上 下
6 / 50

6.

しおりを挟む
 向かった先、西エリアにある備品管理課には王宮で使用するあらゆる物が揃っている。城外から来る商人とのやり取りや各課への配給、足りない物の手配などが備品管理課の仕事だ。

 倉庫として使われている薄い灰色の棟は出入りが自由。必要な備品を自分で探すことができる。

 その代わり、出口で所属先と持ち出す備品を申告することで在庫管理が行われるため、出入りに関してはチェックが厳しい。

 出入口の横には事務所があり、管理室として数名が書類仕事に追われ、倉庫では備品の補充や在庫の整理が行われている様子。管理室には依頼や配達、足りない備品の相談など、文官から騎士までが出入りして忙しそうだが、倉庫内にも人がまばらにいるようだ。

「テオン、管理室は忙しそうだから、まずは出入りしやすい倉庫の中を探してみよう。情報によるとクロエ・ガルシアはブラウンの髪にアンバーの瞳の女性だ。名札を付けているから会えばわかると思う。俺は倉庫に入ったら右側から見ていくから、おまえは左側から行け」
「ああ。見つかったら教えてくれ」
「今日はとりあえずこっそりな! こっそり見るだけだぞ」

 ルカスと別れたテオンは、薄暗い倉庫の中へ足を踏み入れた。

 電灯も等間隔でついているが、備品を天井近くまで高く積み上げているせいで灯りがうまく行き届いていない。死角になる箇所も多く、テオンは動線の悪さに目を細める。

(一体誰が配置したんだ? もっと効率の良い方法がありそうだが)

 他人の部署へ首を突っ込む必要はないかと、こげ茶色の髪の女性がいないか辺りを見渡しながら先を進むが、倉庫の中は人影もまばらだった。

 ふと、布関連の備品が天井までびっしり詰まった棚の奥に、サラリと金髪が揺れた。何気なく視界に入っただけだったが、声を落として話す内容が耳に届く。

『……おまえみたいな野暮ったい女、誰にも相手にされないだろうからデートしてやるって言ってるんだよ』
『……お、お断りしたはずですし、今は業務中です。……そこを、ど、どいてください』
『はっ! お高く留まりやがって。俺が相手してやろうって言ってるのに何様だよ』

(おまえこそ、何様だよ)

 嫌がる女性を無理やりデートに誘おうとしていることは、誰が聞いても明らか。

 そのまま聞かなかったふりをしても良かったが、女性を助けたお礼にクロエのことを聞いてみようかとふと思う。

 テオンは声がする方へ向かうと、棚の配置が死角を作っていた。

『きゃっ、や、やめてください……!』
『大声出していいのか? ……同僚に見られても知らないぞ』

(クズか)

 足早に進んで角を曲がった先、ぽっかりできた死角では群青の騎士服を着た金髪の男が女の腕を掴み、壁際へ追い込んでいた。

「嫌がる女性を無理やりというのは感心しないな」

 はっとした金髪騎士が女から手を離すのと同時に、女が男の腕の中からするりと抜けた。

 テオンは彼女の腕を引き、その体を自分の背中へ隠す。胸まであるこげ茶色のおさげ髪に黒ぶち眼鏡、その奥のつぶらな瞳が驚きで見開いている。

 まだあどけなさが残る幼い顔立ちの女性は化粧っ気もない。田舎から出てきたばかりの新人といった感じだ。

 金髪騎士は流れるような動きに呆気に取られていたものの、むっとした表情でテオンを咎め始めた。

「おい、部外者が口を挟むな。俺たちはちょっとした痴話げんかをしていただけだ。立ち入らないでもらいたい」
「そうなの?」

 背後にいる女性に聞くと「違います」と消え入りそうな声がする。テオンは騎士の男をじっと見つめた。

「君、騎士道を学んでいないのかい? 文官の私でも知っているよ。嫌がる女性にしつこくまとわりつくことは騎士のすることじゃない。それに」

 テオンは騎士に向かって、貴族らしい完璧で美しい微笑みを浮かべた。

「彼女は今夜の私のお相手だ」
「はあ? 何言ってんだ!? おまえ誰だよ」
「『青き夜想曲の貴公子』……テオン・フォンセカといえばわかるかな?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【R18】婚約破棄に失敗したら王子が夜這いにやってきました

ミチル
恋愛
婚約者である第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗してしまったリリー。しばらく王宮で過ごすことになり夜眠っているリリーは、ふと違和感を覚えた。(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……) 次第に浮上する意識に、ベッドの中に誰かがいることに気づいて叫ぼうとしたけれど、口を塞がれてしまった。 リリーのベッドに忍び込んでいたのは婚約破棄しそこなったばかりのルイスだった。そしてルイスはとんでもないこと言い出す。『夜這いに来ただけさ』 R15で連載している『婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません』の【R18】番外になります。3~5話くらいで簡潔予定です。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

処理中です...