからどうすんだ?」
「そうだな……」
今日が接触レベル初級だとしたら、上級まで到達しなくてはならない。
次のデートに漕ぎつけて、上級は無理でも、できれば中級までは進みたいところ。初心なクロエなら流されそうなシチュエーションがいいんじゃないだろうか。
「時間が押して定番のデートスポットを諦めたんだ。だから次回はそれで」
「へえ。ちなみに?」
「ロマンティックかつエロティックなスポットだよ。わかるだろう? 海を見ながら夜の公園デートってやつさ」
(約束の日まで残り六十八日)
どこで買ったのか不思議なほどダサいパープルのワンピースは、売った店員の悪意もあったように思う。そもそもクロエに似合わない上、サイズだって異なる。完全に、馬鹿にされていたのだろう。
連れて歩くにしても、これではただでさえ注目を集めるというのに、悪意ある中傷に晒されることは火を見るよりも明らかだ。
だが、どこに手をつければ見られるようになるのか。
テオンでは手に負えないレベルだった。
(……どうしたらいいんだ? 俺では修正不可能だ……。これはもう、アレクサンドラに任せよう)
フォルセカ家御用達ブティック『オーロラ・グローブ・アパレル』を経営するアレクサンドラ──元アレックスとは付き合いが長い。
学園の騎士科で同期だったアレックスは、テオンが騎士科から文官科へ転科した後疎遠になっていたが、文官として働くようになった後に偶然再会した。
アレクサンドラになった彼女は卓越したセンスがありながらもうまくいっていなかったが、テオンのアドバイスと人脈の紹介で活路を見出したのだ。その後、二度の引越しを行い、その度に店舗を拡大。今では顧客だけで滞りなく運営できているらしい。
そんなアレクサンドラに丸投げした間、テオンはクロエのことを考えていた。
(あのまま家に連れ込むのもアリだったか。似合っていないとあのどぎついパープルのワンピースを脱がせて……メイクを落としてやるからと、一緒に裸で湯に浸かれば任務完了だったな)
だけど。
思い浮かぶのは待ち合わせ場所で、針のむしろのような視線を浴びていたクロエの姿だ。
(……さすがにかわいそうだったな。あんなに注目を浴びたことはなかっただろうに)
多くの人の視線に晒されるのは心地が良いものではない。心が消耗するし、そこに悪意が込められていれば、まるでチーズを下ろすかのように心が表面から削られていく。
だから、まずは着替えをさせるべきだと思ったのだ。
(……まあ、利用させてもらおうと思っているんだし、このくらいは、……な)
ところがどうだ。一時間後に連れてこられたクロエはまるで別人だ。
ダサい田舎娘から、素朴で癒し系の少女に変身を遂げている。おおむね気が強く、自分に自信がある女性しか抱いていないテオンにとって、未知の世界の生物である。
とりあえず、少しずつ距離を縮めようとさりげないボディタッチを試したものの、いちいち反応が初心で楽しい。
口元についたクリームをなめれば卒倒しそうなほど顔を赤らめ、肩を抱いただけで小さな目を見開いて真っ赤。
(処女なのは知っているけど、男に触れられるのも初めてだったんだろうか)
「……くくっ」
「おい、テオン! 一人で思い出し笑いするな」
「ん? あ、あぁ、すまん」
(面白過ぎて、ちょっかいを出してしまった)
なんだかんだ楽しかったと、テオンは自分でも意外に思う。
「テオン、おまえ無駄に能力を発揮してるよな。緻密な計画に基づく丁寧な調査に労力まで惜しまず……仕事よりも本気でやってないか? で? これからどうすんだ?」
「そうだな……」
今日が接触レベル初級だとしたら、上級まで到達しなくてはならない。
次のデートに漕ぎつけて、上級は無理でも、できれば中級までは進みたいところ。初心なクロエなら流されそうなシチュエーションがいいんじゃないだろうか。
「時間が押して定番のデートスポットを諦めたんだ。だから次回はそれで」
「へえ。ちなみに?」
「ロマンティックかつエロティックなスポットだよ。わかるだろう? 海を見ながら夜の公園デートってやつさ」
(約束の日まで残り六十八日)
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