18 / 50
18.
しおりを挟む
「テオン。クロエ嬢とのデート、どうだった?」
クロエとデートをした帰り、テオンはその足でルカスの元へ向かった。
王都にあるルカスの邸宅では、赤髪の幼馴染みがテオンの到着を待ちわびていた。応接室に案内すると軽食を用意させ、二人は向かい合ってブランデーを開ける。よく熟成された香りがふわっと香り、ルカスはキャビネットからシガーの箱も取り出した。
シャツの胸元をくつろげたテオンは色気が駄々洩れで、ルカスは邸宅の執事に「女性の使用人は入室させるな」とこっそり伝える。
二人きりの室内、ルカスも貴族らしい仮面を取り外し、首元を緩めながらドサッとソファへ体を沈めた。
「で? さすがに今日は純潔を奪えなかったか。どこまでヤッた?」
「……下品なことを聞くな」
むすっとした顔の美人に、ルカスはおやっと眉を上げる。
「下品もなにも、おまえがやろうとしていること自体が下品じゃないか。どこの世界に母親からの依頼で娘の純潔を奪うやつがいるんだよ? まったく、おまえってやつはサイテーだよ」
「うるさい。この国は貞操観念なんかないんだから関係ない」
「その通りではあるんだが、罪悪感がすごすぎるぞ……」
ルカスはテオンのグラスにブランデーをつぎ足しながら、自分はオリーブとチーズのピクルスを口に入れる。
「なあ、確かあの日から九十九日って言うとオリアの月の一日だよな? 一体何の日なんだ?」
「……クロエの誕生日はもう過ぎたらしいし、調べたけどイベントも特になかった。占星術の類か、マダムの中の俺に対するリミットかも……」
「百日後には権利が他の男に移るってか? それ、あり得るな。おまえみたいなやつに百日ずつ挑戦権を与えているのかもしれないな」
テオンもその線が有力のような気がしている。
おそらく、そこそこ見目のいい男に交換条件を出しながら、娘の処女を奪うように吹っ掛けているのかもしれない。マダムは特殊な性癖を持っているのか、それともクロエが処女じゃなくなることで何かがあるのか。
ブランデーが入ったグラスをくるくると回すテオンに、ルカスはおまえは無駄にかっこいいなと、呟く。
「それよりも、一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は運命だったか? おまえってやつは、よく言うよ。全部仕組んだくせに」
一度目は確かに偶然だったのだが、二度目、三度目はテオンの仕込み。テオンは接点を作るために、クロエの習性を調べ上げていた。
一日のタイムスケジュールを掴むため、出勤時間や備品管理課の仕事の流れ、ランチはどこで何を食べているのか、仕事帰りにはどんな店によく立ち寄るのか。
その結果、おおよそどの店の常連なのか、お昼は決まって手作りのサンドイッチを持参することなどが判明した。
そうとわかれば、だ。
『一度目の偶然』は本当に偶然だった。
次は『二度目の奇跡』を作ればいい。
テオンはクロエが買い物に立ち寄りそうな場所へ張り込みを続け、ようやく出会えたのが五日目。しかも、よりにもよって備品管理課で遭遇したユリシーズ・バーニーに絡まれている場面。まるでヒーローのように登場するという、シナリオ以上の再会ができたのだ。
重い荷物を持っていればそれもありとは思っていたが、「ユリシーズから守るため」という理由が追加。無事にクロエの自宅もわかった。
押し倒してしまっても良かったが、テオンにもプライドがある。無理やり女性を抱いたことがなく、自分から手を出したことはない。いつだって女性のお誘いを受け入れる形なのだ。
まだまだ期限まで時間もあるし、クロエが自分に向かって「抱いてください」と口にするよう、仕向ければいいだけ。ようはクロエが自分に惚れる、もしくは体を求めてくれればいいのだ。
だから、家まで上がったものの、さっと帰ることにした。そのおかげもあって、クロエの信頼を得ることに成功した。
『三度目の運命』は、クロエにお気に入りのバケットを買わせないために、これまた地味な作戦を遂行した。
毎日先回りして、バケットを買い占めるのだ。運よく閑職についているわけで、繁忙期以外は時間に余裕のある職場。クロエの先回りをしてバケットを購入することは、大して難しいことではなかった。
この作戦も功を奏し、「サンドイッチが作れないなら売店にくるはず」という予想が大当たり。
偶然を装って人気のないテラスへ連れ出し、デートへ誘う口実もできた。
(三回もあったのだし、気を許してくれたはず。デートで仕掛けよう)
テオンにしてはだいぶ譲歩した。女性から誘いがあった場合、食事や酒もすっとばして、待ち合わせてすぐにベッドということも珍しくないのだ。
だが、処女だというから段階を踏むことにした。
怖がらせないように徐々に心を開かせ、体を開かせるつもりでここまで来た。次に会うのは四回目。それ以外にも、クロエのために調査や張り込みなど散々時間を使ったのだ。そろそろ「帰りたくない」なんて目を潤ませて見上げてくるんじゃないだろうか?
そう思って向かった待ち合わせ場所。そこで見たクロエのことを、二度見するほどには困惑した。
クロエとデートをした帰り、テオンはその足でルカスの元へ向かった。
王都にあるルカスの邸宅では、赤髪の幼馴染みがテオンの到着を待ちわびていた。応接室に案内すると軽食を用意させ、二人は向かい合ってブランデーを開ける。よく熟成された香りがふわっと香り、ルカスはキャビネットからシガーの箱も取り出した。
シャツの胸元をくつろげたテオンは色気が駄々洩れで、ルカスは邸宅の執事に「女性の使用人は入室させるな」とこっそり伝える。
二人きりの室内、ルカスも貴族らしい仮面を取り外し、首元を緩めながらドサッとソファへ体を沈めた。
「で? さすがに今日は純潔を奪えなかったか。どこまでヤッた?」
「……下品なことを聞くな」
むすっとした顔の美人に、ルカスはおやっと眉を上げる。
「下品もなにも、おまえがやろうとしていること自体が下品じゃないか。どこの世界に母親からの依頼で娘の純潔を奪うやつがいるんだよ? まったく、おまえってやつはサイテーだよ」
「うるさい。この国は貞操観念なんかないんだから関係ない」
「その通りではあるんだが、罪悪感がすごすぎるぞ……」
ルカスはテオンのグラスにブランデーをつぎ足しながら、自分はオリーブとチーズのピクルスを口に入れる。
「なあ、確かあの日から九十九日って言うとオリアの月の一日だよな? 一体何の日なんだ?」
「……クロエの誕生日はもう過ぎたらしいし、調べたけどイベントも特になかった。占星術の類か、マダムの中の俺に対するリミットかも……」
「百日後には権利が他の男に移るってか? それ、あり得るな。おまえみたいなやつに百日ずつ挑戦権を与えているのかもしれないな」
テオンもその線が有力のような気がしている。
おそらく、そこそこ見目のいい男に交換条件を出しながら、娘の処女を奪うように吹っ掛けているのかもしれない。マダムは特殊な性癖を持っているのか、それともクロエが処女じゃなくなることで何かがあるのか。
ブランデーが入ったグラスをくるくると回すテオンに、ルカスはおまえは無駄にかっこいいなと、呟く。
「それよりも、一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は運命だったか? おまえってやつは、よく言うよ。全部仕組んだくせに」
一度目は確かに偶然だったのだが、二度目、三度目はテオンの仕込み。テオンは接点を作るために、クロエの習性を調べ上げていた。
一日のタイムスケジュールを掴むため、出勤時間や備品管理課の仕事の流れ、ランチはどこで何を食べているのか、仕事帰りにはどんな店によく立ち寄るのか。
その結果、おおよそどの店の常連なのか、お昼は決まって手作りのサンドイッチを持参することなどが判明した。
そうとわかれば、だ。
『一度目の偶然』は本当に偶然だった。
次は『二度目の奇跡』を作ればいい。
テオンはクロエが買い物に立ち寄りそうな場所へ張り込みを続け、ようやく出会えたのが五日目。しかも、よりにもよって備品管理課で遭遇したユリシーズ・バーニーに絡まれている場面。まるでヒーローのように登場するという、シナリオ以上の再会ができたのだ。
重い荷物を持っていればそれもありとは思っていたが、「ユリシーズから守るため」という理由が追加。無事にクロエの自宅もわかった。
押し倒してしまっても良かったが、テオンにもプライドがある。無理やり女性を抱いたことがなく、自分から手を出したことはない。いつだって女性のお誘いを受け入れる形なのだ。
まだまだ期限まで時間もあるし、クロエが自分に向かって「抱いてください」と口にするよう、仕向ければいいだけ。ようはクロエが自分に惚れる、もしくは体を求めてくれればいいのだ。
だから、家まで上がったものの、さっと帰ることにした。そのおかげもあって、クロエの信頼を得ることに成功した。
『三度目の運命』は、クロエにお気に入りのバケットを買わせないために、これまた地味な作戦を遂行した。
毎日先回りして、バケットを買い占めるのだ。運よく閑職についているわけで、繁忙期以外は時間に余裕のある職場。クロエの先回りをしてバケットを購入することは、大して難しいことではなかった。
この作戦も功を奏し、「サンドイッチが作れないなら売店にくるはず」という予想が大当たり。
偶然を装って人気のないテラスへ連れ出し、デートへ誘う口実もできた。
(三回もあったのだし、気を許してくれたはず。デートで仕掛けよう)
テオンにしてはだいぶ譲歩した。女性から誘いがあった場合、食事や酒もすっとばして、待ち合わせてすぐにベッドということも珍しくないのだ。
だが、処女だというから段階を踏むことにした。
怖がらせないように徐々に心を開かせ、体を開かせるつもりでここまで来た。次に会うのは四回目。それ以外にも、クロエのために調査や張り込みなど散々時間を使ったのだ。そろそろ「帰りたくない」なんて目を潤ませて見上げてくるんじゃないだろうか?
そう思って向かった待ち合わせ場所。そこで見たクロエのことを、二度見するほどには困惑した。
210
お気に入りに追加
910
あなたにおすすめの小説
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【R18】婚約破棄に失敗したら王子が夜這いにやってきました
ミチル
恋愛
婚約者である第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗してしまったリリー。しばらく王宮で過ごすことになり夜眠っているリリーは、ふと違和感を覚えた。(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……) 次第に浮上する意識に、ベッドの中に誰かがいることに気づいて叫ぼうとしたけれど、口を塞がれてしまった。
リリーのベッドに忍び込んでいたのは婚約破棄しそこなったばかりのルイスだった。そしてルイスはとんでもないこと言い出す。『夜這いに来ただけさ』
R15で連載している『婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません』の【R18】番外になります。3~5話くらいで簡潔予定です。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない
扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!?
セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。
姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。
だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。
――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。
そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。
その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。
ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。
そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。
しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!?
おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ!
◇hotランキング 3位ありがとうございます!
――
◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ
【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった
ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。
あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。
細かいことは気にしないでください!
他サイトにも掲載しています。
注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる